展示・イベント

しぶやあけみ人形展「我はこの世の者にあらず」

概要
作家・主催者 しぶやあけみ(伝統工芸の人形作家)
期間 2023年11月13日(月)~11月26日(日)
時間 9:00~18:00
備考 しぶやあけみ人形展「我はこの世の者にあらず」
を開催するにあたり、皆様をお迎えできることを大変嬉しく思います。
作家しぶやあけみが探求し続けた人形の、色あせることのない美しさ、神秘的な世界に魅了され、自然と引き込まれることになるでしょう。

1949年 徳島県生まれ。
幼い頃から日本の伝統的な手工芸に刺激を受けてきました。
大学で学んだ近世文学は、後に彼女の芸術的アプローチに大きな影響を与え、日本の美に対する深い理解は、その感性に根ざした独自の芸術的な作品を生み出す事に繋がったのです。

しぶやあけみの人形の世界に足を踏み入れると、誰もが瞑想的・幻想的な感覚を呼び起こされます。
彼女の人形は熟練した技術だけでなく、自然・歴史・精神性との深い繋がりをも感じるからです。
また、人形師としての作家人生の中で、唯一無二の創造性、技術の伝承に対して数多くの賞を受賞しました。

牡蛎や蛤の粉から作られる「胡粉」による絶妙な白の魅力は、伝統工芸士 故村岡菊治氏に師事し培われました。
「擬人化」の表現には、木目込み、胡粉人形、パーチメントアート、メタルアートなど様々な技法を駆使し、着物の古布などを使い、人形に命を吹き込みました。
彼女の作品は、象徴的に表現することに趣をおき、月・太陽・風・季節などの要素を詩的に表現されています。
人形たちの感動的でどこかなつかしい夢のような表現は、その物語を通して見る人に深い繋がりを感じさせます。
しぶやあけみの妥協を許さない探求心と、ひたむきな努力がどの作品にも表れています。 1年に1体の人形を心を込めて制作し、彼女の磨き抜かれた技と芸術性はその証です。
しぶやあけみの人形の魅力を、この人形展でご堪能下さい。
伝統的な技術、創造された物語、細かな工芸の美しさを感じて下さい。
それぞれの人形が物語を語り、私たちの心の奥底にある感情を呼び起こす。
彼女の夢のような世界の旅に出かけましょう。
卓越した探求心から作り出された人形の世界をご覧ください
しぶやあけみの作品が皆様のお心にインスピレーションを与え、深く刻まれますように。

We are delighted to welcome you to "I Am Not of This World: Akemi Shibuya Dolls Exhibition." Prepare to be captivated by her enchanting world as we delve into the timeless beauty of her dolls.
Akemi Shibuya, born in Tokushima in 1949, developed a deep passion for traditional crafts from an early age. Her education in early modern literature greatly influenced her artistic approach, resulting in creations that reflect her profound understanding of art history.
Stepping into Akemi Shibuya's doll realm, you will be immersed in a world that encourages contemplation and reverie. Her dolls not only showcase technical skill but also a deep connection to nature, history, and spirituality. Throughout her career, she has received numerous awards for her exceptional creations and dedication to teaching.
Akemi Shibuya's fascination with the exquisite whiteness achieved through GOFUN, a shell powder extracted from the ITABO oyster, was cultivated during her studies under master Kikuji Muraoka. Employing various techniques, including GIJINKA and KIMEKOMI, she brings her dolls to life, adorning them with KOFU kimono fabrics, parchment art, and metal embossing.
Symbolism plays a significant role in her work, with elements like the moon, sun, wind, and seasons serving as poetic subjects. Her dolls reveal dreamlike universes infused with emotions and historical references, inspiring profound connections through storytelling.
Shibuya's meticulous nature and unwavering dedication are evident in every work. With limited production of approximately one doll per year, she invests her undivided attention into each masterpiece, ensuring the highest level of art and craftsmanship.
Immerse yourself in the enchantment of Akemi Shibuya's doll exhibition. Experience the fusion of traditional techniques, personal narratives, and meticulous attention to detail. Embark on a journey through her dreamlike universe, where each doll tells a story and evokes emotions deep within our hearts.
Thank you for joining us on this extraordinary exploration of Akemi Shibuya's dolls. May her creations inspire and leave an indelible impression on your souls.

レポート

イタリア人のYulia Rivaが、昨年の7月に他界された人形作家 しぶやあけみさんと交わした約束を必ず実現させようと心に誓い、今回の展示が開かれました。
実業家であるYuliaさんですが、アートの展示に関わる一面も持ち、2022年には猫をテーマにした日本人38名の写真家たちの写真展「NEKO PROJECT」をイタリアで開催されています。


タイトル「満月 かぐや姫」 制作1997年。
ミラノの美術展で開かれていた合同展にしぶやさんも出展されていた時、Yuliaさんはそこで初めてしぶやさんの作品と出会います。
町家の1階に展示されている月の童話「かぐや姫」の作品をミラノで見た瞬間にこう感じたそうです。
「時が止まった様でした。魔法にかかった様な強い引力を感じ、かぐや姫が私を別世界へ引きずり込むような感覚におちいりました」
そこからYuliaさんはしぶやさんとコンタクトを取ろうと、周りの力を借りて動き出します。

2021年に初めて、しぶやさんと会って一緒に展示をしようとなったそうですが、会場は京都で探されてたんですか?それとも京都以外でも?
コロナで帰国できなくなり、3ヶ月ほど日本に住んでいました。
2021年1月にThe Terminal KYOTOの展示「Art Fair The Terminal」を見に来て、この場所はその時に初めて知りました。

そういえば、それから何回も喫茶でお茶しに来て頂いていましたね。
Yuliaさんはいつも、次は〇〇へ行くと言って、自分はジプシーだと言っていましたね。
その滞在の間に日本中のアートスペースをほとんど見て周りました。そして初めて、あけみにあった時に
「京都にすごくいい場所があるの。あなたの展示をThe Terminal KYOTOでしましょう!」
とアイデアを言うと、あけみもすぐに「イエス!」と言ってくれました。
あけみはThe Terminal KYOTOの情報をホームページで調べてたんだけど、こう言いました。
「でも今はコロナなんだよ。横浜から京都に移動するのは凄く怖い。だからコロナが明けるまで、ちょっと待って」と。


しぶやさんは喘息を持っておられ、喘息の人がコロナにかかったら本当に危ないと言われていたので、その頃はナーバスになってました。と、しぶやさんのお嬢様は仰っています。
そしてコロナが世の中的に落ち着きを見せますが、去年2022の7月、癌の病気が分かってからわずか2週間後に、しぶやさんは他界されました。

その年の10月にYuliaさんは再び町家に来て「あけみが亡くなった時に、あけみの展示をターミナルでするんだと、心に誓ったの。」
と涙を流しながら、展示をここでしたいと話されました。

しぶやあけみさんは、どんな方だったのか。お嬢様お2人に伺いました。
2023年2月に、東京銀座で回顧展をしました。横浜に住んでたけど、展示するなら銀座。
銀座は元々好きで、ショッピングも好きでしたし、色々集結する場所ですから。
毎年していた「瑠璃の会」も銀座協会という所でやっていたので馴染があるというか。
展示するんだったら「銀座のギャラリーでしたい」銀座が好きな母でした。

お嬢様が子供の頃から、しぶやさんは人形作家として活動されてたんですか?
そうですねー。
関東で手芸用品の大きなカルチャスクール(ユザワヤ)があるんですけど、そこで30年以上先生をしていて。
お弟子さんみたいな感じで母に憧れて下に就かれる方もいたり。
(次女の田島さんも人形制作をされています。母であり、師匠と弟子の関係で、教室は次女の田島さんが継がれています)

お雛様とかによくあるタイプで型がある木目込み人形は、私達が小さい頃からしていましたが、何もない所、ゼロから作る木の粉(桐塑(とうそ))創作活動は20年間位かな。
作るの早いんですよ。手が起用でビーズ入りの手袋を編んだり。ほんと寝ない人でした。

お母さんと言えば、常に何か作ってる人だったんですね。
ほんとそんな感じです。
完全に夜型で3時、4時にLINEしても「あいよ~」て感じで返事ありましたよ。
時間軸にとらわれてない感じの人でしたね。

母が亡くなってまだ家の中が片付いてませんが、ありとあらゆる色んな物が出てくるんです。
何かしたくて買った沢山の道具とか(だいたい同じものを2、3個買ってる)
絵の具やら、色鉛筆、彫刻刀やら、スケッチブックも。
スケッチブックは大体3ページ書いた後は白紙で、それが何冊も出てくるんですよ。多分、手を伸ばした所に物がないと嫌なんでしょうね。

次から次へと創作意欲がわいていらっしゃる感じが伝わってきます
ほんと情熱的でしたよ。家事とかに興味なかったですから。家の事よりも制作の方が好き。ていう人でした。
「空腹では死ぬけど、ホコリで人は死なない」てね(笑)
私たちが小さい頃は、お弁当とか色々してくれていましたが、家事は好きじゃないと言ってましたね。
夜に制作をやって、朝お弁当まで作って寝る。ていう感じでしたよ。次あれをやりたい、これをやりたい。そんな人でしたねー。

素材は何ですか?
ボディは「桐塑(とうそ)」です。人形制作に使用するための桐の木の粉を固めたものになります。
あとは最近、陶器のような見た目に仕上がる「石塑粘土」を使ったり。
なので元々は伝統工芸 胡粉人形をやっていて。あとは色んな事とあわせた創作と。

Yuliaさんは、海外で作品に出会ったと聞きましたが、発表は勢力的に海外でもされてたんですか?
こういう事をしていると、作品展を企画してる方から、海外で出展しませんか?と、何処からか見つけてくれて声がかかるんですね。
それで一時期、10年程はよくミラノやドイツに出してましたね。それをユリアさんが見てくれて、これを作ったのは誰かを探して下さって。
京都の展示、生きてたらすごく喜んでただろうと思います(涙)
見せてあげたかったなぁ。て思います。うまくいかないですね。でも銀座の回顧展、そして京都まできたので母も喜んでくれると思います。

どんなお人柄でしたか?
情が深くて明るくて面白い人でしたね。好奇心が旺盛で楽しい事が好き。
作品もそうですが、歴史を知らないと出来ない事とか、でも近代的な技術も取り入れたりとか。そういう意味では幅広いというか、視野が広いというか。
興味ある事に関しては、突き詰めるタイプでしたね。欲しい青色があったら、世の中に売っている青を全部試してみるタイプでした。
優しい雰囲気より情熱的で明るい。声も大きいしね(笑)
美術館で私とヒソヒソ話しているのに、会場の人が速攻「静かにして下さい」て言いに来て。
作品の事を話してるのに「なんで怒られなきゃいけないの?」てよく2人で言ってました(笑)

1年に1回、銀座で開かれる人形展「瑠璃の会」に向けて、1年に 1体を制作されるとの事でしたが、工程的に時間がかかるんですか?
それに出すのに合わせて、新作を作ってましたね。
1年ずっと同じ作品に関わっているのじゃなくて、色々やるんですよ。
何でもアイデアが一番大事で、これをやるぞ。て決まる迄が長いんです。
集中して作るのは2、3ヵ月でも、その前段階の妄想とか、どういう風に作るとか、何の素材で作るとか、そいう方に時間をかけるんでね。
搬入前日は寝てない。いつもギッリギリ。寝ないで会場に来てましたよ。

展示の準備で?
作品が出来上がらないから。最後まで手を入れているタイプです。決して早々に出来上がる事は一回もなかったです(笑)
まだ乾いてないとか。会場いってからくっつけよとか(笑) (えー!!)
ほんと、そんな感じだったんですー。
構想がほぼで、手を出し始めギリギリ。ほんと前日まで作ってるタイプです。
で、飾ってから、やっぱこれがこうだったぁ。とか言ってましたよ。

先ほど、素材を何にしよう?とありましたけど、作品によって違うんですか?
違います。色んなものを合わせる事が得意と言うか。
自分のイメージにあった物を作るには、何をどう使えばいいか。
作り方の基本は同じなんですけど、それに例えば和紙を付けて見ようか。その和紙はどれにしようか。
今回は金属の工程を作ってみようとか。青色使うなら全部の青を試すとか、刺繍をしてみようか。それを貼っ着けようか。
そいう風にどれだけ自分のイメージに合った物を作れるかに拘っていましたね。
実現のために何がいいか。全然妥協はなかったです。

作品見させて頂くのが楽しみです。
作品見てると、このラインにめっちゃ拘ったんだろうな。て思います。作品を置く角度とかも。
母がここにいたら「いや、そうじゃない」「これとこれは並べないで」とか言ってたかも(笑)
でも今回はYuliaさんが見せたい展示をして下さってるのでね。
Yuliaさんの想いがありがたいです(涙)。
実家で箱に入れて保管するしかないので、飾って頂いたり、Yuliaさんがお持ち頂いた方が人形も喜ぶと思います。

今もきっと、上から見られてますね
そうそう、たぶん(笑)
長患いも、ボケも嫌だと言っていたので、まぁ望んだ去り方だったかもしれませんね。
「らしいな」ていう感じです。

では作りかけの作品もあったんじゃないですか?
あります、あります! ボディだけのが沢山でてきましたよ。
今回、一つ持ってきました。
時間をみて、私がまたそれを作っていこうかと思いますけどね。
私は瑠璃の会も一緒にしていたので、亡くなったからさぼると怒られそうだから、頑張ります。

タイトル「不明」

この部屋だけ照明が暗い演出ですが、Yuliaさんはこの作品にどういうインスピレーションを持たれたんですか?
ミステリアス。
彼女の人生の中で、2人の母であり、妻であり、アーティストであり。いくつかの顔を持っている。
それぞれのシーンに、それぞれのマスクを付けていたと思う。それが彼女の人生。
色んなマスクを持ってるけど、マスクをとった本当のあけみなのかも?
みんなが見た印象で、それを投影する見る人によって、仮面が違うのを感じた。

展示したそれぞれの置き場所が、まるでドールたちの元々の家だったみたいにピッタリでしょ!

展示をして、あけみさんに何か伝えたいことありますか?
あけみは助けてくれた。
彼女の周りには沢山、いい人がいる。その人達がとても助けてくれてた(町家スタッフ、搬入お手伝いの方々。姉妹・・)
彼女は有名になりたかった。多くの人々がここを訪れてくれて、彼女の作品を見てくれて、彼女は幸せだと思う。
この展示が出来たこと、色んな人に会えたこと。私はとても幸せだし。
あけみ、ありがとう。

           

Yuliaさんにとって芸術とは「誰かの支えになる様な、見てくれる方の心に深く残る様なもの。誰かの心に少しだけ風を起こすような人でありたい」

 

会期は26日(日)迄。是非いらして下さい。