展示・イベント
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- 概要
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作家・主催者 上田普(書家)/ティナ・ケントナー(陶芸家)/ORIOBI作家 磨美(帯造形)/宮川光(画家) 期間 2020年8月22日(土)~2020年9月9日(水) 時間 9:00~18:00 備考 ■書、陶芸、帯造形、絵画
<経歴>
■上田普(書家)
1974年 淡路島生まれ。幼少から母親の元で書を学ぶ
四国大学書道コース卒
中国・杭州大学に留学後は、カナダ・トロントで活動。2002年京都に移り、2005年京都市美術協会より新鋭美術作家に選出
豪州、韓国、ブルガリア、英国、伊太利、木津川などのアートイベントに参加
近年はThe AREThé Festival2018(パリ、ミラノ、ジュネーブ)、京都市とパリ市のアーティストコラボレーション事業へ選出
ヘーベルト美術館 (グルノーブル)、パリ数ヵ所のギャラリーで展示、パフォーマンス、トークイベントを行う
他、泉鏡花作、中川学絵の絵本「龍潭譚」、同じく「絵本化鳥」の題字を担当
2013年アジアデザイン賞受賞
NMB48、男前豆腐店、叶匠寿庵、SHIMANO、柊家旅館、前田珈琲等の商品ロゴ、監修
時代祭館十二十二館内の映像、東アジア文化都市・京都2017のプロモーション、映像、VRによる書道パフォーマンスなど 最先端の映像制作にも関る
四国大学書道文化学科非常勤講師
■ティナ・ケントナー(陶芸家)
ドイツ人クリエーターのティナは、パリで十五年に渡り建築家やデザイナーとして活躍してきた
クリエイティブな仕事に従事しつつも、手仕事への懐かしさから陶芸に興味を持ち始め、パリで陶器を作り始める
小ぶりな作品を手掛け、形成から完成までを一人でこなす
近年は京都への移住を機に、本格的に陶芸に取組んでいる
自然に囲まれた生活は、彼女に深いインスピレーションを与え、作風にも影響を及ぼしている
京都の豊かな文化と自然、多くの寺院や庭園は尽きることない創作源となり、作品の形や質感、色の中に現れている
■ORIOBI作家 磨美(帯造形)
静岡県出身
祖母から譲り受けた古い帯をきっかけに「ORIOBI」の活動を始める
現在は冠婚葬祭向けの記念装飾品としての《想い帯》制作にも力を入れるほか、より多くの人に日本の伝統的な美しさを伝えるための展示やワークショプ、作品のミニチュアアクセサリーなどの創作活動を行っている
公式サイト:https://www.oriobi.jp/
2020年2月 「アートプロジェクトCANBIRTH」(銀座高木ビル)
2020年8月 「リメイク展」(デザインフェスタギャラリー)
2020年9月 「第4回ZEN展」(埼玉県立近代美術館 )
2020年11月「Luxembourg Art Prize」(Pinacothèque)
2021年7月「第21回 Japan Expo」(Paris-Nord Villepinte)参加予定
■宮川光(画家)
箱根の伝統工芸品、木象嵌を天皇家に収めていた家系に生まれる。
高祖父であった8代目の小林安次郎は、皇太子の教育係である東宮職御用を拝命。
安次郎の妻であるウタは明治天皇の御下命で明宮(はるのみや/大正天皇)の乳人(めのと)を仰せつかり、9代目の安次郎も昭和天皇の東宮職御用を拝命。
4歳の時から絵画、歌曲、および文学の手ほどきを受け始め、5歳と10か月で渡米。以後、日米間を往来し、計38年アメリカに住んだのち、2016年に帰国。
10歳の時のレオナルド・ダ・ヴィンチとの衝撃的出会い以後、彼の研究を続け、彼を内側から知るためにアーティストになることを決意し今日に至る。
アーティストとしては日米、欧州、オーストラリアなど世界中でグループ展、巡回展などに招待され参加する。
1993年には当時のルーブル美術館絵画部門館長のピエール・ローゼンベルグ氏の意向でポートフォリオがアーカイブ部門に登録される。
更にオペラのテノール歌手、シュタイナー教師、ダンサー等としても活動する。
デンバー日本国総領事館主催の平成天皇陛下誕生日の祝賀会では3年にわたって日米の国家斉唱を任される。
2011年には国連系のオーストリアのソサエティー・マガジンで紹介され、2015年には、TED Talks Boulder のプレゼンターとしてレオナルドの研究発表をする。
2020年8月下旬には、「レオナルドと間」に関する研究記事が Kyoto Journal によって紹介される予定。
レポート
今回の展示はコロナにより当初の展示が延期になった事で、そのポッカリ空いた期間で展示して下さる方をFacebookで募集をかけさせて頂きました。
ご応募頂いた中から選ばせて頂き、書・帯・陶芸・絵画でご活動されている4人の作家様にご依頼する形になりました。
4名皆様が初対面のご関係だったので、どういった展示にするのか。
4人展?それとも、2組づつ期間も分けて展示する?そういった議題から始まり、打ち合わせはリモートで参加する形を取りながら何度も内容を詰めて進んでいきました。
それでは、書道家の上田普さん。陶芸家のティナ・ケントナーさん(ドイツ出身)。帯造形のORIOBI作家 磨美さん。絵画の宮川光さん。4人展をご紹介させて頂きます。
入口の土間は(書)上田さんと、(陶芸)ティナさんとのコラボレーション。テーマは「石庭」です。
コロナで自粛生活を余儀なくされた中、「自然」に癒された方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
本格的なアウトドアだけじゃなく、身近に感じられる鳥の声だったり、風だったりと。。。
だからこそ今回は自然のものを作りたかったと、「石庭」を書と陶芸で表現されました。
石に見立て、立体的に置かれたティナの作品。
実はティナの作風は自然からインスピレーションを受ける事が多く、特に石が大好きだと仰っています。
書の4作品には「石」の文字。中国では古くから「石」は自然の象徴だそうです。
削り炭を使用し、表面に残る粒子や、三層になった紙に沁み込む墨の深さ。筆遣いによる動きや、筆に込められた力の強弱もご覧頂けます。それらは見る場所によって。見る角度によって。見る時間帯・陽射しによって様々な表情を見せ、土間に現われた石庭は、ゆっくりと美しく流れる一日の移り変わりをもお楽しみ頂きました。
小上がりと、入口正面の間には宮川さんの絵画作品と、ティナの陶芸作品。
坪庭にはORIOBI作家 磨美さんの作品へと続きます。
ORIOBI作家 磨美さんの作品は、長年使われずに箪笥で眠っていた帯を使用し、ハサミで帯を切らずに、帯造形として新しい形へ生み出されています。
きっかけは、磨美さんの御祖母様が箪笥の整理をされた際、好きな様に使ってもいいよと、譲り受けた帯でした。
最初はその帯にハサミを入れて小物を作られました。それを御祖母様に報告した際「あ…切っちゃったのね」と、少し残念そうな心境を感じ取られたそうです。
現在、作品で使用されている帯は、お家の中で処分できずに眠っていた帯を、色んな方から譲り受けたものばかり。
帯を購入する際は、結婚式で着る時に。成人式やお祝いの時にと、帯一つ一つにはストーリーがあります。
その大事にされてきた帯を、切らずに何か出来ないだろうか? そこから今の作風へと繋がっていらっしゃいます。
想い帯「嬉」という作品。
新郎新婦両家の想い出の帯を1本ずつ借り受け、2本の帯でこれから始まる絆を想って創る”想い帯”。たくさんの幸せとつながりを大切に。という意味を持ち、婚礼用の装飾品に用いられています。
坪庭の野外に置かれた作品は、想い帯「進」
こちらも2本の帯を使用。矢をイメージされています。
矢を放ち、力を合わせてコロナという危機を乗り越える。前に進んでいけるようにと想いが込められています。
続いて畳の喫茶ルームへと進んだ床の間。
円の形をした造形作品は、輪の中から新しい風を呼び込み、喫茶ご利用のお客様に和やかな時間を楽しんで頂きたいという想いから制作されました。
実は隠されたもう一つ。。。 畳に置かれたポコンとした作品は、あんこのイメージ。あんこを包む壁掛けの作品とを合わせ、和菓子のような風合いも表現されています(^^)
ORIOBI作家 磨美さんの作品は、処分は心苦しいけど、何かに使えるんだったら是非にと、譲り受けた帯たち。
シミや汚れを切って形にするのではなく、折ることで汚れを隠し、綺麗なところ(模様)を生かす形で作られています。
またいつでも、着物で使用する帯に戻すことが出来るので、安心感もあります。
新しいオブジェとして帯がよみがえり、持ち主の方も喜ばれるそうです。
美しい帯と、その伝統的技術を後世に伝えていく方法。
今の時代にあった形で、私達の生活において帯はもっと身近にあっていいはずだと、活動を続けていらっしゃいます。
自然光が入る縁側や奥庭には、ドイツ出身 ティナの作品が並びます。
「石・苔・緑・砂」といった自然にある物がインスピレーションとなり、中でも石の風合いを好まれ、作品にも表れています。
元々は建築家であるティナ。建築家は家が建つ工程の中で一部の仕事であり、大工の方など色んな業種の方々が加わって建物が完成します。
しかし陶芸は土をこね焼成まで、全ての工程を自分で出来る事が魅力だと仰せでした。
パリに住んでいる時、ロクロで形を作ってはすぐに潰す作業を繰り返し、ロクロの技術は学んでいたそうです。2年前京都にきてから工房をかりて本格的に技術を学び、作陶されています。
ティナにとって京都の雰囲気、庭や寺。全ての要素が心を落ち着かせ、瞑想できる空間。
ロクロをまわす時もその心境が必要であり、気持ちも落ち着くと仰っていました。
京都に来ていなかったら、今の作風は生まれていなかったかもしれないと。
金継ぎが施された作品があるのですが、日本で初めて知った技術で、まだ初心者だけど楽しいそうです。
また今回、展示中に限りターミナル京都の喫茶でお客様にお出しするカップもご用意して下さいました。
「小指をかけて持てるから、持ちやすかった」「安定感あっていい!」と感想がございました。
この冬に帰国されますが、帰国後の制作活動も見逃せず楽しみです。
二階の茶室と、天高の間には、書道家 上田さんの世界観が広がります。
茶室の掛け軸においては、墨や紙はヴィンテージのものが使用されています。
中国の黄土を混じえた、黄色味の紙。軸先は、水面張力の様な丸みある技術。紙と墨との相性もよく、石と書かれた文字。
全てに、貴重な素材と技術が組み合わされた掛け軸です。
この掛け軸は圧倒的な存在感を放ちますが、不思議とこの茶室にいると、いつまでもそこに座って眺めていたくなる心地よさがありました。中央には1000枚重ねた半紙に、墨を含ませた筆で点だけを書き、その半紙を半分に断裁した作品です。
床脇の右側は、フランス人の本作家(ブックバインダー)と上田さんがコラボレーションされた作品です。
吊るされたてっぺんを持ちながら下に降ろしていくと、綺麗な四角の形に折りたためて納まります。
文字は、「石」。
自分が歩いている目の前に、石があったならどうしますか?
よける?またぐ?蹴る? それをどう乗り越えるかは自分次第であり、人生は修行の様なものだと。
海外でもご活躍されている上田さん。
お母様が書道教室を開かれていたことから5歳のころ書道に触れ、他に音楽や絵画なども観に行く機会はあったそうです。
お手本通りに沿って書く書道は、上田さんの中ではアートに結びつかなかったそうですが、ある時、自分で発想したものを書けば作品になると考えがシフトされ、上田さんの強みであった書道を生かし、現在の活動に繋がっていきます。
書道は古い歴史を探れば探るほど、ヒントや気付きがあるので、掘り下げている感覚だと仰っています。
歴史上の有名な方の作品(文字)を真似て書くと、“ここで力をいれて、ここで力を抜いている“ ”この動きで書いてるんや“ と、その方の性格が感じ取れるそうです。
墨と紙との相性は、パズルのようでなかなか上手くいかない事もあるそうです。
制作に煮詰まった時は、自分の”型”を裏切るようにするのだと。
書道の「型」ばかりで制作し続けると、疑問を忘れ、探る事も忘れてしまう。
だから疑問を持つことで探る意欲につながり、制作の幅が広がるのでしょうね。
続いて、同じく二階和室と縁側。そして地下防空壕を演出されたのは、絵画の宮川光さん。
光さんの子供の頃の夢は、科学者になる事。
10歳の時にNHKでレオナルド・ダ・ヴィンチのテレビを見た時、生き方や、色んな事に興味を持ち、自分で体験するダヴィンチの生き方に感動をしたそうです。
レオナルド・ダ・ヴィンチのような人間になるには、どうすればいいか?
大人になりエンジニアや色んな事をした時代もあったそうですが、過去の作品が後世に称えられている物って、「絵画」じゃないか? じゃぁ絵描きとはどういう者なのか?
レオナルド・ダ・ヴィンチの生き方にあった様に、頭の中だけで終わるのではなく、自分で体験する。
絵画を経験するうちに、どんどん絵にのめり込んで今に至る宮川さん。
和室の作品は、ダヴィンチの作品「岩窟の聖母」にインスパイアされ、この展示に向けて描かれた作品です。
子供が描かれた作品は、ほぼ鉛筆で書かれています(一部アクリル)
防空壕も、同じくダヴィンチの作品「イザベラ・デステの肖像」が元となっています(左側)
ダヴィンチはデッサンで終えていた作品ですが、宮川さんはそれをデッサンし、想像を膨らませて色付けをされています。
レオナルド・ダ・ヴィンチに触発され、追いかけたアーティスト宮川さん。
いつか研究してきたものを、何かの形で発表できるといいな~。と夢を語って下さいました。
最後に、二つ目の防空壕は上田さんによる動画作品です。
コロナによるステイホームの時、海外テレビやユーロニュースなどから沢山の情報を調べられていたそうです。
それを書き溜めている時の映像作品。後ろでは上田さんの家でニュースが流れている英語の音声も聞こえています。
書く事は記録である。この大変な情勢を覚えておく一つの手段です。
乗り越えようと世界中がもがき、前に向かって進んでいる最中ではありますが、一つ一つの困難に私たちは立ち上がり、いつかそんな時もあったと思える日が必ず来ることを。。。
MAPには載せていませんでしたが、一階トイレには秘かに上田さんの作品が飾られていました。お越し頂いた皆さま、お気づきでしたか?作品名は「無一物」。そのタイトルをトイレに設置する上田さんのユーモアを感じます。
展示を見にきて下さった方には、
SNSの配信を見ていたら実際に見たくなったと、足を運んで下さった方。
やっぱり実物は違うね。見ないと!というお声も多く頂き、初めて出会った4人の作家がゼロから作り上げた空間は、皆さまの心に響く展示になりました。
作家の皆さまも、やって良かった。楽しかったと言って下さり、私たちも嬉しく思います。