展示・イベント

frame of self

概要
作家・主催者 國廣 沙織(書家・アーティスト)
期間 2022年8月5日(金)~8月21日(日)
時間 9:00~18:00

レポート

作品紹介の前に、まずは社会人経験を積んだ後に書家の道へと進まれた経歴をご紹介させて頂きます。

子供の習い事といえば習字か、そろばんが定番な広島県の田舎町で育ち、
同級生も教室に集まり楽しいからと、その何となくで書道教室に入られたのが書の入口でした。
高校卒業後は書道教室を辞め、医療事務の専門学校へ進学されて広島の病院で勤務されます。
職が合わなく退社された後、田舎で仕事の幅が狭く、お姉様がCADのお仕事をされていたので國廣さんもCADを学び、橋を造る設計事務所へ再就職されました(書道教室も趣味の範囲で再開)
社会人生活を送っていく中で、橋が出来上がった時には自分にはもう遠い存在になり関わっている感覚が無くなる気持ち。いつの間にか出来上がっている感覚。
何か目の前の事に対して人が喜んでもらえる様な、生きがいのある事がしたいと思う様になっていき、自分が出来る事って何だろ?と考えた時に浮かんだのが、続けてきた書道。
書を職業にしたいと決意されたのが26歳でした。そして2012年に東京へ上京されます。
書道展を開くのではなく、この人といえばコレ!という様な他の人にはない強みと、自分らしい表現を模索していき、その結果がまさに今代表的な作品となっている、ひらがなをアクセサリーにするという事でした。

とはいえ、知らない東京へ行ったところでどうやって形にしていったのか気になりますよね。
上京して約3年は仕事をしながらイベントのお手伝いをし、人と会う場を積極的に作る生活。
異常なくらい沢山の人に会っていたと仰っています。
アクセサリーを作る上で試作を紙で作ってアクリルをレーザーで切り、どの素材で出来るかを「それなら●●さんを訪ねたらいいよ」と教えてもらえれば、どんどん会いに行き、今 國廣さんのアクセサリーを作っておられる職人さんと出会われました。
最初からレーザーは使いこなせるの?何処でどうやって?と思いますが、ファブスペースに出入りして勉強会などに参加し、身に付けたそうです。
今も月に何回かはアクセサリーの原型を作るのに京都のファブスペースに足を運び、その形を職人さんに送ってジュエリーが完成されます。


1階縁側は、万葉集の代表的な歌人、柿本 人麻呂の歌をピアスにして掛け軸に掛けた作品です。
「あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む」
訳:長く垂れ下がった山鳥の尾っぽのように長い夜を、ひとりで寂しく寝るのだろうか

漢字は中国から伝わってきたものですが、ひらがなは日本独自のもの。
街では英語の文字が溢れていますが、造形としても美しいひらがなを残していきたい。
日本語をアクセサリーにする事で同世代の方にも手に取って頂きやすく、身に付けて身近に感じてほしい想いが込められています。


2015年~2019年はアクセサリー一本で制作を続け、百貨店や海外で発表。そこから色んな仕事のチャンスと出会い、活動して来られました。
開拓していく事にアグレッシブに動き、接客・経営・在庫管理の仕事も同時に増え、ほとんど休んでない様な生活で、ついに身体がボロボロになって体調を崩されてしまいます。
アクセサリーがある程度落ち着いたら、残していく作品が作れたらいいなと思っていた事に踏ん切りがつき、生まれ変わった気持ちでアート制作にシフトしていこうと、2019年 京都のアーティストインレジデンスに参加する為に東京から京都に拠点を移されました。
「東京で色んな職業をしている人との出会いがあり、色々もまれて勉強し、こんな生き方もあるんだ。こんな仕事もあるんだと職業の幅って広いと感じました。
色んな人生の選択肢があるんだと感じたので、それが床の間や茶室にある様な作品に繋がっているんです。
子供の頃から周りに色んな職業の人がいたなら、もしかしたら違う道を突き詰めていたかもしれないけど、知らなかったから会社に入って無理してでもやらなきゃいけない気持ちがあって、そういうものを取っ払って出来たらいいなと思って。」

1階床の間。川の流れている線を筆で表現した、陶器の作品。
筆で書いたものは最終的に平面作品となりますが、紙の上では筆を斜めに入れたり、グッと押し付ける強さや、少し戻る動きもあれば、墨の料などの、紙では見えない要素を立体にしたいと作られました。
土を練り、形を作るところ迄は國廣さんが手掛け、釉薬や焼く専門的な工程作業は職人さんが手掛けられます。
字を書いている様な気持ちで作られている作品です。

茶室。展示の約1週間前に完成した初お披露目となる作品は、自宅近くから見える山の稜線をイメージしたもの。
手前の立体作品も、陶芸となります。


「花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに」
土間・見せの間にある全ての作品は、平安初期の女流歌人 小野小町の百人一首の第9番歌をモチーフにした作品です。
國廣さんが文字を書き、それをイラストレーターでデータ化にし、箔をレーザーカッターで切り取って貼りつけておられます。


三十六歌仙(平安時代の和歌の名人36人)その和歌を詠んだ人物が描かれています。36人いる中で女性は5人しかいない。
國廣さんが社会にでた時に、男性の方がメインで仕事のやり辛さを感じた経験、
2012年の国会議員の女性の比率とほとんど一緒で、平安時代から活躍している女性の比率は、今もそんなに変わってないと実は込められた作品です。


「く」や「し」 一つの文字を色んなフォルムでデザイン。


「美」その文字の変化の成り立ちを重ねて書かれています。
普段、お世辞や嘘など色んな綺麗な事を並べていったら、その人の本音は一体どこにあるんだろう?それを重ねる事で見えてこない心理をテーマにした作品です。


掛け軸は本来、古くから受け継がれている装飾や黄金比に基づいて、今も作られます。
しかし作品には私達が知っているのとは違い、違和感を感じますよね。
社会の属性や性別、こうしなければいけないという様々なルールに縛られて生きていますが、普段自分が生活している中で当たり前の事。こういう物だと思い込んでいる事に対して疑問を持ち、立ち止まって考えてみもいいのでは。
その違和感の気付きを、掛け軸に想いを込め作品にされています。

しかしこの作品には文字が見当たりません。
初めの頃は伝えたい事を書いていたそうですが、そうすると文字に注目が集まり、表現したい違う所に集中してしまう傾向があった為、今は文字をなくしたそうです。
設計図を作り、切地をカットする工程までを國廣さんが行い、その後の工程は表具師である國廣さんの旦那様が手掛けられています。
「表具は全国でいうと伝統工芸に属しておらず、京都の表具だけが京表具というカテゴリで伝統工芸に指定されていて、全体的に職人さんが本当に減ってきています。
自分はどういった所で関われるか昔から思っている所はありました。
こういうポップな、ファッションっぽい様な事にする事でもうちょっと身近に出来るんじゃないかな。アクセサリーと近い所があるんですけど」


ひらがなへの想い
「ひらがなは、元々は造形として美しいと思っていました。
漢字の書道で荒々しく書くのもかっこいいと思うんですが、ひらがなの溶け込む様な、調和みたいな女性らしさ。強さを武器にするのではなく、しなやかさを大事にしたいと思っています。日本独自の文字として伝えていきたいです」

アクセサリー作りから現代アートへのシフト
「性格がポジティブよりかはネガティブですね。生きる中で不安な事、もっとこうなったらいいのにと思う事があるでしょ。
そういった事をテーマとして作品に残したいのがあって、言葉として主張するのは苦手なので、作品を通して私はこういう風に感じているんだ。という事を言いたいです。
まさに、掛け軸に表れていますね。
でも自己主張を政治家みたいに伝えたいのではなく、作品を見た方がどういう事かな?て考えてもらう様な入りやすさ。そういう所からの方が結局は人の心が動くんじゃないかな。と思っていて、作品になっている感じです」

生きがい
國廣さんの息抜方法について趣味を伺ってみたんですが、
学び系の気軽に聞ける「ゆる言語学ラジオ」と、歴史を面白く学ぶ「COTEN RADIO」をよく聞いていらっしゃるそうです。
書から一旦離れるのではなく、そこからヒントや発想に繋がりますし、常に学びが日常なんですね。
ご自身「貪欲ですよね(笑)常に読みかけの本があり、気になった所を抜き出して書いたりして。だから作品作るのは疲れるし、しんどいですけど、でも趣味みたいなものかもしれないですね。ヒントを何処で得よう。みたいな(笑)」

26歳の時に生きがいのある事がしたいと踏み出した一歩。
「2015年から企業しましたが、自分の作品を作る事でファンレターじゃないですけど、会った時とかメールで、作品に対して「好きなんです」と熱く語って下さる方が多いですし、新しい仕事の依頼もとても嬉しいですね。認められたというか。
そういうのが生きがいですね。踏み出して良かったです」