展示・イベント

室礼 SHITSURAI -OfferingsⅧ- forest

概要
作家・主催者 【写真】佐藤 壽一/ シュヴァーブ・トム / ジョン・アイナーセン / ジョン・チョイ / フレデリック・レア / レーン・ディコ 【木工】飯田 武彦/臼井 浩明/小田切 健一郎/落合 芝地/中川 周士/やの さちこ/山本 雄次
期間 2022年4月9日(土)~5月8日(日)
時間 9:00~18:00

レポート

今年のKYOTO GRAPHIのテーマは「ONE」
その関連から室礼展のテーマは「forest」となりました。
「木」の文字が3つ集まって「森」と読むように、森は遠くから見ると沢山の木が密集している様に見えますが、それは一つの幹から無数の枝葉が生まれているから。
一つの木から生まれる沢山の繋がり、あらゆる見え方、広がる可能性。
そんな森の在り方は、人間社会と通じるものがあるのかもしれません。
展示では写真家5名 各々が表現する森と、工芸からは全員が滋賀で活躍する7人の木工作家がコラボレーションをし、居心地のいい室礼が生まれました。


香港作家ジョン・チョイのモノクロ写真。
写真は全て香港の街並みを写したものです。香港には本物の森はないそうで緑地は農村と国立公園だけ。
都市はコンクリートの建物が多く建ち並んでいます。それは香港だけでなく、先進国の近代都市も同様であり、森の破壊からコンクリートの森の建設へと今も続いています。
“本物の森は人々の方向感覚を簡単に失わせるが、コンクリートの森は人の心を失わせるかもしれない”とジョン・チョイは投げかけています。
同じ空間には写真家シュヴァーブ・トムが制作したマシーンの作品があります。
先端につけた古道具がゆっくりと回り、床に敷いたおがくずを削りながら動く様は、人間の手によって自然破壊が一秒一秒進んでいるかの様。
自然と人間との関係性を願った、シュヴァーブ・トムとジョン・チョイとのコラボ空間です。


宙吊りの立体に目を引くキューブ型の作品は、シュヴァーブ・トム。
トムはキューブ型の作品を昨年は畳に置いて展示しましたが、せっかくの360度写真が底面と天面にもある事に気づく人は少なかったと思います。
宙吊りにした事で子供も全ての面が見やすく、インパクトある面白い展示になりました。
土間や和室にあるサイアノタイプ(日光写真)の作品は、薬品を塗った紙の上に、森にある落ち葉や砂を置いて露光させ、川の水で洗い流した森の中で生まれた作品です。


写真家、リサーチャー、研究者、プロヂューサー、活動家であるフレデリック・レアは、エコロジーへの取り込みに力を入れています。
屋久島で撮った写真にはそれぞれ、時間・沈黙・エコノミー・スピリチュアリティといった意味があります。
高価な物を買うと長く大切に使おうとするが、ファストファッションの様な短いサイクルの中で捨てる事の当たり前に警告をしている「エコノミー」
何処にいっても音がうるさく、子供達も携帯や色んな音で静かに眠る事もなく、今の世界に沈黙がない事を示した「サイレンス」など。
戦後、人間は経済発展の事ばかりで自然と共存してこなかった事から、温暖化や食料飢餓など色んな問題に直面しています。
科学者たちは今、風や海、自然からの音で健康を維持出来るのではと研究をし、自然が生み出す森のサイクルについて研究をしているそうです。
森から学び、自然と人々は共存すべきである。持続可能な未来へつなぐ為にも原生林は最も重要なパートナーだというメッセージが作品に込められています。

海外で行った展示の経験から、庭・柱・畳・土壁、木造建築である町家は自然との関係があり、彼の思想にとても合っていたそうです。
これからは、科学者や専門家たちと意見交換をして知識を深め、科学者たちと一緒に講演や小さなシンポジウムを開き森をテーマにした、人との関わりを社会に発信していきたいと次のステップについて語られました。


木工芸は、洋家具を作る。桶を作る。ロクロを使う木地。ノミで彫る彫刻的なもの。日本の伝統的な指物。木をくりぬく刳物。曲げわっぱ…。
等など木工の中でも細分化され、その分野に特化した技術を身に付けた木工作家たち。
今回は桶職人 中川周士さんの呼びかけから、滋賀で活躍するバリエーションにとんだ木工作家7人が集まりました。
机やテーブル、照明が運ばれ、今までとはガラっと変わる雰囲気に大変身した喫茶ルーム。
お茶する時には実際に座ってご利用頂いたり、二階和室では椅子に座り、手触りや座り心地を体験頂ける作品が数多く並びました。


その中でも目を引くのが坪庭に出現した刳物師 山本雄次さんのカヌー。
飛騨高山の匠塾に山本さんがいた頃に、海外の木工と繋がりがある先生とのご縁で、約2週間海外へワークショップに参加し、スキンカヌーを初めて作られたそうです。
展示作品は帰国後に日本で作った物で、実際に山本さんが子供達を乗せて琵琶湖で使用されています。
カヌーばかり作られているのではなく、ランプシェードやテーブルも作られています。
まだ何も削られていないデコボコした大きな木をマシーンで回転させ木を削っていく時、近寄るのも怖いくらい大きな音がするそうです。最後の最後でバコーーン!!と割れてしまう事もあるそうですが、そこを攻めているのが作品の魅力にも繋がっていると仰っています。


一般企業を退職後、木工の世界に入った臼井さん。最初は茶道指物を作る事をされておられ、その後に出会った黒田工房で、今は建具を作る事をメインにされています。国宝 二条城の襖や建具の修復、取りつけ等と幅広くご活躍中です。
指物、曲物、組子など伝統的技術も身に付けられ、展示では釘や接着剤などを一切使うことなく、木と木を組合せて作る、美しい技術作品ばかり。
縁側のモビールはデザイナーがデザインをし、繊細な組子の技法を応用して制作。
このモビールに関しては平行に並んでいる板をきっちり0.5づつずらしていく事で、ねじった様ななめらかな造形が出来上がるそうです。
新緑の庭に揺れるモビールは何とも優雅で風情でした。

 


漆作家でとても繊細な蒔絵を描かれる、やのさちこさん。
木を削ったりする木工職人さんとは違う分野ですが、漆も木から生まれるものなので今回参加して下さいました。
一見、石ころの様に見える作品は、和紙と漆から出来た花器。とっても軽いです。
型に和紙を糊漆で貼り重ね、強度がついてから型を抜き、塗りを入れてから色漆で絵付けをされています。
町家に下見に来られた際にイメージが湧いて作られました。
黒漆の塗りの上に、黒漆で絵付けしたお椀。やのさんにとって今迄お椀は沢山作ってこられた中で、この黒×黒は初の試みだったそうです。
花器、お椀。今回の作品はやのさんの“やってみたかった”が込められた作品です。
ですので、展示の為の制作過程が楽しかったと言って下さった言葉が印象的でした。


展示期間中には中川周士さん指導の元、見に来られた一般の方もご参加頂いて丸太割りのイベントも実施。
作家によって扱う木は違ってきますが、何も施されていない木を解体していく所から作品作りは始まり、様々な作品が生まれていくのですね。ほんと力仕事です 。。
子供も大人も、楽しんで頂けた解体ショーで、皆さんに割って頂いた丸太は会期終了まで展示しておりました。

8回目の室礼展で、工芸の作品が木工に絞られたのは初めての事です。
こんなに面白い事になるとは想像がつかず、展示が完成した時に木工の魅力と力に衝撃を受けました。
写真家が見せる森と、木工芸のコラボレーションいかがでしたか。作品が単体で動いているのではなく、木造建築の町家で見せる展示の「forest」は、会場と作品とが一つに繋がっていると感じました。
非常に気持ちいい空間であり室礼でした。