展示・イベント

うつろいの間 -蓮と共に-

概要
作家・主催者 長谷川 政弘(金属彫刻)
期間 2021年12月4日(土)~12月19日(日)
時間 9:00~18:00
備考 ■作家在朗日
 19日(日)を除く土、日の午後より

■経歴
1961年 香川県丸亀市生まれ。京都府木津川市在住
1984年 大阪芸術大学 工芸学科 金属工芸専攻卒業
1986年 金沢美術工芸大学 大学院 彫刻専攻修了

京都、大阪、東京などで個展26回、国内外でグループ展多数
彫刻展、美術コンクールなどで多数受賞
様々な国際彫刻シンポジウムに招待され現地制作し作品を設置
国内外にパブリックコレクション多数
現在 大阪芸術大学 工芸学科 金属工芸コース教授
HP http://masaab.sakura.ne.jp

レポート

2003年から18年間にわたり蓮をモチーフに作品を作られている長谷川さんが「京町家と金属作品との親和性」をテーマに、蓮を中心とした展示を開催して下さいました。
このテーマを基に、今年の夏に祇園のお茶屋さんでも展示をされています。
同じ町家でも立地や広さ、目的が違う建物で、どの様な違いが生まれ、金属が調和するのかを研究とする一つのプロジェクトでした。
祇園のお茶屋さんは、少し怪しさを秘めた妖艶な雰囲気を残す空気感。
一方The Terminal KYOTOは間取り一つ一つに、おおらかさがあり、何処までも開けていける様なカラっとした空気感だと仰る長谷川さんの目には、このプロジェクトがどの様に映ったのでしょうか。

 

過去の展示会場にて、狭い空間に大蓮の作品を展示された時の事。
空間パツパツに入れた作品は、とても大きく見えると思ってみたら、全然大きく見えなかったそうです。
蓮の花びらだけでなく、長くのびる茎もある作品。
作品を置いてもまだ空間的に余裕があった今回の展示で、形を生かす為には空間の余裕が必要だという事から、実物以上に大きく見えた感覚に驚かれたそうです。

18年も蓮を作り続ける事を聞くと、今までノンストップで制作されているイメージが湧きますが、実は50歳を過ぎて周りの同年代とご自身とを比較した時に、自分はこの程度なんだと気持ちが上がらなくなり、グループ展には細々と参加するも、気付くと8年個展を開いていなかった時期があったそうです。
そんな時に木津川アートという場にて、長谷川さんに与えられた場所が雑木林を上手に使った遊具のない、遊歩道がある公園。
今迄であれば蓮を入れ込もうとするが、そういう押し付けを止めて、この場所には純粋に何があったらいいか。積み重ねではなく、何を置きたいか。
その時にひらめいたのが「アリやな」

針金で線状の立体物を作り、服を着せるようにバランスを見ながら鉄板を貼り付ける作業。
こういった忠実に作る作品は根気と、上手いか下手かがすぐに分かる為、今の自分に何処まで出来るか怖さと興味とで取り掛かり、思ったような出来栄えに、まだ自分は出来ると手ごたえを感じられました。
“作らなあかん”という思考から外れ、もっと自由に作りたい物へと。

日が沈む頃に木津川を車で走っていると、空の色がオレンジ色からだんだんと紫や青色へと移り変わり暗闇になっていく風景を何年も綺麗だと思われていたそうです。
その時に見える色を、冥色(めいしょく)という言葉があり、夕刻の一瞬の移ろい、はかない時間を作品に込められました。
鉄が持つ錆びのオレンジや赤色、焼いた時に見えるブルー、紫、黒。
素材の色がまさに冥色と重なり、空の複雑な色を蓮に投影されています。

 

長谷川さんは、木や石、土ではなく、金属と相性がいいと仰います。

「人間は同じ作業をしているつもりでも、その時の体調や思いで結果が違う時がある。
作業工程で無茶をすると、素材は失敗し「それ違うー!」と金属から感じられる抵抗と対話がある。
素材が間違っていることは100%なく、どっかで自分が間違っている事をはっきりと金属は答えを出してくれて、作品を作るうえで面白いのはそこ。信頼性もある。
素材との対話の成立のさせ方で物が変わっていくので、それが安心出来るんですね。裏切らないから。
というのが好きで金属をやっていると思う。他の材料を使ってみようと、興味が湧かないんですよね」

自分で何かを生み出したい。その出来る術が、唯一アートだったと言う長谷川さん。
会社務めをしていた20代は“会社の中の長谷川“にすぎないが、展示で作品発表している時は”アーティスト一個人の長谷川”である。
それが、社会と繋がっている様に思え、心が救われたそうです。

「その形にする為に、その素材を使う。強制しながらその技術を必要とする。
金属は熱をあてると反る性質があり、その偶然になる歪みも取り入れて作品作りするのも今後の課題として面白い。
僕の理想は、“鉄板一枚ででも想いがこもっていて、コンセプトが成立しているなら、シンプルだけど何かいいものになる。”が最終的なほんとの理想なんです。彫刻・立体物というのは、物を置いても空間を必要とし、周りを含めた立体作品で、そこが一番面白い所。
作品を置いた事で、今までの空間がこれだけ違って見える仕事がしたい。」

金属作品と調和させる空間構成の面白さは、制作を続ける上で醍醐味の一つなのかもしれません。