展示・イベント

室礼 SPECIAL EVENTS ①パネルディスカッション「Vanishing Border」withジョン・チョイ& レオン・チウイン

概要
作家・主催者 John Choy(ジョン チョイ)& Chiu-yin(レオン チウイン)
期間 2023年4月8日(土)
時間 14:00~15:30
備考 会場: The Terminal KYOTO
言語: 日本語・English
料金: 無料
その他: 予約不要

レポート

出展作家、香港出身の写真家 ジョンチョイの「Vanishing Border」シリーズは、香港と中国本土の間で変化していく境界線の風景を10年に渡って記録されたものです。
研究者レオン・チウインを町家に招き、そしてジョン・チョイは現地からモニターで繋ぎ、このプロジェクトについてのトークイベントが行われました。

 ←ジョン・チョイ

左:タイトル「Overlooking the vanishing border 2013 」2013年に撮った、中国と香港の境界線を、香港側から撮影した風景。
右:タイトル「Overlooking the vanishing border 2021」2021年に撮った、ほぼ同じ場所からの写真。新たに建設された高速道路がある。

 

1951年に中国と香港の間に国境が作られ、人の出入りが禁じられました。その10年後、状況が変わり人の出入りが許される様になります。

 

ジョン・チョイとレオン・チウインが国境に興味を持ち始めた理由
「中国はより香港との関連性を持ちたい、そしてその地域30ほどある集落をどの様に発展させていけるか目標にしている為、その場所に高層ビルを建築していくプロジェクトが考えられています。
昔からある場所に建物が建築されていく中で、それらがどの様に変化を遂げていくのか、影響を及ぼすのか。それを見ていきたいと思っています」

ジョン・チョイは今、ZOOMでつないだその地域に住み、記録を残しています。移住のきっかけと、写真家としての活動について
「ここに移住した理由は、純粋な興味。
今の香港の都内は、もの凄く忙しくてビジネスが盛んな街ですが、そこに比べてここは凄く静かで、全然違う集落の静けさを感じられる場所に惹かれて来ました。
2016年の、人が出入り出来る様になった段階から、ビルを建てる工事が発展と共に始まり、そういう変化を目の当たりにしているので、自分が写真家として記録を残していく事が、すごく重要な事だと感じています。
歴史学者と考え方が似てますが、記録に残すことで、例えば香港の政府に対して。人々や文化にどういう影響があるのか。そういった事を伝えていきたいという思いでこのプロジェクトに乗り出しました。」

プロジェクトを取り組む方向性について
「そこに住む人がどの様な生き方をしているのか。
例えば集落の人が行う儀式、お祝い事、どの様に生きて、どの様な形で影響を受けているのか、そこに焦点を合わせています。
何よりも重要なのは、今まで出入り出来なかったからこそ保たれてきた文化や歴史が、出入りが自由になり、新たな建物が建てられ発展していく中で、自分が住んでいた場所、故郷がなくなっていく。こういった状況の中でその人たちがどう感じるのか、どういったリアクションがあるのか。こういったところを興味深い一面として考えています」

一階の展示作品「Overlooking the vanishing border 2013」について

「一番初期の写真です。移住し始めた時に私が大事にしてた事は、その場所に行き、その場所を知る事。そして高い場所からその風景を撮る事でした。この数年は毎年、もしくは2年に一度その場所に行き、その変化を残す為に、同じ場所から撮影を行います。
現在のような360度カメラは存在してないので、魚眼レンズを用いたカメラを三脚に立てて撮っていく。パソコンでそれを繋ぎ合わせてパノラマを作るっていう方法でやっています」

参加者からの質問
Q: 自由に行き来が出来るまで間、集落の住民たちは香港の街中とか中国とか、行き来はできたんですか?
「いま話してた国境の部分に在住する人々は香港の人になります。香港には問題なく行き来ができて、中国にも特殊な許可が配布されているので行き来はできる。
例えば普段香港の市民たちが中国に行くってなった時に税関を通ったり、すごく細かい取り調べがありますが、この市民達はそういったものを飛ばして行くことが出来る許可証を持ってます」

Q:教育っていう面でいうと、99年の香港返還以前は英語で授業が行われていて、香港の40代以上の人達は英語で教育を受けてるって話なんですけど、その村も同じ様に英語で教育が行われているのか、それとも中国語で行われているのか?
「すごくいい質問です。基本的に香港での学習システムは、実は1/3が英語で学習を受け、そして2/3はまだ中国語をメインにしています。その中でこの集落の学校は中国語がメインです(少し英語の授業もあるかもしれないが)」

Q:イギリス植民地になって国境が出来て、文化や人が別れるお話があります。その中で実際に中国側になったとこ香港側になったとこには、どの様な違いが存在するのか。
例えば一般的に暮らす人たちの感覚、価値観、教育とか。暮らす人々の中での変化、違いが中国側そして香港側にあるんですか?
「国境の中国側に関してはすごく超高層ビルが建って発展しています。
でも香港側はほとんどフリーズしている状況で、一般的な人達の生活が向上する事は少ないです。
国境が行き来できる様になった事を理由に、先住民族の人達半分はそういう発展を求めていますが、ただ半分の人達は今までの伝統や形を残していきたいという思いを持って生きておられるのが現状です

国境の部分に在住している人達にとっては仕事の難易度が高い。それは今まで人の出入りが少なく、事業を行ったり、仕事の数や量に制限がある。なので集落の人達はイギリスなどに移住して向こうで仕事をする事が多かったんですが、国境が行き来できる様になった2016年から様々な人達が変化であったり、事業の機会が盛んに行われるので人が戻ってきたりしている。発展と共に集落の中でも全体的な社会制度としてのインフラですね、例えばWi-Fiやテレコミュニケーションであったりが、より盛んになっていくんじゃないかなという希望も存在します」

Q:ジョンチョイが住んでいる地域とお家について
左側にビルが建設中、右側に家が見える本当に国境の部分です。
イギリスの植民地になる前、そこには現地の先住民族が住んでいて、そこが植民地になった事で、その人達が土地を奪われているという事があります。
同時に一時期、中国からの難民が国境の香港側に移住する事もありました。
何があったかというと、そこに家を建てて住み始めた人がいます。それらはスクワットハウスと言われていて、政府的にはちゃんと認知されていない場所。
という事は、土地の登録や所有地としての記録がない場所になる為、今後解体される可能性が大いにあります。
私が実際に借りている家もそういったハウスの一つです。

↑監視塔のついている家です。元々はイギリスの植民地になった時に、イギリス政府自体が中国側を監視できるように作られました。
監視タワーみたいなものですね。それが住居にもなっています。こういった物が存在するんですけど、ものによっては正式に登録されていないので、潰して新たな建物を建てて、それを貸し物件の商業目的として使われている現状があるそうです。

Q:この地域は今、どういう状況ですか?
「すごく静かであまり影響はなかったんですけど、デモの関係性でいうと、今話している香港側の国境地帯の部分に霊園があるんです。
もしデモで亡くなっても身分の確認が出来ない、存在してない人となった場合、その人達はその霊園に埋められてしまう。それがデモを隠す一つの要因としてあるんじゃないか。

中国・香港も、日本でいうお盆に近いものがあります。それが三日前に行われて、自分たちの先祖をお参りするんですけど、デモがあった影響かもしれないんですが、この霊園の周りが警察で固められて人が行けないようになっていた。メディアが行っても全員追い払った現状もあるんで、何かは言えないが、そういった意味での不明瞭はあるかもしれない」

  

この集落の中に一つだけ学校があり(他の学校は全て廃校になってしまった)様々な集落から、その学校に集結するそうです。
中国側の国境近くに住んでる子供たちは、恐らく学校に通うのに一番近いということで、国境を渡って通う子供もいる現状との事。
ジョン・チョイのこのプロジェクトのゴールは一体、何処になるのか?
機会があれば聞いてみたいと思います。