展示・イベント

空にて型を成す

概要
作家・主催者 岩﨑萌森(染織・服飾)
期間 2023年9月2日(土)~9月18日(月)
時間 9:00~18:00 ※最終日は16:00迄
備考 ■プロフィール

1999年 愛知県生まれ
2017年 京都市立銅駝美術工芸高等学校 染織専攻 卒業
2021年 成安造形大学芸術学部芸術学科空間デザイン領域コスチュームデザイン 卒業
2019年 「NIF YOUNG・TEXTILE展」東京国際展示場JAPANTEX内(東京)
2020年 「岩﨑萌森個展 織 編 結 制限と可能性」ArtSpotKorin(京都)
2020年 「世界で一枚のシャツ展」ギャラリーサラ(滋賀)
2021年 「成安造形大学卒業制作展」京都市京セラ美術館(京都)優秀賞
2021年 「SELECTION卒業制作展2021」成安造形大学(滋賀)
2021年 「毎日・DAS学生デザイン賞」入選
2021年 「岩﨑萌森個展 織 編 結 反と角」KUNSTARZT(京都)
2021年 「SEIAN ARTS ATTENTION 14 Re:Home」成安造形大学(滋賀)
2022年 「はん、ぷく。」ギャラリーヘプタゴン(京都)
2022年 「染織tomorrow-7大学推薦若手の響宴-」ギャラリーマロニエ(京都)
2022年 「自我像展」ギャラリーマロニエ(京都)
2022年 「国際芸術祭BIWAKOビエンナーレ2022」旧伴家住宅 (滋賀)
2023年 「岩﨑萌森個展 道具に寄る衣 衣に寄る型」KUNSTARZT(京都)

レポート

大学を卒業し、仕事をしながら作家活動をされて今年で3年目の岩崎さん。
学生時代は空間デザイン領域という物を作るコースの、衣装コスチュームデザインを専攻され、そこで織物を学ばれていました。
今回の展示では、織り・染め・それらを作る道具を展示頂きました。

作品名「織 編 結。 反と畳。 衣に寄る型」

学生の頃から織物の四角形の形を生かして、人にどうまとわせるか。
織った時の畝(うね)の形(※畝=織物や編物の表面に現れる、立体的に盛り上がった筋のこと)、紐を結んだ時の形などに魅力を感じ、そういうのを生かした服がどれだけ作れるのかを探求。
ですので衣装コスチュームデザインを専攻されていましたが、ミシンを走らせる衣装作りはせず、ずっと編む事を続けてこられました。

天高の間では、独特の形と雰囲気を持つ着物の様な作品を展示。
普通、着物を作る時は幅34cmの一反(いったん)といった決まりがありますが、展示は京間の畳三畳分の布を使った作品です。
畳三畳分となると通常の着物の作り方では出来ない為、構造を変えて針と糸を使わず、編んだり結んだりする事で形を組み上げていらっしゃいます。

またこの作品は、畳を意識して作られています。
岩崎さんが使用されている素材は、ホームセンターで売っているポリエステルのパンチカーペット。
これが一番、うねの織りもの感や、結んだ時の結び目の大きさが一番綺麗に出るとの事。
それを細く裁断し、畳の様な色になる様に煮て染めてから織り込んでいらっしゃいます。

色味について
岩崎さん
「織物のうねとか、結び目の連続とか、そういうのを見ていると原始的な感じのリズム感、美しさみたいなのを感じるので、そういった所に寄せて色味は作っています。
ちょっと土っぽいというか、草っぽいとか、そういう所からエッセンスを受けてるんだと思います。」

空間に敷き詰められた展示方法により、着物がまるで畳から生えている様にも伺えます。
岩崎さん
「織物の集合体(結び目の連続している形、折り目の連続性)を見せようとしているので、そういう密な物からくる狂気的な印象があるのは面白いですね。
パンチカーペットは床材なので、床材と畳がリンクし、面白いと思って。
インテリアファブリックと日本の伝統的な繊維と、その兼ね合いも面白い思った」

作品名「反と角 Ⅱ」

茶室の床の間には、織り機と、織物を展示。
コロナで大学に半年ほど立ち入り禁止になり、大学の織り機が使用出来なくなった時に、ご自分で小さい簡易的な織り機を作られました。
この事が道具作品のスタートになります。
自宅で出来る30cm角の決められた範囲の中で、どれだけバリエーションを出せるのか、制作を続けていたそうです。

四角形の枠の織り機を作り、その次の第二弾は、六角形の枠に初めてチャレンジされました。
六角形だと対辺に糸を張る事が可能な為、一定の法則で織っていくとアーチ状に織れる事が分かったそうです(写真でもアーチ状が確認出来ます)
これは、四角形の枠では出来ない織り方で、やってみて分かった事。
茶室の床の間には、そういった独自に考案した六角形の道具としての織り機、織っている途中段階のもの、額装したものを対比でご覧頂ける展示でした。

作品名「道具に寄る衣」

ご自身で織り機の枠を作ってこられましたが、今年からは別の方法で道具を作る事をされています。
それは、本来は別の用途で使われていた古道具を、織り機という新たな用途で蘇らせるというもの。
古道具から、織物の形を考え直した作品が和室に並びました。
岩崎さん
「古道具を使ってるというとこで、椅子だったら座っていた人間の部分、菓子木型だったらお菓子の部分。そういう物はもう消えちゃってるけど、使われていた道具だけが残っていて、そこに痕跡があったり。そういう痕跡を織り出していくみたいな事を考えていました」

今回展示頂いた多くは、京都の蚤の市を巡って調達された古道具の菓子木型のもの。
沢山ある菓子木型の中でも「結ぶ」ことに由来のあるモチーフを選ばれていますし、守口大根のお漬物を結んでる型や、昆布を結んだ型など。
菓子型以外には、織り機で使用されていた「糸を巻く道具」もありました。
岩崎さん
「結ぶって縁起がいいので、色んな食材の物をモチーフにしたのがあるんです。
自分で古道具市に出向いて買い集めて、そういうのもこの作品を作り上げていく一部だな。て、この作品を作っていてそういう所が面白かったです。

それに古道具がここまで大事されて保管されていたので、この箱での展示もしてみたかったので。
会場が畳なので、座って近くでのぞき込んで頂けたり、横からも見てもらったり。箱シリーズするんやったら、和室と思っていて。
ターミナルキョウトに応募した時から、これをやろうと思っていました。」

 

子供の頃からこういった服飾が好きだったんですか
「手芸とか編み物とか、そういうものが好きで、小さい物を作ってましたね。
大学の服飾専攻だと煌びやかなコスチューム的なものを作るイメージがあると思いますが、私はそういうのはあまり作っていなくて。
結果的に服の形になってますが、それを作る過程が私の中ではとても大事で、だから道具も一緒に展示したい。というのもありますし。
ものづくりの過程がとても好きですね」

なぜ織りの道に?
「大学1回の時、服を作るにあたって、布からどうしよう?というのを結構考えていて、
布に手を加えたもので服の形にするのか、服をモチーフにしてテキスタイルの作品を作るとか、そこらへんを行ったり来たりしていて。
でも作業が好きなので、ミシンでガタガタ縫うより、織物はやってる事は単純ですが、膨大な積み重ねなんです。
そういう精神統一みたいな単純さが結構しっくり合っていて。
それで織物で作ってみようとなりました。織ってる時は無心。決めたらそこに向かって織っていくその過程が好きです」

作品を作る過程が好きという事ですが、どうなっていきたいですか?
「何になりたいか、自分でもわからないんです(笑)
芸術家になりたいから絵を描いているではないと思うんですよね。
何かしら作る事が好きで、ずっとやってたら芸術家になってたとか。
そういう感じに近いのかな?
デザイナーとかなら社会に認められる到達目標がある気がします。
でもやっぱり作る事が好きですね。認められたいですけどね(笑)」

最近は道具を作る為の素材にも、拘るようになられたそうです。
古民家が取り壊された時に、それらを引き取って販売している古道具屋さんが長野県の諏訪にあり、染色工場から取ってきた物が販売されると知って買いに行かれたそうです。(なんとマニアックな!)
茶室で展示された織り機の木枠が、その古道具です。
制作過程には染色作業もされていらっしゃるので、素材と作品の関連性が繋がります。

制作すスタンス
「今まで自分の手の届く範囲で作品を作っている感じだったんですけど、古道具が自分の中で入ってきた事で買いに行くとか、元々なにか形がある物が入ることでいい影響があったんですね。
道具から及ぼす形、面白さ、綺麗だな。そういうのが最近はいい影響です。
ライフワーク的に作品を作っていく上でも、古道具市に行って買って、それを持って帰って作って。
暮らしの中で馴染んでいきそうな気がします。やっていて楽しいです」