展示・イベント
してん の交差
- 概要
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作家・主催者 粟野桃世(日本画)/小西登也(日本画)/山本涼太(日本画)/岡田さくら(漆工)/西野桜子(染織)/吉田千夏(陶磁器) 期間 2026年6月4日(木)~6月10日(水) 時間 9:30~18:00 備考 京都市立芸術大学 修士一回生による展示

レポート
京都市立芸術大学大学院で日本画、漆工、染織、陶磁器を学ぶ、今年から院生に進んだ同級生たちによる展示です。
展示をするにあたってまず考えたことは「学校の展示ではできないこと、この場所だからこそできることは何だろう?」「専攻の違いを生かした展示づくり」という問いから始まったそうです。
例えば喫茶スペースだと、立って見るだけでなく座って眺めることで生まれる視点の違い。
また、制作の過程でお互いの専攻で不要になった材料を交換しあい、それを新たな作品へと展開する試みにも挑戦しています。
タイトルの「してん」がひらがなで表記されているのは、「視点」「始点」「支点」といったさまざまな意味が重ねられています。
作品をいろいろな、してんから見てみること。作家自身も新しい展示方法や表現に挑戦してみること。専攻が違うそれぞれの領域だからこそ生まれる発見や可能性が、展示のあちこちに垣間見えます。
そんな学生たちの実験や挑戦が、町家の空間の中でどのように交差しているのか。ぜひ会場で感じていただきたいと思います。
日本画 粟野桃世/Momose Awano
靴を脱いで鑑賞するギャラリーに、私は強く惹かれます。壁や床とのあいだにある抵抗が和らぎ、作品とより 自由に向き合えるように感じるからです。
作品の正面に座り、静かに対峙する時間もまた、この空間ならではの 体験だと思います。 私がメインに作品を置いている「天高」と呼ばれる部屋は、線対称に通る柱と壁の構成が美しく厳かな雰囲気 を湛えています。人間が祈りを捧げるための建造物や意匠には、左右対称のものが多く見られます。
私はこの 部屋にも、それに通ずる神聖さを感じました。 天高という特殊な空間を、私自身が虫たちに見出している美しさや物語性、そして信仰にも似た感覚を象徴的 に表現する場としました。 幼い頃、私は草むらをかき分けながら四方へ飛び立つ彼らを夢中で追いかけていました。その姿は、草原を 駆ける流れ星のようです。対照的に、その習性からくる畏怖は古くから多くの物語や想像を呼び起こしてきまし た。私はその相反する二つの側面に強く惹かれています。その眼差しをもとに、トビバッタを観察し、独自の解釈 を重ねながら作品へと展開しました。空間の中で、私や鑑賞者、それぞれの視線や解釈が行き交えば良いな、 と思います。

日本画 小西登也/Touya Konishi
ソテツという植物をモチーフに制作に取り組んでいる。ソテツの群生を写生する中で見える幹と葉の関係や、ものが空間に及ぼす影響などに興味を持ち、ソテツを主題とした風景を画面に構成しながら、ソテツの存在感や風景的な光や陰といった現象の影響をイメージの中で合わせることで、自分が見ることのできる風景を描きとめている。ひとつのモチーフに焦点を当てて描くことで風景の切り取り方に変化をつけながら自分の風景のイメージを豊かにする試みを続けており、今回の展示では町屋という景色とソテツというモチーフを掛け合わせることの試みがあった。粘土でのドローイングや町屋の中での作品の見え方の変化など新たな試みの中で得たことを今後の制 作にも繋げていきたい。

日本画 山本涼太/Ryota Yamamoto
ぼーっとしている時、外の時間は止まっていて、ふと気づくと目の前の景色が変わっていることがある。
そういう時、世界は勝手に回っているんだなぁと思う。
今回の展示では、瞑想する人とその周りで次々と抜け殻になっていく蝉たちの作品を展示しました。

漆工 岡田さくら/Sakura Okada
私はこれまで、木・漆・紙・布など異なる性質をもつ素材の関わり合いから生まれる形に魅力を感じ、制作を行ってきた。複数の素材と機能が関わり合う印籠や刃といった工芸品に関心を持ち、それらに宿る知恵を自分なりの方法で制作に取り入れている。他専攻のメンバーと行う今回の展示では、普段用いることのない陶器を取り入れるなど新たな素材に挑戦するとともに、使う場や人との関係性を重視した道具の制作にも取り組んでいる。素材の組み合わせや造形を通して自らが愛着を持てるかたちを探りながら、人の暮らしに寄り添えるような道具のかたちを追求していきたい。

染織 西野桜子/Sakurako Nishino
本作は、THE TERMINAL KYOTOという場所で展示することをきっかけに、初めて入る空間と私とのあいだに生まれる想像をもとに制作した。この場所は、何度訪れても新鮮で少しそわそわする。だから私は、暮らしの記憶や空想を重ねながら、この空間とお話しをする。 きれいな土間の床を見て洗濯物を思い出したり、扉が実家の本棚みたいと思えたり、この窓枠に汽車が走ってたらいいな、とか、人は新しい空間やモノに出会ったとき、過去の記憶や想像を手がかりに、その存在との距離を少しずつ縮めていくのかもしれない。本作を通して、鑑賞者それぞれの記憶や想像に触れ、空間や自分自身を見つめる小さなきっかけになればと思う。

陶磁器 吉田千夏/Chinatsu Yoshida
本来であれば不要となる染織の布きれ、日本画の和紙の端っこ。私たちは、何だか捨てられずに色んなものを取っておいてしまうメンバーである。これらを作品にできないだろうかと、新たに挑戦したのが今回の展示に向けた新作《バリエーションⅠ》である。どこから粘土で、どこから粘土ではないのか。作者も模索しながら、素材の探求をし続けることを試みている。

Q:学生さんたちへの質問
■制作を始めるとき、最初に現れるのは何ですか?
粟野さん:イメージが浮かんだら、ひとまず画材や大きさに問わず形にしてみるようにしています。空間が立ち現れる時もありますし、脳裏に面白い形が点滅している時もあります。日本画材を扱うことが何よりも好きなので、早い段階で画面に向かうことが多いです。
吉田さん:いつも、まず素材からはじまります。コンセプトと実際の形などは行ったり来たりです。
岡田さん:関心を持った道具について調べることから始めます。構造だけでなく使い方や歴史も知った上で、最初に決めすぎることなく、彫る感覚や手触りを大切にしながら手に馴染む造形を探っています。
西野さん:普段考えている何気ない物事や人との関係性です。例えば、明日の朝ごはんのことや子どもの頃のトラウマ、他人との関係性など、私は日頃からさまざまなことを考え込みがちです。そうした毎日の中で見ている人やもの、出来事を思い返し、そこに立ち現れるモチーフを無造作に並べてみたり、ある風景の中に感じる私生活の断片を取り込んでみたりしながら画面を構成しています。そして、その立ち現れたイメージに合う素材や染料を考え、どのように色が乗るのかを実験しながら、また画面構成に戻るということを繰り返して制作を進めています。
山本さん:僕にとって、制作と生活は地続きなものなので、突然何かが現れるのではなく、普通に生活をしていて、気になったこと(好きか嫌いかは関係なく)がその時考えていることと繋がって制作が始まる感じです。
そういう意味では素材(気になること)に触れてみて、手を動かしながら繋げていく制作なのかなと思います。
小西さん:表現したいソテツ特有の形や存在感というものがあります。ソテツの自然な形を画面に表現するために、ソテツの群生を現場で描くことを制作のきっかけとしています。現場では形を細かく見るデッサンと、現場で描く時に湧く形や色のイメージを捉えたドローイングなど色んな描写を踏まえて、それを自分のバランスで複合させながら、制作をすることが多いです。
■今回、異素材を使った作品がありましたね。何を取り入れましたか?他分野のものを取り入れて初めて気づいたことは?
粟野さん:陶磁器のドローイングを展示させていただています。形を探りながら粘土を成形し、そこに絵を描くというプロセスは普段の自分の日本画制作と意外とあまり変わらないなという印象を持ちました。他にも立体物を展示していますが、自分の立体には明確な表と裏が存在していると気が付きました。

吉田さん:私は布と和紙を取り入れました。その素材らしさを活かすのが難しかったというより、素材に助けられたという方が正しいかもしれません。意外なところにヒントがあると知りました。どこに制作のヒントがあるか分からないので、どんなことにも貪欲に関わりたいと思うようになりました。

岡田さん:初めて陶器に漆を塗る陶胎漆器の制作に取り組みました。木との性質や扱い方の違いが面白かったので、陶器と木を組み合わせた作品にも興味が湧きました。どちらかというと、他分野の人に自分の制作で出る木屑を使ってもらったことが印象に残っています。自分では思いもよらなかった使い方があることに気付かされ、木に対する見方や可能性が広がりました。

西野さん:漆工の岡田さんの制作で出た木屑を取り入れました。木を染料で染めたり、それを私が普段使う綿に置き換えて造形してみたり、また木屑で布地を染めたりしました。今回は素材性に任せてみることにしました。木を染色したことはなかったのですが、染めムラや造形をあまりコントロールしようとせず、素材そのものの形にミシンをかけてみるなど、素材との対話を楽しみながら制作しました。
普段使用している布や糸が、いかに自由自在な素材であるかを改めて実感しました。木は硬く、思うように動かすことが難しく、繊維とは全く異なる性質を持っていました。同じ工芸であっても、素材や技法が違えば制作との向き合い方も大きく異なることに気づき、改めて他専攻の技術や表現に感銘を受けました。

小西さん:今回陶磁器を体験させてもらい、ソテツを立体化する試みができました。ソテツを並べてできる理想の空間構成や単純な形態に落とし込む作業ができたと感じています。これらをドローイングの一環として今後の制作に取り入れていきたいと考えています。日本画材の土絵の具と陶磁器で使う陶土との親和性だったり、自然由来の素材を扱うことの難しさなど共通して感じました。

■今回、あなたの『してん』はどこで揺れ動きましたか?
粟野さん:THE TERMINAL KYOTOという空間に、自分と作品と、空間との境界が曖昧になるところが好きです。
吉田さん:自分と、見る人のしてんが、全然違うことに気づきました。
岡田さん:今回私は、使う場や人との関係性を重視した道具を作ることをテーマに、初めて家具の制作に取り組みました。普段行う木彫とは違った視点から木に向き合うことができ、完成した座椅子に実際に座ってみると、風景だけでなく時間の感じ方や、その場に自然と馴染む感覚まで変わったことが印象に残っています。
西野さん:この空間を見た時です。THE TERMINAL KYOTOには何度も訪れたことがありましたが、自分が展示すると考えた時、これまで暮らしてきた空間や過去の記憶と重ね合わせながら、この場所を捉え直しました。
この空間を自分自身の展示空間として成立させるために、改めて解釈し直したことが、私の視点が揺れ動いた瞬間だったと思います。
山本さん:場所と作品の関係性という点で揺れ動きました。
小西さん:和室空間に作品を展示することは、普段ののギャラリー空間とは異なる見え方を感じました。畳や木材、障子などの素材で構成される和室は、自然に近い画材を使う日本画作品と親和性があり、空間と作品が一体となって見えることで鑑賞者が作品だけでなく周囲の環境も含めて体験できる展示になったと感じます。そういった空間と作品との関係の重要性や、自分たちの作品の魅力について気づく経験になりました。
■日本画、漆工、染織、陶磁器は、それぞれ長い歴史がありますが、今回の経験であなたの専攻の常識を一つ壊すとしたら何ですか?
粟野さん:むしろ今回の展示で、本来の日本画の在り方に少し立ち戻ったような気がしています。支持体を屏風の形にするアイデアもそうですし、薄暗い空間で作品が照らされることで、岩絵具の輝きも際立っていました。
吉田さん:焼成こそ、陶芸な技法の一つ。粘土以外の異素材探求に可能性有りな気がします。
西野さん:染織には三纈をはじめとするさまざまな伝統的技法があり、着物や帯などの伝統工芸品や「用の美」が、従来の染織らしさとして受け継がれてきました。
一方で現代の染織作品では、伝統的な技法にとらわれない独創的な表現や、布や糸に限らない異素材を用いた作品も数多く生まれています。また、自身の思いや考えを伝えるための手段として染織技法が用いられることも増えているように感じます。私自身の作品は超絶技巧のような高度な技術を見せるものではありませんが、私が伝えたいストーリーや思いを柔らかく届けるための手段として染織技法を学び、表現していきたいと考えています。
山本さん:壊すというよりも、場所に合わせて作品を作るという経験から、日本画の本来のあり方に立ち返ったように思います。
小西さん:今回の経験では、作品だけでなく展示する場所まで含めて考えることの重要性を感じました。空間との繋がりを意識して制作することは日本画本来のあり方を見直すことに繋がると思います。
■今回、一番迷ったことは何ですか?
粟野さん:展示場所が天高になると決まった時は正直困りました。ただ、飛蝗をモチーフにすると決まった瞬間、空間のイメージがほぼ全て見えて意外と迷いはありませんでした。とてもワクワクしました。
吉田さん:「なぜ自分はこの形なのか」という悶々とした悩みがが今でも引き続きあります。
西野さん:展示方法です。土間の空間を活かして立体的に構成するのか、それとも作品全体を平面的に見せる方がこの空間に素直なのか、最後まで検討を重ねました。
山本さん:場所や他5人との雰囲気・相性を保ちながらも、作品の強度を出すことに苦戦しました。
小西さん:様々な場所から作品を見たり、他の作品との取り合わせを考えたりしながら展示を組み立てていくことは難しかったです。観用植物のように暮らしを豊かにする緑を意識しながら配置を決めました。
■学校のお仲間が沢山来られている印象ですが、展示を見てもらってどんな先入観を手放してほしいですか?
粟野さん:足を運んでくださりありがとうございます!外部での展示とか、異素材に触れてみるとか、とりあえず色々やると楽しいよ!ってことが伝わっていれば嬉しいです。
吉田さん:まだ学校外での展示をしていない人は、在学中にぜひ経験してほしい!私は学部時代に挑戦できなかったことを後悔しています。
岡田さん:私は暮らしの中に寄り添う道具を目指して制作しているので、過去に大学で展示した作品も、人が暮らす空間に置くことで見え方が全く異なることに驚きました。作品を取り巻く空間も意識することの大切さを感じました。
西野さん:美術作品の鑑賞は難しく堅いものだという印象を持つ方も多いと思います。ですが私の作品は、絵本を読むような感覚で、自分自身の生活や過去の出来事を思い返しながら気軽に見てもらえたらうれしいです。普段、私たちは思っている以上にさまざまなことに気を配り、忙しく生活しています。私にとって鑑賞とは、新しい刺激を受ける場であると同時に、自分自身を見つめ直す機会でもあります。私の作品を通して、普段は見過ごしてしまうような何気ない出来事や自分自身について振り返ったり、今日という一日を少しふんわりと捉え直したりしてもらえたらうれしいです。
■今回の制作で、あなたの中の『視点・始点・支点』は、それぞれどこにありましたか?
粟野さん:
【視点】1番天井の高い空間で、高低差のある配置を意識しました。私はいつでも手元足元にあるものに星を見出しています。
【始点】修士に入ってはじめての展示でした。これまでに無かった見せ方や支持体にチャレンジし、インパクトを残したかったです。
【支点】描くことを愛していると改めて感じました。バッタのシリーズは展示直前まで取り組んでいましたが、筆が踊るような感覚を覚えました。作品を描き上げた時、いつだってもっと描きたいと感じています。この気持ちがある限り、絵を描き続けるんだと思います。
吉田さん:私は「視点」でした。今までほとんど大学でしか、展示したことがなく新しい場所で展示をすることがとても新鮮でした。
西野さん:
【視点】THE TERMINAL KYOTOの空間や他専攻の素材を改めて見つめ直したことです。
【始点】新たな作品スタイルに気づけたことです。これまでは絵画的な表現を染めによって行うことはあまりありませんでしたが、この空間で展示させていただいたことで、自分の描くイメージが空間や人々に寄り添う可能性を見出せたように感じています。
【支点】今回一緒に展示したメンバーの皆さんの存在です。展示企画の中で、作品についてだけでなく、お互いの性格や好きなものなども含めて、それぞれのさまざまな「してん」を共有してきました。皆さんを多角的に知ることができたからこそ制作も前向きに進めることができ、今まで気づかなかった自分の作品スタイルを見出すことができました。さまざまな面で支えていただき、本当に感謝しています。
山本さん:【視点】鑑賞者 【始点】THE TERMINAL KYOTOという場所です。
小西さん:他のメンバーの作品どうしの関わり合いや取り合わせによる、展示空間内の作品どうしの関係性、作品が空間を支えるという「支点」です。
■修士は4月から始まったばかりですが、卒業までなにを吸収して過ごしていきたいですか。また、いつかチャレンジしたいことは?
粟野さん:他専攻との展示は真新しさがあり、勉強になることがたくさんあります。同じ専攻の同期がいたことも心強かったです。今回この展示が実現したように、人との繋がりを大切にしながら、卒業後もこのような場を持つことができるよう、今後の制作や発表を展開させていきたいです。
吉田さん:すぐに結果を求めるのではなく、積み重ねの力を信じて地道な素材探求を続けていきたいです。
岡田さん:これまで木彫を中心に制作を行ってきましたが、今回の家具の制作ではこれまでと異なる視点から木に向き合いました。木の性質を活かせるような他の技法も試しながら新たな表現やかたちを探っていきたいです。
西野さん:染織の歴史や技法について、インプットとアウトプットを繰り返しながら学んでいきたいです。また、ろうけつ染めの技法を深めつつ、自分らしい絵や表現を探していきたいと思っています。
山本さん:人との関わりの中で様々な視点を吸収していきたいです。将来的に洞窟壁画を描きたいです。
小西さん:ソテツのある風景をモチーフに、風景と植物の関わり合いや、私たちの暮らしの中にある緑への美的感覚を可視化していきたいです。
■陶芸専攻 吉田千夏さんとの対話

違うジャンルで学ばれている仲間同士で素材を交換し、普段は自分の専攻では使わない素材を作品に取り入れるという面白い発想は、どこから生まれたんですか?
専攻が違うところがスタートでした。全員が日本画だったら絶対に生まれてこない表現だと思ったので、他専攻だからこそ出来る事はなんだろ?と話し合った時間がありました。
最初、漆工の岡田さんと私が話してて、工芸でやってると結構いらない物が出やすいんです。木くずだったり、粘土も、焼き終えたものは使えなかったりして、これがどうしても捨てられないタイプの人達が偶然集まったんだと思います。
普通だっら捨てちゃう物を、物を大事にする子が多くて、今回使えないかな。というのが始まりでした。
具体的に吉田さんは、何を取り入れたんですか
染色専攻の西野さんが、布を貼った後に余ってしまうはぎれ部分と、日本画の和紙。キャンパスに合わせて貼った、はみ出た和紙は不要になってしまうので。あとは木くずをもらって、それを釉薬にするのを挑戦したかったですけど、ちょっと今回は間に合わなくて進行中です。
自分では普段、絶対に選ばない素材ですよね。実際に取り入れたことで一番苦労したことは何でしたか?失敗もあったと思います。
失敗はありましたねー。私は布を泥漿(でいしょう)という、泥につけてグルグル巻きにして焼くんですけど、泥漿がシャバシャバ過ぎるとほとんど飛んじゃうし、硬すぎると固まりになって結局、粘土みたいになる。その間を探るのが難しかったです。
ただ泥漿で終わらせるんじゃなくて、作品として人が見れるものに持っていかないといけないという、ただの実験で終わらせないようにする所が悩みましたね。
今回は〇と▢がメインなんですけど、丸すぎたり四角すぎると、それは意図的なので、だけどモチーフにしちゃうと布であることからちょっと外れてしまうので、〇でもない、モチーフでもない、その曖昧な形にしました。

茶室横の作品は、その素材感をとても感じました。
ただ粘土で▢を作ったら単純だけど、何で出来てるんだろう?と思わせるのは狙いがあってよかったと思ってます。

その素材を理解しようとしたのか、それとも素材に逆らおうとしたのか?
理解かなー。設計図があってそこに向かって作っていくというよりかは、色々実験的に試して偶然出来た形を取り入れたほうが多かったので、理解していかないと形に繋がらないのかなぁ。と思いながら手を動かしましたね。
初めての素材で、プラスになる発見はありました?
意外なところにヒントがあると考えるようになりました。
どうしても学校にいると周りが陶芸の人しかいないので、陶芸のプロセスとか普通に焼く方法を計画的に進めていくことを教わるんですけど、実はそうじゃない点もあるとか。なんでもヒントになる視野が増えたような気がします。
素材を交換しなかったら、どうなってたと思いますか?
いきなり新しい物を作るのって本当に難しいので、学部から積み重ねてきた作品の、ちょっと延長上にあるものしか生まれてなかったと思う。
今回の経験で、変化は生まれそう?
生まれると思います。なんせ楽しかったです!
学校内でしか展示したことがなかったので、空間を意識して作るのは初めてな経験でした。
和室に合うかな?屋外にあうかな?そういうのは学校では、あまり考えてこなかったから。色んな所で展示してみたくなりましたね。
吉田さんは今回展示して下さった作風だけじゃなく、器も作りますよね。使い勝手など、相手を思って作ることと向き合い方が違うと思うのだけど。
器と現代陶芸は、別だと思ってたんです。
でもあまり変わらないかもしれなくて、最近は一緒かもと思うようになっていて。
ただ使いやすいかどうか…、使いやすいが入ってくると器なのかなぁ。て気がしてきました(笑)
焼成までに向けた作り方も、器はロクロがメインだったりしますけど、人の事を考えてつくるとか、どういう風に見てもらいたいかは器も現代陶芸も、もしかしたら一緒なのかなぁ…。本当にこの展示を機に思うようになってきましたね。
チャレンジした甲斐がありましたね。
ありました。でも本当はもっとやりたい物があったのに出しきれてなくて。
素材の探求もだし、もっと大きい物が出来てたはずー!2個割れちゃったから。
ちょっと悔しい気持ちがあります(笑)まだまだ、やりたいことがあります!自然と出てくる自分らしい形がもう少し出てきてほしいし。
じゃぁその悔しい気持ちは、吉田さん個展で是非お待ちしていますね!
素材を交換し、空間と向き合い、お互いの視点に触れながらつくられた今回の展示。
特に、自分には不要なものが、誰かにとっては可能性になるという着眼点は面白い試みだと思いました。
学生さんたちそれぞれの「してん」が交差することで、今回の展示が新たな始点となり、これからどのような表現へとつながっていくのか、その先も楽しみにしています。


光象展