展示・イベント

室礼 SHITSURAI ~Offerings~ Ⅵ

概要
作家・主催者 中川 周士、ジョン・アイナーセン、エバレット・ブラウン、シュヴァーブ・トム、辻 徹、 八木 隆裕、松林 豊斎|Shuji Nakagawa, John Einarsen, Everett Kennedy Brown, Tomas Svab, Toru Tsuji, Takahiro Yagi, Hosai Matsubayashi
期間 2020年10月3日(土)~11月1日(日)
時間 9:00~18:00
備考 キュレーター:中川 周士、ジョン・アイナーセン
写真:ジョン・アイナーセン、エバレット・ブラウン、シュヴァーブ・トム
金網:辻 徹
茶筒:八木 隆裕
朝日焼:松林 豊斎
木工芸:中川 周士
Curator:Shuji Nakagawa, John Einarsen
Photography: John Einarsen, Everett Kennedy Brown, Tomas Svab
Wire crafts: Tsuji
Tea caddy : Yagi
Ceramics:Hosai Matsubayashi
Woodwork:Shuji Nakagawa

レポート

6回目を迎えた室礼展。
第1回目からご参加頂いている中川周士さん(木工芸)と、ジョン・アイナーセンさん(写真)を中心に新たな作家を加え、今年は7名の作家で繰り広げられました。

今年のテーマは「未出現の宇宙」

未出現の宇宙って?

私たちが作品を目にする機会は、お店で販売されているお品や、個展に足を運んだ時、ネット画像で検索する時などが多いと思います。
それらは、いわゆる値段がつけられる完成品がほとんどだと思います。
しかし一方で、世に出せる完成品が出来上がる迄に、工房では制作時にどうしても生じる廃材もまた同時に生まれています。
木を使う作品を例にあげるとカンナ屑です。木屑で一杯になるゴミ袋が何袋もできます。
そういった廃材は私たちの目に留まることなく工房で処理されるわけですが、作品にならないそれらにも素材の美しさがあり、作品の裏側にある世界と、作家の想いを形にした室礼をご覧頂きました。


■中川周士:木工芸
1968年京都生まれ
父、中川清司(人間国宝 木工芸)に師事。三代目の中川周士は2003年に滋賀県大津市に「中川木工芸 比良工房」を設立する。

カンナ屑を使った、木の温もりを感じるランプシェード。
坪庭から入る風でゆっくりと回転し、壁に映し出される動く影も美しい作品。
坪庭縁側にかけられたシェード。角度により庭の見え方も違ってきます。
庭の景観を決して遮ることのない絶妙な視界。雨の日には檜の香りが増していました。

 


■松林豊斎:陶芸
1980年京都生まれ
2016年に朝日焼十六世豊斎を襲名。

登り窯の中を再現しています。一番上にある器が完成品です。
に対し、下に段にある数個は、同じ窯で焼いても器としては魅力的な色味が出なく失敗作。作品として選ばれなかったそれらの器は、割るだけの存在になっていく。

割った器の破片と、空き瓶などの廃材を一緒に集めて電気窯で5、6回焼いた作品。

登り窯は不安定な一面をもつだけに失敗も多く、焼き上がる内の1割ほどしか世に出せない。
残り9割、環境面においてもゴミを作り出している重たい気持ちにもなり、割った破片を何かの形に出来ないか。
作るがゆえに廃棄物を生んでしまう「負」の部分。作家として物を作っていく責任「正(ポジティブ)」の部分。
葛藤がある中で、その両方を兼ね備えながら自身の中に落とし込み、ものづくりを続けていかなくてはいけない。
今展示で「負」の部分を作品化する事で、またポジティブに制作をしていきたいと仰っておられます。

 


■八木隆裕:茶筒
1974年京都生まれ
1875年(明治8年)に創業した茶筒の老舗「開化堂」の6代目。

時代と共に大量生産化された缶。使用済の缶は躊躇なく捨てる事が当たり前になっています。
八木さんは、やがて捨てられていく缶を、作り続ける事に疑問を抱かれます。
家にある想いでの缶。お気に入りの缶。見た目が可愛い缶。
展示では、それらを使った茶筒のリメイク作品が並びました。

リメイク作品を作るきっかけは、約5年前。海苔で有名な「山本山」の缶が転がっていたのを見つけた時に、これで何かを作ってみたくなったそうです。
古びて錆びもある、味がある缶。それを板状にして茶筒を作られました。
可愛い。かっこいい。綺麗。そんなお気に入りの缶を開花堂の技術で作った茶筒なら100年後、二代三代と受け継がれて使ってもらえる缶になるんじゃないか。
その様な想いから、開化堂らしさを残し、世界に一つだけのリメイク茶筒が誕生しました。

実験的な試みも行われました。
入口に設置された消毒液の敷台。奥庭には4㎏の巨大茶筒。
会期中、終始設置することで、どんな美しさが見えるのだろう?こぼれたジェル。庭の茶筒は雨風にうたれたピカピカだった銅の色が、どんな変化をもたらすのだろう?


■辻徹:金網
1981年京都生まれ
1985年創業「金網つじ」の2代目。

普段は金網で、料理道具やインテリアを作成されています。
地道に全て手作業で編みだす匠の技。伝統を守りながらも新しいものづくりに挑戦していらっしゃいます。
二階縁側は、工房の中でしか目にすることが出来ない網掛けの土台を展示。
土台の角には58とマジックで書かてあり、その段階で使用している本数を表しているのだと思います。
完成された物だけが美しいのではなく、精密に編まれた作りかけの技術こそも本当に美しい姿です。
一階坪庭には、硬いチタンの金網で、小さな石を包み込んだ作品。
チタンだからこそ石を持ち上げた状態で、自立出来るそうです。
クラゲの様な、宇宙に存在する未確認物体の様な、キノコのような。。。
よく見ると、石を包む金網にも菊模様で編まれていました。


■ジョン・アイナーセン:写真
30年間にわたって発行され続けている英語の季刊雑誌「京都ジャーナル」の創立編集者。

ジョン・アイナーセンの写真と、メヘタ・ヒリシャがデザインを手がけた作品。
それはbookの様であり、屏風の様にも見える。


■エバレット・ブラウン:写真
アメリカ生まれ。88年から日本に永住。
国内の媒体を始め、「ナショナル・ジオグラフィック」「GEO」「家庭画報INTERNATIONAL」などに広く作品を寄せる。

二階茶室の床の間に、蓮の蕾を「湿板写真」で納めた掛け軸が飾られました。
生け花の代わりに、花の掛け軸で演出された面白さ。
幕末の頃の技法でシャッタースピードが遅く、蓮の細長い茎は風ですぐに動いてしまう為、ぶれない写真を撮るのに大変苦労されたそうです。
今回エバレットは、展示に関わる工芸作家4名の工房に訪れ、工房の魅力的な場所を撮影。一階入り口の板間に展示されました。


■シュヴァーブ・トム:写真
チェコ・プラハに生まれる。
幼少時に家族と共にカナダへ移民後、様々な町を経て、現在は拠点を日本へ。
現在は、美術作品や展覧会の写真家として、同時に自身の探求の領域として写真作家活動を展開している。

土間や室内、数点に渡りトムさんの作品は見られます。全ての作品がインクジェットを使わずに、古典写真技法を現代的な表現として進化させた作品です。
一階小上がりの作品はカメラを使わず、ネガのない状態で撮影する技法「フォトグラム」によるものです。
展示1 日前の搬入時に中川周士の木工作品を見て、これを使った作品を作りたいと急遽持ち帰られたのです。
作品を紙に置き、170年前の独特の方法と15分間の露出で影を記録。

土間や茶室などには、「サイアノタイプ(日光写真)」による作品。
紙に薬品を塗り乾燥させる、フィルムを密着させ露光、水で薬液を洗い流す、漂白剤の入った液体に漬けて浸す、再度水で洗う
といった何工程も行って出来た作品です。
展示を見にいらした方が、過去にこの技法に携わった経験があるそうで「日光写真でこんな綺麗に出るんや」と感心されていました。
とても鮮やかなブルー。この顔料はヨーロッパから入ってきたそうですが、葛飾北斎も浮世絵に使用したプリシアンブルー(紺青色)だそうです。

パネルを貼り合わせた様な作品、こちらはサイアノタイプのブルーの写真を制作した後に、色を抜く事や染料を加えるなど、更に何工程も加えて現わされた色味です。

二階天高の間には、ネガと実験的に焼き付けたばかりのプリント。
宝石の様な、鉱物の様にも見える物は、サイアノタイプの薬品を調合する際に不要となった固まりです。紫外線に当てると溶ける?消える?無くなるそうですよ。

今回トムがされた技法は同じように露出しても、部屋の湿度や、紙の種類によって変化してしまい時間との勝負だったり、何回も失敗を重ねられたそうです。
2つの技法は大昔に見いだされた方法ですが、それを現代で試み、新しい可能性を私たちに教えてくれました。写真表現への挑戦を続けるトムさん。
今回の作品に向け、私たちが目にすることがない制作中の様子を少しだけご紹介↓

【フォトグラム】

【サイアノタイプ】


それぞれの作家が、普段見せないものを、また違った世界観に変えて室礼えた展示。

来年もどうぞ、お楽しみに。