展示・イベント
室礼 SHITSURAI -OfferingsⅦ 体験イベント
- 概要
-
作家・主催者 【湯豆腐桶、おひつ、杓文字】中川木工芸 中川周士 【煎茶碗】朝日焼 松林豊斎 【土鍋】土楽 阿久根尚 期間 展示期間中の土曜・日曜・祝日限定実施 時間 12:00~17:30 備考
レポート
写真と工芸の室礼で皆さまをお迎えする室礼展。今年は見る展示だけでなく、体験型を取り入れ、
工芸ではサブタイトル「工芸的生活のすすめ」とある様に、日常生活に密接な「食」を通して工芸品に触れて頂きました。
写真では出展作家の1人、シュヴァーブ・トムが展示作品にもある青写真の技法、サイアノタイプ体験を企画して頂きました。
■体験メニュー
・サイアノタイプ ワークショップ
・お櫃と土鍋の、ご飯食べ比べ
・湯豆腐専用 木桶を使った試食
■写真サイアノタイプ ワークショップ
チェコ・プラハ生まれのシュヴァーブ・トムは、紫外線の力を借りてカメラを使わずに物を撮る技法を、自らの作品で発表しています。
今回はトムさん監修の下、参加頂く方々にサイアノタイプという19世紀に発明された世界最古の写真技法の一つを体験頂き、作品を作って頂きました。
まずは薄暗い所で作業が必要との事で、町家の防空壕はもってこいの場所。
そこで用紙に薬品を塗る作業をし、乾かしている間にどんな作品にするかアイテムを考えて頂きます。
用紙が乾いたなら、実際に露光さす物を用紙に配置。
次は、それを裏庭に運んで紫外線に当てます。
万が一、天候が悪くても露光できる様に、トムさんは自作の紫外線装置を作ってこられ、大人達は、そんな物が作れるのかと驚いていらっしゃいました。
露光の後は、水で洗い流す事でみるみる内に深い青色が現れてきます。
立体的な物を置いても仕上がるので、次はどんな物を作ろうか色んな可能性が広がります。
写真を撮る技術は全く必要ではありません。
興味に惹かれてご参加頂いた大人の皆様は、理屈を理解する学びを実験的体験によって、楽しかったと仰っておられました。
「自分でもやってみたいから、準備する物をトムさんに聞いてみようと思う」という感想も。
出来上がった作品の内1枚をお借りして、展示期間中は階段の壁に作品を飾らせて頂きました。
綺麗に配置しようとする大人の思考と、ハサミや植物などを一緒にして思ったまま置いてみる子供の思考。そんな組み合わせがあるのだと大人達は刺激を受けていました。
大人と子供の、発想と自由の違い。それぞれの良さが作品に表れていました。
■お櫃と土鍋の、ご飯食べ比べ
サワラの素材を使ったお櫃の提供は、中川木工芸の中川周士さんです。
朝、町家のキッチンにて土鍋でご飯を炊き、炊きあがった半分のご飯をお櫃に移して、残った半分は土鍋で保管をし、味の食べ比べをするというもの。
「冷ご飯がうまいねん」と中川さんの発言からお道具をお借りし、まずはスタッフ内で試食を行いました。
炊きあがってから15分で最初の試食。
え・・・!と、皆がお櫃の圧倒的な美味しさに衝撃を受けたのです。
土鍋ご飯も十分に美味しいです! が、より一粒の米が立っている、米の表面にべちゃつきがない、甘みがある、香りがよい。
これらが口の中で合わさり、正直驚きました。
しかし2時間たった頃、土鍋だって底力をみせてくるのです。一気に土鍋がグンと美味しさを引き出し、ん?どっちが美味しい?と差があまり感じなくなります。
こうやって1時間ごとに食べ比べを行い、6時間ほどたっても大きな差は生まれませんでした。どちらも美味しいご飯です。
しかし蓋の裏面を見ると、土鍋蓋は水滴があり、お櫃は木の素材が水分を吸収するので蓋の裏に水滴は見られません。
ですので、より時間をおくと再びお櫃の方に美味さを感じるのです。
「冷蔵庫がない時代だと、カビ防止にも繋がっていた」「常温保存で翌日になっても冷ご飯が美味しい」と中川さんが仰っていた事がよく分かりました。
先人の知恵ってすごいですね。
展示中の試食では、皆様お好みが勿論あるので、土鍋の方が好き。というお声もありますし、お味の差があまり出ない時間帯もあるので、感想は様々です。
お若い世代だと中には「お櫃って何ですか?」 そらそうですよね。目にする事も無いですから、そもそも知らないですよね。
色んな世代、海外の方、沢山の方にお櫃で食べるご飯を知って頂きました。
時々町家にお越しになられるお客様が、今回お櫃を購入されたので、その後の感想を聞かせて頂くのが楽しみです。
■湯豆腐専用木桶を使った試食
サワラの素材を使ったお道具の提供は、中川木工芸の中川周士さんです。
湯豆腐をいかに楽しみながら美味しく食べるか、その一択に込められた職人の追求心が現れた作品です。
仕組みはシンプルですが、拘りが凄い。
お鍋で温めた出汁と、カットした豆腐を桶に入れます。
炭を入れる穴があるので、そこに熱々の炭を数個入れます。
桶に入った出汁に炭の熱が伝わり、数時間経っても温かい湯豆腐を食べる事が出来るのです。
いわゆる、お風呂のようなイメージです。
急須を引き上げると分かる通り、ちゃんと急須が出汁に浸かる特注品。
そこに日本酒を入れれば、お豆腐とお酒が同時に温められる優れものなのです。
炭の力で保温が数時間もつので、お酒をちびちびと飲みながら湯豆腐を食べる娯楽。
コンセントいらずなので、場所を選ばずに楽しめます。
中川さんの太鼓判で、お豆腐は木綿ではなく、絹豆腐を使用。
何時間たっても、出汁に浸かった絹豆腐がグズグズに崩れないのは、きっと木の力が大きく影響いているのでしょうね。
今回はあえて薬味をご用意せずに、出汁のお味だけでご試食頂きました。サワラの上品な香りがほんのりとお豆腐からも味わえます。
この桶一つの仕組みをご説明すると、皆さん驚かれる方が多く、中には海外に広めて欲しいというお声もありました。それは日本の職人技術の凄さを発信して欲しいという風にも聞こえます。
湯豆腐をご試食頂くイベントの朝、町家のキッチンで時間をかけて木炭に火を入れます。
炭が結構飛び広がるので、色んな所の拭き掃除が必要でした。
その時代にご飯を炊くならば、炊飯器が世に出回った時は、さぞ女性は喜んだことだろうと、家電製品に流れていった背景も何となく分かる気がしました。
今は共働きが当たり前で忙しい毎日、便利は素晴らしく、私たちにとって必要です。
しかし手間をかけるからこそ得られる至福だって沢山あります。
その両方の良さを知っていれば、その時に何を求めているか選択が出来る。
それは生活を豊かにする財産である様に思いませんか。
そういった事を、職人が本気で作った工芸品と共に多くの方にご体験頂きました。