展示・イベント
室礼 SHITSURAI -OfferingsⅦ- 工芸的生活のすすめ
- 概要
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作家・主催者 【写真】ジョン・アイナーセン、シュヴァーブ・トム、レイン・ディコ【木工】中川 周士【金網】辻 徹【朝日焼】松林 豊斎 【茶筒】八木 隆裕【明かり】坂本尚世 期間 2021年9月11日(日)~10月17日(日) 時間 9:00~18:00
レポート
写真と工芸の室礼で皆さまをお迎えする室礼展。
今年はサブタイトルに「工芸的生活のすすめ」とあり、見る展示だけでなく、日常生活に密接な「食」を通して工芸品に触れて頂く体験型を取り入れて行われました。
また、外出が拒まれる今。webからアクセスしてより多くの方に展示をご覧頂けるVRツアーも取り入れ、バーチャルを通してリアルへと表現するテクノロジーを融合させた初の試みも実施致しました。
https://eur.4dkankan.com/spc.html?m=eur-oW3LLo4Kw&lang=en
今回は3人の写真家と、5人の工芸作家(木工・茶筒・陶芸・金網・灯り)による展示です。
写真家レイン・ディコは、典型的なうなぎの寝床の町家を生かし、横長一列に作品を配置。
上から作品をじっくり見て頂く作品は、仁和寺や東福寺、佛光寺など、寺院の土壁を写したものです。
また、レイン・ディコは友ヶ島で撮った海と石の写真を防空壕に展示。
長い年月、海にもまれた石はやがて角が取れ丸みをおび、へこみ、形を変えて存在します。
ジョン・アイナーセンは、大きなパネル作品6点。
咲き誇る蓮の花と、枯れゆく蓮の儚い美しさ。
足元の水溜り。
そのどれもが時間と共に姿を変えていきます。
シュヴァーブ・トムの二階 立方体の作品は、各面にマッピングされたパノラマ写真から構成されています。
360度写真なので側面だけでなく、上面下面にも写真を見る事が出来、写真彫刻ともいえます。
土間には、軸に吊り下げられた2つの石がゆっくりと砂と砂利の上を時計回りに回転し続ける装置を作成。
絶え間なく砂の一部の削っていき、と同時に、新たに形成し続けています。
その動作そのものが重要なモチーフになっている作品です。
工芸では木工芸の中川周士と、朝日焼の松林豊斎のコラボ作品が土間にございました。
十六世豊斎としての代表的な作風である月白釉流シ。
月白釉という晴れ渡る空のような美しい水色と、プリミティブな土の表情を対比させ、
白い化粧土でその調和を図る現代的な「綺麗寂び」の構築を目指した作品です。
そして中川周士の木の机には、実はIHが下に仕込まれており、湯沸かし桶からは常に湯気が上がっていました。
お茶をたてるIH立礼台が2人のコラボレーションにより生まれました。
灯り作家 坂本尚世は、吉野檜を主に使ってランプを制作されています。
小上がりのランプは今回の展示に向け作られたもので、素材は吉野ひのき柾目材を薄くスライスして貼り合わせています。
「前からあった様に」空間になじむといいな、と思いながら作って下さいました。
日が下りれば優しい灯りが町家を包み、日中と夕刻では違う雰囲気の町家を演出して下さいました。
開花堂の八木隆裕のリメイク缶は、
アメリカで見つけたHETRSEY’Sのチョコレートの缶(工業製の缶)
京都で見つけた、のりの缶(工業製の缶)
ダンデライオンチョコレートの缶(工業製の缶)
60〜80年前のブリキの茶筒などをバラし、今のものとして作り出されたものが床の間に並びました。
工芸と工業の楽しさの交点でもあり、素材としては唯一無二の物でありながら、過去と未来を繋いでいる。
楽しく使ってもらいながら時々は作る事、使う事ってなんだろう。そんな風に思ってもらえたら。という作家の思いから生まれた作品です。
アーティストの方の筆入れとして使われていた、ゆしまの缶をリメイクし先方に送り返したところ、リメイク(ペインティング)されて返ってきたという、そこにもストーリーが生まれていますね。
真新しい工芸品は、見た目がとても美しいです。
しかし新しいだけが美しいでしょうか?
時間が経つと色の変化は見られるでしょう。しかしその変化も愛着へと変わり、使い手の癖が工芸品に伝わって、劣化ではなく、逆に使い心地がいい物へと育てる様に思います。
不具合が生じれば、職人を通して修理ができ、また使い続けて後世に受け継がれていきます。
また、工芸だけでなく、出展された3人の写真家の作品においても「時間」が大きく関わっています。
寺院の土壁、海にもまれる石、花の生きる姿、時を刻むもの。
「工芸的生活のすすめ」とタイトルにありますが、工芸作品と写真作品において「時間の経過」というワードが共通していた展示だったと思います。
また、それらの作品が歴史を積み重ねてきた町家にある事も、何だかとても自然で全てが一つの線に繋がっていたと感じています。