展示・イベント

Art Fair The Terminal

概要
作家・主催者 【漆】石野平四郎【陶芸】かのうたかお/櫻井結祈子【木彫】白石ロコ【刺繍】中村協子【絵画】金森満里奈/川口奈々子/髙木智広/玉野大介/千葉大二郎/中川潤/中村協子/山本雄教【アッサンブラージュ】mariane maiko matsuo
期間 2021年1月30日(土)~2月13日(土)
時間 9:00~18:00 ※最終日15:00迄

レポート

アートフェア。
大きな会場内に沢山のブースが設けられ、ブースごとに各々が持参した作品を展示販売するイベント。
そんなイメージを持ちますが、皆さんが思うアートフェアのイメージはどんなものですか?

今展の企画者であり、出展作家の高木智広さんはアートフェアを「一般的な定義といえば、各地から多数のギャラリーが集まり、ギャラリーに属するアーティストの作品を展示販売するイベントであり、そこへアーティストが個人で参加する事は出来ません。」と仰っておられます。

現実的で少し硬い話になってしまいますが、
新型コロナウイルスが日本でも広まり約1年がたとうとしています。
人々が集まる様々なイベント開催が難しくなり、アートフェアもその一つ。中止や延期が相次ぎ、作品の発表、販売の機会を失うアーティストは少なくありません。
じゃぁ個展を開こうにも、会場費や輸送費などの費用がかかるのが現実であり、収入源が閉ざされたアーティストにとっては身動きがとれない悪循環。
経済が低迷すれば価値が不確定なアート作品を売る事はより難しくなり、この様な状況でアーティストはどう生き抜くのか?
運営する団体があっての大規模なアートフェアの開催が難しいのであれば、コロナ禍と向き合う時代と共に、その在り方も変化しても良いのでは?
アーティスト自らが主体となるプライベートなアートフェアを試んでみたい。
それが今回、町家で開かれた「Art Fair The Terminal」という展示でした。

13名の出展作家は元々グループで活動していた訳ではなく、高木さんが個人的にお声掛けをされた方々です。
関西圏だけでなく、名古屋や東京、長野県からも。
陶芸・彫刻・漆・刺繍・絵画など、搬入中には作家同士“初めまして“の挨拶が聞こえていました。
個性溢れる作品たち、ご覧下さいませ。


石野平四郎
元々は映画のセットや特殊メイクに興味を持たれた石野さん。そこから表面的な美しさを探している内に、空間を支配するような立体物へと。
コレクションし易いフィギアと、手が届きにくいアートよりの彫刻。
その間の域を、一つのジャンルとして新しく築き上げていきたいという熱意を抱き、活動されています。
制作工程は秘密ですが、水が流れる様な揺らぎ。炎の様な揺らぎを作品に表し、静寂な雰囲気の中に秘めた強さを作品から感じました。


かのうたかお
作品の一部がアンバランスに欠けている作品。一見、壺に見えますよね?
しかし壺の利便性はないので、壺ではありません。固定概念でそう見えているだけ。
かのうさんは、
「こうだと思って見えているものが実はそうじゃない。という見方をすれば、色々と面白くなっていくんじゃないかな」
そんなユーモアな発想から、陶器ではあるが使っている材料も粘土ではなく、特殊な砂を積み重ねて焼き上げた作品です。


高木智広
人間と自然の関係を考察し作品を制作されています。
絵画作家として活動されていらっしゃいますが、ガラクタ集めをされる一面も。
普段は平面を描く事が中心な生活において、集めたガラクタで作品作りは息抜きの時間。
展示では絵画、立体の両作品を展示。


玉野大介
どの作品にも必ず人物が描かれています。
玉野さんは、人に興味があられる?と思いつつも、血を流している人や、監禁されている様な雰囲気。そして人物は皆、周りに対して無関心でどこか冷めたような表情です。
そのアンバランスを、ユーモアに感じた方。または少し怖い・・。と感じた方などいらっしゃったのではないでしょうか。

口数が少ない玉野さんは「描く中で、自分にもわからない物語を呼び寄せようとしています。それぞれの人物が周りに無関心なのは、これも自分にもよく分からなくて何故かこう描かずにはいられないのです(笑)いずれその理由が分かる日が来るかもしれません」とも仰せでしたよ。


中村協子
2020年から制作されている「異人さん」シリーズ。
欧米で発行されたアジアをモチーフにした刺繍図案集から、中村さんが選んだモチーフを再現刺繍。
欧米から見たアジアへの憧れと偏見が入り混じった視点を面白く感じ、制作されています。


mariane maiko matsuo
命の根源を探しに行くような気持ちで制作を続けてこられた作品。
「今を生きる私達に身体からのメッセージは大きい」と、細胞を意識し描かれた作品も並びました。


中川潤
バスにゆられ、夜勤のお仕事に向かう通勤途中。
毎日バスから見える人をデッサンし、工房で色付けをする。
木材屋さんで調達した木版に、貼り合わせた作品。


白石ロコ
防空壕に現われた、京都の地底湖。
琵琶湖よりも大きな地底湖が京都の地下には存在し、実は琵琶湖と地底で繋がっている。というお話を耳にされ、白石さんの想像が膨らんだ世界観です。
実在する生き物をそのまま追求するよりもMIXした方が面白いと制作されている彫刻作品。
作品の素材は香り高いクスノキ。防空壕はまるで、アロマを焚いたの様な香りで広がっていました。

一切光が入らない真っ暗な地底湖。そんな冷たい水の中が、実はいい香りで満ちていたら面白いですね。
世界は人間が中心になって生活しているのではなく、色んな生き物が共存し、生きています。


今展ではアートが少しでも社会貢献になればと、チャリティーオークションの部屋を一間設け、新型コロナウイルス感染拡大を受け、最前線で闘っておられる医療関係機関へ、作品の落札金額から一部寄付をする形を取られました。

コロナ禍の社会と向き合い、生き抜く為。
「生き物や植物が存続の危機に直面した時、変化を迫られ、環境に適応出来たものだけが生き残ってきました。
アート作品も織り成す感情を持った生き物のようなものであり、今まさに変化を迫られているのかもしれません。オンラインでアートを鑑賞する機会も多くなりましたが、実物の作品の前に立つ事は、やはり別の体験です。
生で作品を観て頂けること、アートを介して同じ時代の空気を共有出来る喜びを今、改めて感じています。」と、高木さんは仰せでした。

出展作家の多くが初顔合わせであり、この展示を機に縁が広がり、
また、展示を見に来て下さった中にはギャラリーの方も多く、そこから出展作家に新しいお仕事や、繋がりが生まれた事も伺っています。
私たちの地道に活動を続けている事が、ほんの微力かもしれませんが貢献ができ、見にいらして下さる方にも楽しんで頂けて嬉しく思います。
言葉の代わりにアートで表現するアーティストたち。自らが新しい発想を生み、行動にうつす大切さを、展示を通して実感して頂けたのかもしれません。
何より、早く安心して過ごせる世の中になれば。その日は近いはずです。