展示・イベント

悲とアニマⅡ ~いのちの帰趨~

概要
作家・主催者 池坊由紀 入江早耶 大西宏志 大舩真言 岡田修二 勝又公仁彦 鎌田東二 小清水漸 近藤高弘 関根伸夫 成田克彦 松井紫朗 吉田克朗
期間 2021年11月19日(金)~11月28日(日)
時間 9:00~18:00 ※最終日17:00迄
備考 監修 :山本豊津
企画 :秋丸知貴
主催 :現代京都藝苑実行委員会
後援 :両足院・The Terminal KYOTO・上智大学グリーフケア研究所
協賛 :株式会社サンレー・一般社団法人日本宗教信仰復興会議・京都伝統文化の森推進協議会
協力 :村井修 写真アーカイヴス(村井久美)・京都大学こころの未来研究センター・豊和堂株式会社


レポート

第一線でご活躍されている作家たちが集結した「悲とアニマ」展は、6年ぶりに開催されました。

出展作家である鎌田東二さんは、研究の一つに日本的感受性とは何かについて考究されておられ、
そこには学者だけでなく、アーティストの方も多く参加されているそうです。
では、アートでどう日本的感受性が表れるのか?
しかしそれは東洋や富士山、芸者…。そういった事ではなく、一体どういう時に…。
当時は、東日本大震災の記憶が徐々に忘れ去られようとしている中、自然に癒される傾向が多く見られ(その傾向はコロナ禍においても重なる所がありますね)日本的感受性というのには人間の力を超えるショックな悲しい出来事があった時に表れてくる「悲」。
そしてアニマは、ラテン語で魂・生命を表す言葉。
そこから「悲とアニマ」というタイトルが生まれたと、企画者の秋丸知貴さん(美学者、美術史家、美術評論家)が教えてくれました。

1回目の開催は5会場で行われ(内、一会場がThe Terminal KYOTO)、そして今年は建仁寺塔頭・両足院との2会場で開かれています。
両足院では「彼岸」を。The Terminal KYOTOでは「此岸」をテーマにし、
あの世とこの世。両会場に足を運ばれた方は、その対比された世界観をご堪能頂けたのではないでしょうか。
さて、前段が長くなりましたがこのページでは町家の会場「此岸」、人間の世界に取り込まれた自然を一部ご紹介させて頂きます。


池坊由紀:生け花(一階床の間)

「巡り」がテーマ。
両足院では命が天に戻っていく、帰っていく事とし、黒色に着色したシダレグワを下から上に昇っていく様な展示に対し、町家では白色なるまで脱色したシダレグワを上から垂れ下げています。
昇っていった命が、また私たちのいる地に産み落とされ、また巡っていく想いで展示されました。
花器は、坪庭や防空壕にも展示をされた近藤高弘さんの作品です。
16世紀に書かれた池坊の花伝書には、
「昔から美しい花を生ける事はされてきたが、それは本当の生け花ではない。
自然をよく見て、ヒビの入った壺に枯枝を挿す。それこそ本当の生け花。
つまり表面的な色や形の美しさだけでなく、命をあるがまま受け止める。そういった包容力がないと本当の美というのは生まれない」とあるそうです。
池坊さんは、近藤さんの器を見た時に割れた所がともて魅力的に感じられ、16世紀の生け花の美に対する解釈、哲学を呼び起こし、伝統をふまえた上でどういう事が出来るのかを意識されたそうです。
枯れたアンスリウムの葉には、枯れたものを愛でるという日本の優しさを表現。
枯れただけでは終わらずに、そこからフツフツと生きる、小さくても確実に燃えていこうとする情熱を赤い花に託されています。

池坊専好で出展となると、次期家元として活動する形になるので、今回の展示は土俵がアート。その舞台の中でアート活動する池坊由紀でご参加されました。
両足院では葉や花びらが落ちても自然の移り変わりも作品とし、拾わずにそのままで展示された様ですが、生け花界だとそれはあり得ない事。本来の生け花と、アートとの大きな違いですよね。
今後も池坊由紀さんは、活動の幅を広げて挑戦を続けていかれます。


大西宏志:映像(防空壕東)

防空壕を見た時に、空間自体がすでに作品になっていると感じられ、光も付けない音だけの空間を演出されました。
幅が狭くて急な階段を下りていった、暗くて狭い空間で時間を過ごすと、町家が「此岸」という事もあって、お母さんのお腹の中の様に感じ、生まれる前の状態がいいだろうと、防空壕を子宮、階段部分を産道に見立てられました。
赤ちゃんがお腹の中で聞くであろう、お母さんの心臓の音や、水の流れる音は羊水の中で胎盤に流れる血液の音、呼吸の音などを加工して演出されました。
防空壕東の上、一階は喫茶ルームになります。偶然にも池坊由紀さんがお話された、命がまた戻ってくるイメージ。
それが子宮に見立てた防空壕東に繋がり、受精した様にも思ったと感想を仰っておられました。


近藤高弘:陶芸家、美術家(坪庭、一階床の間、防空壕西)

2011年迄は技術と経験で傷や、ゆがまない様にコントロールする仕事をされてましたが、
3.11以降は焼き物の世界だとキズ物になる割れ、ゆがむ事も土のもつ性質、作品の魅力に必然と思うようになり、現在で白磁シリーズは8年ほどの活動。
大きな白磁は100個を目指して制作されています。

防空壕西には、ウランガラスを水に見たてた小さなガラスキューブに封じ込め、ブラックライトを当てて光を放つ作品。キューブは800個ほどを使用。
流石に福島で焼却された灰は使えないので、体に害のないチェコから輸入したウランガラスを用いて福島の原発問題を上げています。


松井紫朗:立体造形(茶室)

自分の立ち位置によって、それをじっとズームインしていく事に興味を持ち、ズームアートを展開される松井紫朗さん。
自身の視線、背後からの視線、色んな見方を行き来する事によって対象物との関わり方に変化をもたらす事に注目されています。
茶室でとても印象的なスリッパの作品名は「Slip-per」
擬音の表現になりますが、松井さんは「スリップしてビューー!の様に、スリッパと動詞を掛け合わせ、スリッパでありながら時間の流れた後、色や影も回る様に、面白い物を生み出せたら」と仰っておられました。


大舩真言:絵画、立体、インスピレーション(一階縁側・二階茶室横の廊下)

彼岸と此岸のテーマが決まり、町家の会場を下見で来られた時、上にあげたこの景色が直感的に大舩さんの目に見えたそうです。

物自体を見せたい訳じゃなく、何故絵を描く人がこの様な事をするのかを大舩さんは、こう仰います。
「空間そのものを絵と見立て、そこに何か絵を描いている様な。
和紙に書く。石に書く様に、常に自然と対話があるので、同じ様にこの庭という空間と対話した中で、その全てを見せたい。その中に麻が存在している事で感じる物を作品にしたいと思った」

大舩さんご自身で麻の長い繊維をほどき、割いて作られています。
麻を使うのは難しく、一年ほど麻を使う職人さんの所に通い、扱い方を教えてもらったそうです。
繊維なので絡まったり、もつれたりと1時間作業のつもりが、5時間たっていた事も。
しかしその作業を辞めたい訳でなく、没入させてくれる。そこに堪能しながら楽しいと思える要素は、絵を描いてる感覚と極めて近かったと仰せでした。


小清水漸:彫刻、インスピレーション(二階和室・天高の間)

天高:垂線
学生時代に空間とは何だろう?と2,3ヶ月ほど思い悩んだ末に、実態として見せてしまう。
重力も直線も、頭の中では皆分かっていても、実際には見た事がない。
重力は目で見える実物として、1969年の冬に発表された作品です。

和室:表面から表面へ―オイルパステル2021
半年滞在したヨーロッパから1972年に帰国され、人生で初めて展示の招待を受けて出展された毎日現代展。
招待されたものの、当時はもの凄く貧乏で彫刻の材料を買うお金がなく、どうしよう?と考え思いついたのが、このオイルパステルの作品。
子供が使う25色のクレパスを買い、ケント紙に色を塗り、25枚の作品を壁一面に並べたそうです。
ドローイング、お絵描きのつもりではなく、紙とクレパスで作る彫刻という意識で発表。
今回の展示では、
「昔お金がなかった時に描いた作品を思い出して久しぶりに書いてみようと、
少し高いクレパスと、少し高い水彩紙を買って、ちょっとだけ金持ちになった気分で色を塗りました。
本当は壁にかけて見てもらうと、僕がどんだけ楽しんでるかが分かりやすいと思いますが、子供が書き散らかした様な状況も、77歳の私が楽しんでるな。と思って見て頂けたならと思います」


6名の作品をピックアップしてご紹介させて頂きましたが、
両足院では禍々しい自然「彼岸」
町家では日常生活の自然、都会的自然、壊れつつある自然など、研ぎ澄まされた作品で人間の世界に取り込まれた「此岸」を繰り広げて下さいました。