展示・イベント
絵の住まふ処「ギャラリートーク」
- 概要
-
作家・主催者 川田基寛、後藤吉晃、夛山祐子、滑川道広、西澤康子、長谷川雄、前田和子、前田龍一、森下智子、山本真澄、山本雄教 期間 11月4日(日)・11月25日(日) 時間 17:00~18:30 備考 主催:GEN/日本画
レポート
グループGEN「絵の住まふ処」の展示期間中には、作家と一緒に会場を巡り、作品紹介をする「ギャラリートーク」が行われました。
作家からの解説をここでご紹介させて頂きます。
■西澤康子(一階土間)
和紙に墨で描かれた作品が、吹き抜けの高い柱から吊るされました。 今年の3月、九州旅行で出会った、印象的な思いでが描かれています。
「真ん中に描かれた風景は、長崎県にある島原城に登って眺めた眉山と街の景色です。それはごく普通の平和な街の景色に見えたのですが、火山の雲仙普賢岳に近い場所にあるため、昔から噴火の度に被害を受け、その都度立ち直りながら、今の街の姿があるそうです。この景色を見ながら「いつ何が(自然災害」あってもおかしくないけれど、今平和に日常を過ごせることは貴重なことだなぁ」としみじみ思ったのでした。そこから海を隔ててすぐ近くの熊本の天草では船に乗り、海で泳ぐイルカの群れを見に行きました。広い海でのびのび泳ぐイルカたちの姿からは元気をもらい、彼らや、彼らを育む海を含めた自然の不思議さに思いを馳せました。時に優しく、時に恐ろしくもある自然の中で生かされながら、平穏な日常を大切に過ごしてゆきたいと思うのです」
■山本雄教(土間)
インパクトあるブルーシートで、ターミナル京都の八畳間が土間に現れました。
「アウトドアな用途で使われることの多いブルーシートですが、建築現場で使われる事を前提として作られている為、自ずと日本の住居空間に合う比率とサイズになっています。会場内の八畳間の空間とほぼ同じサイズのシートに、金箔で畳の縁に見立てて直線を描き、思わぬところに存在する和の空間を表しています」
■川田基寛(小上がり、入口の間、一階床の間、二階縁側)
線の美しさをお話しされ、下書きである線も時間の経過として残していらっしゃいます。
「生命の線、動作の優美さに惹かれています。彼らを写生していると、改めて身体には無数の線と色彩で構成されていると気付かされ、それはまるでリズムのように感じます。動いている時も、立ち止まっている時も」
■山本雄教(坪庭横の間)
紙幣自体の面白さを、空間に合わせて屏風という形で制作されました。
「紙幣の片面に金箔を貼り、屏風の様に立たせています。紙幣はそもそも金をはじめとする貴金属と交換できる手形としての成り立ちをもっています」
■森下智子(一階縁側)
時間が移り変わる表情を、日傘を使って表現されました。
「こちらの町家には平面だけでなく、立体的な作品も欲しいと思い、かつ実用的な日傘を選んだ。表には春の蝶。裏には秋の直物 秋明菊を描いている。光の当たり方ではっきり見えたり、ただの影の様に見える様にした。」
■山本真澄(一階縁側)
普段は子供や鳥を描くことが多いそうですが、小箱を見ていたら和洋折衷な雰囲気。物のイメージに引き寄せられて描かれたそうです。立体物に絵付けするのは初めてとの事でした。
「長い時間を経てきた日本家屋での展示。絵画としてよりも、もっと生活に密接な道具に描こうと思い立ちました。初めての試みでしたが、古物の持つ空気や雰囲気に導かれるように筆が進み、完成した時には私自身この作品をどこか不思議な心持で眺めているのでした。作品と共にあるドライフラワーは、作品に描かれている植物と同じものです。」
■森下智子
(階段)
「何年か前に母が小道具屋で見つけてくれた扉に、私と娘の母子像を入れた。娘が夜中起きて眠れないと悩んでいた私に、今はこんなに二人ともぐっすり眠れているから大丈夫と教えてあげたい。という想いで描きました」
(扉前・廊下奥)
「道端で拾った蝶をモチーフにしている。息絶えたものなのに、なぜ美しいまま残っているのだろう。という思いで描きました」
■前田和子(二階茶室)
命をテーマに動物を描き続けていらっしゃいます。作品の犬は、お家の家族である犬。
初めて軸に描かれ、日本家屋の良さは「暗さ」とあって、日中はあえて床の間には電気をつけない演出をされていらっしゃいました。
「〝いきもの″を描く事は命を描く事だと思っています。生きているものには、その時その瞬間に不思議な輝きがあります。温かく、柔らかく、心臓は力強く鼓動を打ち、一本の毛先にも何かが宿っている。私は昔からその不思議な輝きに魅せられ、その輝きを追いかけて絵を描いてきました。息づかいや、気配まで感じるような命ある〝いきもの″の姿を描きたいと日々制作活動を続けています」
■前田龍一(二階和室)
作家ご自身が大の卓球好き!地域でする卓球では、打つ球もコミュニケーションが関わってくる事から、ラケットには糸電話が描かれています。屏風の裏には、卓球の球で遊ぶ猫の姿も。
「屏風:今年に入り卓球をテーマに制作しています。和室で卓球をした時に、球が飛んでいかない様にラケットを描いた屏風を置きました。
ちゃぶ台:The Terminal KYOTOに訪れた時、ちゃぶ台で卓球をしたら面白いと思い描きました。
ラケット:試合では相手の取りにくい球を打ちますが、地域で行っている穏やかに打ち合う卓球は相手が取りやすい様に打ちます。その様子を糸電話で表現しました」
■後藤吉晃(二階和室)
初めて軸に描かれ、表具師さんのこだわりを知り、パネルに描く事とは違う学びがあったと仰せでした。
「掛け軸:ひと昔前まで、一般的な絵の住まふ処であると同時に、特別な空間であった床の間は、現在違った意味で特別なものになりつつあります。床の間に絵が住まふ本来の形、軸に作品を落とし込みました。睡蓮は夕方に閉じ、朝に再び開きます。その日その日の生ける美しさを愛でながら描きたいと思いました。
扇子:扇面も古くからの絵の住まふ処だと考えました。
■夛山祐子(二階天高の間)
山のたくましさ、静寂な雰囲気が天高の間に広がっていました。
「雨の日に霧がかった山を見て感動した気持ちを元に描いています。ただそこに存在している山。在るがままの姿で感動や安心を与えてくれる。ちょうど妊娠中から描き始めたので、そこに母性やお腹の中のイメージを重ねて描いていました。霧の間から深い青緑の山が見えた時その美しさに、はっとします。その一瞬の感動を持ち続けながら一本一本を描いていると、無心になれ写経をしている様な気分になって、その風景に自分も溶け込んでいくようでした。」
■山本雄教(二階縁側)
「ブルーシートで作った富士山は、象徴であるがゆえに多様されるイメージの薄っぺらさを強調しています。その富士山を裏側から見ると実はテントになっています。野外に暮らす住人、それを覆い隠す富士山のイメージ。そこにはアウトサイダーに不寛容で、見ない様にする社会への疑問があります」
■森下智子(二階縁側)
「私にとって蝶は、短い命を全うする力強い昆虫、かつ異文化でも共通している輪廻転生のイメージがある特別な存在。この作品は、蝶からいろんな話を聞いてみたい。という思いで描いた」
■長谷川雄(豪空壕西)
光を閉ざし、懐中電灯で照らして作品を見て頂く演出。戦争の恐怖、悲惨、愚かな過去を空間全体で表現されました。
「祖母は、よく戦争当時の空襲体験を語ってくれます。作品中の文章は祖母の実際の体験談です。防空壕の中で不安と恐怖に怯え、悲惨な状況に晒された青春。私の知らない世界の扉を開く祖母の存在は、私にとってまさに〝生きている扉″なのです」
■滑川道広(防空壕東)
「私は、ぬいぐるみを集めてモチーフにしています。実際の動物も描きますが、距離を持って見つめたいからかもしれません。
よく見ると、違う物を現わしている。そういう作品に憧れます。アルチンボルドら、だまし絵の作品に影響を受けています。線に固執するのは19世紀の印刷表現がすきです。」
作家活動の中で、絵を描くにもそれがキャンパスとは限らずに、別の形で世に出る事もある。
お客様からのオーダーでキャンパスに描き、それが家に飾られる形の他に、布に落とし入れるテキスタイル。本の表紙。能舞台などと活躍の場を広げていらっしゃいます。
その形が、思い描いていた夢の1つだったり、世の中と繋がる楽しさ。人の生活に入っていく事で、その人を自分の作品で幸せにしていってるのかな。。などと作家様たちはお話しをして下さいました。