展示・イベント

デコーディング・ワンダー  Decoding Wonders

概要
作家・主催者 インテクスト(現代美術)/金澤韻(言葉)/ 廣田碧(グラフィック/看板)/ 八木良太(現代美術)
期間 2024年6月7日(金)~6月23日(日)
時間 9:00~18:00

レポート

現代美術のキュレーターとしてご活躍されている金澤 韻様とお近づきになるご縁を頂き、とても面白く、素晴らしい展示を開催頂きました。
展示のキーワードは、情報伝達のあり方を多角的に探求した実験的なアプローチにあります。
何故この方向性にしようと?金澤 韻様は、こう仰います。
「聞き取り困難症や、ディスレクシア(文字が読みにくい、読み間違い)脳の特性、そういった事に前から溜めていたものはあったと思います。
分かりにくい物を別の言葉で翻訳する仕事は前からやっていて、アウトサイダーアートを詩人に読んでもらったり、現代美術家の作品を福祉施設の方々に観賞してもらい、その反応を見るような試みを行ったことがあります。
翻訳は、単に言葉から言葉への移し替えではなく、もっと色んな翻訳があり得ると考えていますので、その分野にも興味を持っています」

金澤様の周りに集まったアーティストそれぞれの専門性を生かしながら、情報伝達のあり方や表現方法に対して独自のアプローチを試みた展示をご紹介させて頂きます。

作家紹介
■インテクスト
外山央、真下武久、見増勇介によるアート・ユニット。言語、文字、書法、印刷、読書などに通じる一定の様式を捉えなおし、新たなコミュニケーションの可能性を基軸に展開を続ける。

■金澤 韻
現代美術キュレーター。2000年代初頭より、国内外で多数の展覧会に携わる。本業の傍ら、時折、表現者として創作的テキストで展覧会に参加している。

■廣田 碧
看板屋「看太郎」2代目。平面デザインをさまざまな素材・媒体を用いて空間へ展開。看板の持つメディアとしての可能性を探求する。衰退しつつある看板のペイント技術の普及も行う。

■八木良太
現代美術家。見たいものしか見ない・聞きたいことしか聞かないといった、我々の制限的な知覚システムあるいは態度に対する批判的思考をベースに作品制作を行う。


■金澤 韻
空気の震えが耳介に集められ 外耳道を通り鼓膜をゆらし
耳小骨で増幅されたあと 蝸牛で電気信号になり、その信号は脳で処理され
ことば として認識される
ことば は連なってまとまって
文ラインになり 話ハナシを織り出す
この複雑なプロセスが高速で行われ、わたしたちの会話が成り立つという
(高速すぎませんかびっくり)
だから一部の歯車がちょっと噛み合わなくてもまったく、おかしいとは思わないのです。

【APD/LiD(聴覚情報処理障害/ 聞き取り困難症)】
という障害がある:
さわがしい場所の会話が苦手(わたしも)聞こえているのに意味が取れずに
ざわめく信号の海に沈む
〈でも高速すぎる脳に合わせるほうが無理ゲーではないか〉
ここで想像してみます
息絶えたわたしが別のなにかを肺に満たして よみがえるさまを
吸いこむのは ことば にならない 響き
声にならない 音
見えない 光
既存言語で掬すくえない、豊かなリソースがこの世にはあふれ復デコード号されるのを待っているんじゃないかと


■インテクスト

作品:dimensional wall

さまざまな国の辞書を裁断し、その断面を拡大し、印刷した作品。
辞書はメンバーが渡航した際に入手したものを用いており、日本語、ベトナム語、アラビア語、イタリア語、フランス語、英語など、各言語の断面の違いを視覚的に体験することができます。
文字を異なる次元から観測しているように見える本作は、辞書の本来の役割である「意味を調べる」機能を放棄する一方、その断面から、各言語に固有のフォルムやリズムが立ち現われ、文字がもつ普遍的な特徴を直感的に感じ取ることができます。
組版様式(漢字・縦組)を共有する日本語と中国語の類似性や、植民地主義(コロニアリスム)に由来するインドネシア語とオランダ語の関係性、西欧化されていないアラビア語の特
異性など、断面からは各国の文化的背景が視覚的に立ち現れてきます。
私たちは多くの場合、 言語の間に文字や文法、発音の違いがあることは共有しているが、文章を構成する字間や行間、余白などにも言語の特徴や文化的背景介在することに気づき、そこに含まれるプリミティブな差異を作品から知ることができます。

テキスト(金澤 韻)
辞書の断面はCT画像のよう
ドクターになって
言語の身体を内側から読む
タイ語の血流
オランダ語の骨密度


作品:dimensional wall

テキスト(金澤 韻)
辞書の断面はCT画像のよう
ドクターになって
言語の身体を内側から読む
タイ語の血流
オランダ語の骨密度


作品:ilo
エミール・ルーダーの書籍「 TYPOGRAPHIE」 から図版を引用。
当書に掲載されている「 ilo」 と示された図版には、以下の解説が加えられています。
右の例では、「i」「 l」「 o」 という三つの文字を組んで、明るさがはっきり異なった、大きさの違う白い面を示している。
「i」 と「 l」 の間の空間はせまいが、そこはとても明るく、「o」 の内側の白地はやや弱く、「o」 の上の白地は最も弱くみえる。
白はさまざまに変化し、その原因は黒い面の大きさによっている。
この内容は、隣り合う色面との関係性により、たとえ白・黒の二色であっても目に見えない多くの階調が存在していることを示しています。
これに着目し、「階調が存在するのなら、それを具体的に示すことによって活字を立体的に起こすことができるかもしれない」と想像します。
ルダーは「 i」 と「 l」 の間の空間はとても明るいと言います。この部分をハイライトと捉え、さらに紙面上で最も暗い部分を見つけ出します。そこからグレイスケールの階調を
探り出し、掘り起こしていきます。「光の視点」で数値的に起こされたかたちは、活字本来のフォルムを失い、まるで建築物のように立ち現れます。

テキスト(金澤 韻)
世には文字組が織りなす明暗があるという。
光の目が見た「ilo」は
豊かな起伏のある土地だった


作品:super reflection (WHAT’S THE COLOR OF MIRROR ?)
多面的で変化し続ける「不定」な世界のありようを、独自の視点で現前化させます。
タイトルの「鏡の色は何色か」という問いは、「鏡」が全ての色を持つと同時にどの色でもない、一つに定めることのできない、アンビバレントな状態そのものの魅力を象徴しています。
社会がグローバル化し競争が激化する現代においては、迅速な判断や意思決定が好まれ、それを妨げる「不定」な事柄は忌避の対象となりつつあるように思えます。
そうした中、私たちの世界が本来的に一様ではないことを再確認し、「不定」であることをポジティブに、また軽やかに捉え直すことで、現代の感性と価値観を見直すことを試みます。

テキスト(金澤 韻)
光から生まれたばかりの色をつかまえる
定まらず美しいままに


作品:reading method (Tower of Babel [English]
人類が複数の言語を使うきっかけとなる内容が記された「バベルの塔」の一節を、コンピュータに朗読させます。この作品では、コンピュータは人間が読むように文頭から順に文章を読むわけではなく、字の並びを横断するように読んだり、逆から読んだり、または一行の文字全てを同時に発話するように読みます。
このような読み方を人間が行うことは困難であり、コンピュータによるテキストスピーチの機能を用いてはじめて可能になる読み方です。
人間は意味を理解しながら朗読を行いますが、コンピュータは与えられたルールに基づいて意味内容を理解しないまま朗読を続けます。しかしながら、スキャナが図像を走査する
ように朗読が行われることで、文字の上下左右の並び方や、母音や子音の配置、空白の配置、音が重なりあった時のノイズに至るまでが、言語によって異なるということが、極めて直感的に、音の体験として立ち現われてきます。
本の中の文章は、人間の読み方に対して最適であるようにデザインされていますが、reading method」から奏でられる音声からは、そのデザイン的配慮までもが言語や文化固有のものであることを明らかにし、本来のものとは全く異なる視点から、小説の読書体験を提示します。


■廣田碧

作品:ピンクの湯
文字の意味よりもその佇まいと存在感にフォーカスした作品。《ピンクの湯》は真空状態になったガラス管の中でガスがピンク色に灯ります。
《ガラスの湯》は実は気がつきにくいネオンサインのガラス工芸としての要素に注目した作品です。


作品:回転A 看板
2枚の板からできる「A 看板」と呼ばれるスタンド式の看板の形状があります。
この「A」の文字の形が構造として非常に合理的であり、支持体とそれらを繋ぎ留める形
状でできていることに着目し、さまざまな形の「A」看板を作り出したシリーズの中の一
作品。一筆書きのように一枚の鉄板をひと思いに丸め曲げました。

テキスト(金澤 韻)
ディスレクシアの友達が「特定の文字がいつも反転して見える」という
元はと言えば文字は曲がりくねった線と、点であり
それはつまり絵であり 立体造形でもあるのだと思う


作品:新宿
人間の代わりにメッセージを発信する役割を与えられた「看板」は、太陽、雨、風にさらされながら、長い時間、同じ場所に存在し続けます。
時間の経過、情景、日常。ただの商いのためのものとしての存在を超え、彼らが街に与える感情を考えます。
本作は、3曲のランダムな音楽データを音量や周波数に応じて強烈な光に変換し、看板を人間に戻す試みです。
実際に「看板」が普段聞いている環境の音(フィールドレコーディング)部分のみ、音
が鳴ります。

テキスト(金澤 韻)
メッセージの形はいろいろで(文字、色、音は定番ですが)
たとえば 塩味、サイズ、匂い、凸凹、通気性、濃淡、気配、毛深さ、明滅 等々


■八木良太

作品:Untitled

テキスト(金澤 韻)
9文字の単語6つは混じり合い
解けないパズルが異次元を開く


作品:Ishihara Plate No. 19
健常者にとって識別可能で、色覚異常者には識別不可能な検査表が一般的ですが、石原表4類表は、その関係が逆転した、色覚異常者のみが判別可能な図です。
その既成のイメージを、制作者も含む大多数が「見えない」ことを前提とする絵画とし
て使用しました。

テキスト(金澤 韻)
〈異常ハ正常―正常ハ異常〉
あっちでは、そっちが表でこっちが裏で


作品:Die Verwandlung
グーテンベルクの発明は活版システムというよりも、むしろ鉛・錫・アンチモンによる活字合金の組成でした。
つまり、構造より情報を支える物質そのものの発明に価値があったのです。
本作では、活字組版に熱を加えて溶かし、再度レコードの型に流し込むことで、重量のあるレコードを作成しました。重いレコードは鈍く立ち上がり、慣性により停止するまでに時間がかかります。
組まれた活字とレコードは同一の情報を有していて、素材も全く同じものです。
そこで変化したもの、変化しなかったものとは何だったのでしょうか。

テキスト(金澤 韻)
金属活字が別の文字になるために溶かされて
そこにあったテキストが揮発して空気にまじる
魂だって結局のところ信号であり レコードの溝に刻まれたりもできるのだ


作品:Ringwanderung
星の王子さまのテキストの中から点の記号や文字の点だけを取り出すと、秩序ある文字の並びの中に、不規則な点が浮かびます。
ピリオドの星空を彷徨うなかで、時折テキストが星座のように現れます。それらのテキストは全て王子さまの質問で、回答は最後まで現れません。
『 かんじんなことは、目に見えない』
̶星の王子さま

テキスト(金澤 韻)
本を読んでいるときに感じる静けさは そこが宇宙空間だったからでしたね
ひとつひとつの星に
終わらない 永遠の問いかけがある


作品:生成 AI は月に兎をみるか? / Do generative AI see a rabbit on the moon?
text-to-image の画像生成AI の生成過程は、ノイズの中からノイズを取り除く「逆拡
散過程」により、イメージを具体化しているそうです。
このプロセスは、ヒトが月のクレーターに兎(意味ある形)を見たり、星座を関係付ける行為に似ていると作家は考えました。
本作は、「月の画像を生成する、逆拡散過程を段階的に出力して」というプロンプトをChatGPT(DALL-E)に投げて出力した画像です。


作品:CODE & DECODE
地下東の写真
CODEという単語を繰り返した音声が収録されたCD-R。
記録層面にDECODEという単語が印字してあり、その影響で音声がグリッチされて再生されます。

テキスト(金澤 韻)
word “CODE” は音声になってCD-R サーキットを疾走中
word “DECODE” の印字(凹凸)でブロックされてはツッコける
聴・視・触覚みつどもえ オーロラ輝く銀盤の上


さまざまなメディアやアプローチを通じて、情報伝達に新たな視点をもたらした展示。
視覚、聴覚、知覚を通じて、情報がどのように伝わるか。
身辺にあるさまざまな暗号やメッセージを解読し、当たり前の固定概念は捨て、アンテナをはって思考を柔らかく。
新たな理解と、気付きがあるような展示。
是非、お楽しみ下さい。