展示・イベント

常世の日記 DIARY OF THE UNDERWORLD

概要
作家・主催者 アレック・フィンレイ(美術作家、詩人)/小川智彦(ランドスケープアーティスト、船大工)
期間 2022年2月18日(金)~3月6日(日)
時間 9:00~18:00
備考 プロフィール

■アレック・フィンレイ / Alec Finlay(1966年スコットランド生まれ)
様々なメディアや形式を横断するアーティストであり詩人。
2020年、近年の詩の活動に対してチャムリー賞が贈られた。
フィンレイの作品の多くは、場所への認識、小屋ー楽園主義(Hutopianism)、再野生化、バリアフリーなど、人と風景、環境との関わり方についての考察から生まれている。
最近の作品として「A Variety of Cultures」(常設作品 ジュピター・アートランド、スコットランド)、「HUTOPIA」(2018年 ヴェネチアビエンナーレ国際建築展、プラダ財団主催展覧会「Machines á penser」)など。
現在、Paths for All(スターリング、スコットランド)のアーティスト・イン・レジデンスに招聘され、Scottish Covid Memorialの事業構想を担当している。

最近の出版物
「a far-off land」(2017年、スコットランド・デザイン賞最優秀出版物賞2018受賞)の他、「gathering」(2018年)・「th' fleety wud」(2017年)・「minnmouth」(2017年)・「ebban an' flowan」(2015年)・「Global Oracle」(2014年)などがある。
現在はインターネット上で毎日詩を発表。https://dailies.substack.com

アレック・フィンレイ ウェブサイト  https://www.alecfinlay.com

■小川智彦(1971年生まれ、京都市在住)
1999年から、風景を題材に様々な手法と素材から制作した作品やインスタレーションを発表。
風景の見方を意識的に変えることで、世界を更新し、見慣れない状態に保ち続けることを目指している。
2014年には素材や技術、使用目的、使用環境によって設計や構造が決定される伝統工法による日本の木造船づくりに興味を持ち、富山県氷見市の船大工に弟子入りをした。
以後伝統的な日本の木造船の動体保存活動を美術作家としての活動と並行し継続中。和船の復刻制作と調査研究を行なっている。

主な展覧会
「景風趣情」(2021年、成安造形大学)(2019年、Gallery PARC)(2013年、京都芸術センター)
「庭園観測」(2019年、アーティストの見た無鄰菴 vol.1、無鄰菴庭園母屋、京都)
「 ‘ listening, seeing, being there ’ ART CAMP TANGO 2017」(2017年、京都)
「Art Obulist 2016『急げ!ゆっくり!』Hurry!Slowly!」(2016年、愛知)
「MOUNTAIN LINE / RYOSEN」(2016年、Botão Exhibition vol.5、Botão gallery、京都)

小川智彦 ウェブサイト  https://ogawa-tomohiko.com/index.html

レポート

小川智彦さんと、アレック・フィンレイさんの2人展。
2人は14,15年前に一度しか会ってない関係性。
その出会いとは、
小川さんが美術の研修で約10ヶ月フィンランドに滞在していた時、せっかくヨーロッパに来ているのだからと、イギリスやスコットランドにも足を運ばれました。
スコットランドの美術館やアートセンターで初めてアレックの作品と出会う事になります。
作品を見て「面白い人がいるな。会いたいな」という印象をもって一度帰国されました。
また別の機会で3週間スイスに滞在した時のこと。
若い韓国人アーティストと出会った時、なんと彼の指導者がアレックであった事が分かり、会いたい旨伝えると、知り合いを通して後日アレックに会う事が出来たそうです。
小川さんは活動履歴や作品を見せ、2時間ほどお話をされました。
会ったのは、その一度きり。
そこから連絡をとる関係性は続き、今回町家で展示をやろうよ。と小川さんが声をかけられました。
お互いの出展品作品を見せ合う連絡をした時に、アレックがコロナになっていたと知り、アレックは病室で制作した詩やクロスワードの作品を。
小川さんはコロナ禍で撮った風景の写真を展示されました。
憧れの先輩と一緒に展覧会をやっている感じと仰る小川智彦さんと、アレック・フィンレイさん2人展のご紹介です。

 

「風景」が広がる。
現実の空間にも、心の中にも広がっていて伸び縮みもする。
小さな画面の中の夕焼けに息を飲んだり、数行の詩に朝の空気を思い出すのは、心の中に風景を見てそこに佇むことができるからだ。
この数年は、空間が縮んだようで、過ごすのが難しい。
二人の作品作りはこの状況のせいで大きく変化してはいないが、この数年の窮屈さの中で各々の「風景」を見たり、形作ったり、掬いだしたりしていて、それが杖のように支えてくれているように思う。また、作品はそうした日々の日記のようでもある。

作品について
アレック・フィンレイ / Alec Finlay

■Poem Labels
風景に詩が置かれる。詩が風景を変えるか否か。
・chuntering to no-one hugging a lukewarm hottie (after Shiki)
冷えた湯たんぽを抱いて、つぶやくと独り。(子規によせて)
・do too much little tie in a lie in
なにもできない ただ横たわる この私と、ゆっくりと、手をとる
・Time to add a stone to blossom & pollen (grave poem)
碑はおかれる。花びらと花粉のひろがる上に。(墓の詩)

 

■Les Arbres (after Georges Perec)
クロスワードパズルは暇つぶしにちょうどいい(病床でも)。一冊のクロスワードパズルに木々が植えられ、森が現れる。

 

■cross words
クロスワードパズルは暇つぶしにちょうどいい(病床でも)。黒い􀀀を描き足して、対称性をもった柄を描くというパズルの解き方の発明。

 

■tea-moons
お茶で濡れたカップが満月を描く。遠くから運ばれてきたお茶の、その産地を思い詩を綴る。

・さて、紅茶の時間です。ころがる玉のように。
・ゆっくりと、慎重に、呼吸をととのえて。一日はもう終わるころ。

 

小川智彦 / Tomohiko Ogawa

■茫洋 / The Vastness
果てしなく続く水平線を実際に見るのはなかなか難しい。どこまでも続いて欲しいのだが、島や半島や防波堤が遮る。
カメラを水平に固定し、シャッターを解放、そしてフィルムが水平に送られればどこまでも続く水平線が現れる。捏造ではない。原材料は全て実際に見えていた風景のみだ。

 

■潮汐表 / Tidetables
遠くの水平線は動かないようだが、潮の満ち引きというのがあって海面の高さは動いているらしい。大潮、小潮、若潮とか、変化の仕方も色々ある。それを自分もなぞってみた。

 

■ワープの練習 / Practice warping
空間を超えて瞬時に移動(ワープ)するには、空間を紙のように折りたたむことで出来ると何かの本で読んだ。
飛行機雲を折りたたむことでワープが出来るかどうか。

 

■雲のパズル
流れる雲は少しづつ形を変えて、二度と同じ姿にはならないし、その変化を記憶に留めることも自分はできない。
膨大な瞬間の積み重ねがそこにはある。その途方のなさを手のひらに乗せるためのパズル。

 

今回アレックさんは来日出来ないので、小川さんお一人で展示の準備をなさいましたが、小川さんはどんな方なのでしょう。

小・中・高と水彩・油絵でも絵を描くのが上手で、家にあった美術全集を自ら進んで見ていた学生時代。
やりたい事が定まっていない高校生の進路を考える時、お兄さんから美大がある事を教えてもらい、それをきっかけに地元北海道の美大に入学されます。
一回生ではコース分けせずに、日本画・油彩・彫刻・木工・金工の全てを学び、二回生の時に好きな学科へ進むスタイルの学校でした。
油彩は競争率が高かった為、成績が良かった彫刻に進み、彫刻の作品作りに没頭する毎日。専門は木彫ですが、金属も石彫も一通りスパルタで教え込まれたそうです。
学校を卒業して30歳くらいまでは彫刻を続けて来られましたが、「何か違う。自分が表現したい物とメディアが合ってない感じがしていた。」その違和感から31歳の時に彫刻を止められます。

彫刻で色んな技術は出来る様になっていた事から、十勝で制作していたアーティストから現地のアシスタントが欲しいと、小川さんに声がかかりました。
そこからテクニカル業の仕事の注文が少しずつ入る様になり、北海道だけじゃなく、東京や九州へ行くようになります。
だんだんと北海道にいる事が少なくなっていき、過去に京都で展覧会をした時に作家の知り合いが増えた縁もあり、4・5年前に拠点を京都に移されました。

小川さんの作品は写真や映像、立体であっても自然を題材にした作品が見受けられます。
そこには、
サイトスペシフィック・アート「その場所でしか出来ない芸術」という考え方があり、例えば山奥の川で、紅葉の葉を赤から緑まで探して並べる。美術館では展示出来ない、物でもない。そこでしか成立しない美術のジャンル。
小川さんは、そういった事がやりたいという思いがあり、
「大きなスタジオがなくても、この机で出来る作品を考えて作ろうと今でも思っています。だから条件が制限されているのは全く構わない。
このスペースで作れるけど、でもその作品はもっと大きな空間と繋がっている。という事を僕はやりたいんです。
出展したパズルの作品は、持ち運べる空なんです。物は小さいけど、もっと大きなものを表現出来ると思っている。
自然ではなく風景をどう見るか。をやっています。見慣れてしまわない様に。
それをユーモアやトンチを使って、あらゆる形で表現しています」

世の中がコロナで沈んでしまい、仕事もキャンセルになり、本当に静まりかえった。しょうがない。
行政からの芸術家向けの補助金を使って、実験的な物を作ろう。
前々から水平線を見て不満だったのが、半島や防波堤が邪魔に思うこと。
どこまでも見渡せる水平線のイメージを作り出せないだろうかと、それを実現する方法を考えて「茫洋」の作品が生まれました。

車で走っている時に目の前に水平線がひらくと、あーー!海だーーー!と心躍る小川さん。
それに見入ってしまう不思議さ。そういった事を作品に取り込みたい。
その、わーー!だったり、へぇ~!という湧き上がる気持ちを、作品を見てくれる人にも思い起こしてほしい。
「彫刻止めてから、素材も方法も題材も、全部自分の外側にあるんだと思ったら、
それは自分の中から湧き上がるもので何かるすよりも、ずっとずっと色んな事が出来ると、気持ちが晴れやかになった事があります。
使う物は映像や、拾ってきた小石や木、写真でもいい。今の僕のスタイルは何か風景の事をやっている事がメインで、自然風景の物を取り扱うので写真とはすごく仲良くなってしまいますね」

今回の2人展において、前途で小川さんの軸になる「あるその場所でしか出来ない芸術」サイトスペシフィック・アートという考え方がありましたが、アレックさんいついても、
「クロスワードがあるから、そこからアプローチして、彼も出来る条件で作品を作っている。
そういう所も分かりあっている様に思う。お互い喧嘩しない。
自分たちが目指す美術作品の方向性、見た人がどうしたいかが似てるんだと思います」と言葉を残されています。

しかし小川さん、伝統工法による日本の木造船を造る為に弟子入りをし、今ではお一人で造る事が出来るそうです。
その土地その土地で使いやすい船が長い時間の中で定まって造られ、海の環境、その海でやる漁のスタイル、そこで使える木材、そこで手に入る道具の条件でデザイン。
そこもサイトスペシフィック・アートに実は繋がっていて、綺麗に作ろうとしている訳でもない。自慢したい訳でもない。使いやすい物を作っている。それがいい定まり方だと木造和船の魅力をお話して下さいました。
長くなるので話を端折りますが、木造船を造れる人が本当に限られている為、そういった使命を師匠から渡されたようなものだからやっていきたいと仰せです。

最後にテクニカル業、アーティスト業、木造船造り。活動の場が広く色々な顔をお持ちの小川さんにとってアート作品を作る醍醐味を伺いました。
「水平線の写真もそうですけど、作り方を先に考え設計する事が多いですね。
それをやってどうなるか想像はしているけど、実際に何が起こるかの細かい所までは分かっていない。
自分の心がどう動くかまでは分かっていないんです。
実際に制作していくと、目の前で凄く変な事がおこるんです。想定外の物が出来る。
わ!こうなるんだ。とか、気持ちわりっ。だとか。
だからゴールはあまり決まっていなくて、実際にやってみるとこんな物が出来てしまうという。
頭の中で作り方の設計をたてて行くけど、実際おこした時に何が出来るか分からない。
作る前から何が出来るか分かっていると、作れない様な気がして。
自分の目の前で形が出来ていく作品に、わわわ~!と心動きたい。ゆさぶる瞬間が欲しい。それが凄く楽しいです」