展示・イベント

キョートタナカ写真展「忘れえぬ人々」

概要
作家・主催者 キョートタナカ
期間 2024年3月17日(日)~3月24日(日)
時間 9:00~18:00

レポート

フリーランスフォトグラファーとして20歳から約5年ほど活動をしておられるキョートタナカさん。
行く先々の街を自分の感覚を頼りに撮影し、SNSなどで掲載。
生まれ住んでいる京都の街並みから旅先を1人で歩き回り、当たり前に存在する生活感のある街並みから生まれる一瞬の絵を写真に収められています。
写真はスナップ写真。被写体に気づかれることなく、その自然な表情を撮影した写真です。

タナカさん
「昨今のSNSでの発言やプライバシー保護の観点から見ると、受け入れ難い作風でもあると考えます。それでも撮り続けるのには理由があり、今の時代に生きる人間の偽りない営みを写真に収める為にはこの撮り方が的確であるという事、そしてありふれた生活とは芸術的な瞬間の連続であり、実はそれを知覚しているという事を改めて知って貰いたいという2つの理由から私は活動をしています。絵画が写真に切り替わり、それが時代を後世に残して行く媒体の一つであるならば “ありのままの生活を残す” という事が最重要項目になると考えます」

今回の展示では今年1月10日から一週間、単身フランスに滞在して撮り収めた写真を中心に、京都で撮った作品と並べて展示されています。古い歴史を持つ京都とパリの街並み。芸術•歴史を重んじ、それらと共存している共通点を肌で感じたとの事です。

展示タイトル「忘れえぬ人々」は、小説家/詩人の国木田独歩の作品から。
本文にある一節【恩愛の契りもなければ義理もない、ほんの赤の他人であって、本来いうと忘れてしまった所で人情をも義理をも欠かないで、しかもついに忘れてしまうことのできない人。必ずしも忘れてかなうまじき人にあらず】
会話をする事もなく、風景の中に存在した人間。自分の人生の中で接点はなく語りかける事もないけど、何処かで思い出す風景。
タナカさんはそれが、自分の作品で無意識にぴったりだと思い、このタイトルをつけられました。
タナカさん
「人物が入った写真も、それも全体の風景として見て頂けたら嬉しいです。言葉を発さない写真から伝わる温度を皆さんに感じて欲しいです」


タイトル:Love pizza
葉巻だと思ったらピザを食べてるんです。日本には絶対にない風景なので、人間的な面白さと思って。


タイトル;Chapter 1/Chapter 2
ホテルオークラのレストランの風景。日本の老夫婦と海外の旅行客。
フランスっぽい写真はエッフェル塔とか。日本で京都らしいだと例えば花見小路を歩いてる写真。
僕はそういうのが撮りたい訳じゃなくて、生活の営みの前後が垣間見れる写真がほしくて、京都の写真を撮る時も舞子さんとかは撮らない様にしていて。
その中で京都らしい瞬間が納められたらなー。日本らしいに近いんですけど。この写真は何故、外国人がいるだけで絵になってしまうんだろう?て自分への問題定義と、何を会話して何を食べて。それぞれの人生があるのでタイトルはチャプター1・2。人生の形としての題にしています。


タイトル:Tears(左)
元々は夕焼け空です。タイトルは涙なんですが、鳥の糞が彫刻の目に流れているのが涙に見えて。
それに彼(彫刻)はこんな風になる事は望んでいなかったと思ってね。
生き物の柔らかさと、人が作った固さがコントラストに表現されていると思っています。

タイトル:Humidity(右)
彫刻と、セーヌ川の船乗りさんとの並びなので、この写真も海外と思われる方がいらっしゃいますが、祇園祭時期の京都河原町の交差点の場所です。
フランスと京都の境界が分からなくなってくる。と仰る方が結構多いいですね。


タイトル:Brother / Friend
ルーブル美術館で、恐らく課外授業に来ていた小学生たちが歩いていた時の写真です。
兄弟か友達か分からないけれど、寒かったのでネックウォーマーを付け直してあげているんです。
さりげない優しさの瞬間が撮れました。


タイトル:But I know
壁に貼ってあったポスターを撮ったもの。アクターと書いてあるので映画なのか舞台なのか、そういう広告だと思います。
おそらく上から剥がしても、下から剥がしても綺麗に剥がれずに、この人がもう剥がす事を諦めた感が出てるでしょ。
ポスターが斜めに貼ってあるアバウトな感じも、絶対に日本ではない感覚なので撮りました。


タイトル:Contradiction
左翼デモの写真。パリから新幹線で3時間ほど行ったシトラスブールで、ドイツとの国境に近い所です。
目の前を行進してきた力強さがある写真で、3日に1回はデモを見ました。
日本だとデモは煙たがられるし、自分もなかなか出来ないけど、若い方や年配の方が一団となって何かを訴える事って大事だと思えましたね。


タイトル:Floating
前輪が取れて自転車としての機能はない、ただの物ですがこのままポツンと置かれていたんです。
花の都ですけど、治安がそれなりに悪かったり、このままの状態で置いてあるという国柄。
いいとこも悪いとこも、しっかり見せて行けたらと思うのも僕のスナップ写真の1つではあるので。


タイトル:You
元々は鮮やかな夕焼け空で、彼の奥側に夕日が沈んでいく時。赤い空から青色へグラデーションのある美しい写真なんですけど、それでもモノクロにしたのは、皆さんの目線が彼にいくようにしたかったから。
モノクロにした事で帽子への光の入り方や、逆光になってるのでシルエットが浮かび上がっているんです。
靴の革の質感。そういったディテールの細部も見て下さるようになりました。
恐らく70歳を超えた方なんですが、仕事帰りなのか、買い物帰りなのか、そのまま家に帰らずに広場で夕焼けが沈むのを一人で眺めている。何か哀愁というか、彼はどういう事を考えているのかな?自分の中で想像が膨らむ写真になっています。
未来を見ているのか、過去を見ているのか分からないけれど、背中が何かを語っているような。
そう思うと、これが自分の中で「忘れえぬ人々」の一枚なんです。
凄くこの一枚が頭の中に残っていて、メインに使いたいと思ったんです。

タイトル:Shadow
結構ホームレスや物乞いの方がいてタバコ下さいとかが多くて、その中の一枚です。
人は見向きもせず、凄く寒いんですけど、こういう風な体制で観光地にいて、僕は胸がグッと重くなるというか。隣の写真はレンジローバーと海外のかっこいいおじさんの写真で、華々しい部分と、影の部分を隣り合わせに展示したかったんです。

タイトル:Mr. & Mrs. Paris
フランスは建物の中で絶対にタバコを吸えないので、外で吸わないといけなくて。
恐らく朝10時頃で、彼女はバスローブを着て髪もボサボサの状態で電話しながらタバコ吸ってる。
右の方からたまたま歩いて来た男性は、身だしなみを整えてワインとグラスを持ってタバコを吸ってる。
服の配色の違いと、影になっている部分と、建物の白とが対照的で、でも同じ喫煙しながら何かをしているのが面白くて。



展示経験
ライブハウスで一回だけしたんです。そこで行われているアーティストで、僕が専属で撮らせてもらっているアーティストさんがいるんです。その二日間は僕がブッキングしてタイムテーブル作って、ライブしながら物販スペースに彼らメインの写真があって、その会場の中にスナップ写真は少しだけ。ていう。
今回の様に、ここまで考えて写真を選定したり、コンセプトをもって撮ったりはなかったので。

タナカさんの世界観を空間に表したのは今回の初という事ですね。
それがこういう形で出来たのは嬉しかったです。

会場選びに拘りをもっていらっしゃいましたよね。ホワイトキューブはあえて選ばずに。
ホワイトキューブは入る前にかたをはって入るイメージですし、自分自身もそういうギャラリーに入った時には「よし。見よう!」という精神になるのがあまり好きじゃなくて、それよりも音楽や建物を感じながら風景として、窓みたいなイメージで写真を展示したかったので。
建物と馴染みがある展示にしたいと思ってたので、会場選びは結構悩みました。
あと京都でやるからには、しっかり理由を持たせたかったので、京町家って普段なかなかじっくり入る事ってないじゃないですか。素材をしっかり見る機会が僕もあまりなかったですし。
そういう物を感じながら、その中にポツンとあるフランス写真がある異質感と、京都の写真の安心感・親和性。
色んな理由があって、この場所が自分には一番適してると思ったんです。
自分にはまだ早いかも💦と思ったけれど、一番良かったのでお願いしました。

前回ライブハウスでした時は、自分の身内やお世話になっている方しかお呼びできなかったので、今回はふらっと前を通られた方とか、喫茶目的の方が自分の写真を見て何か一つでも心の中に持ち帰ってもらえるものがあればいいな。ていう理由があったので。

二階で音楽が流れていましたが、最初から決めていた事なんですか?
一番最初にそれをお願いして、そこから全部組み立てていきました。
今までの写真を見せて、イメージあったものを作って下さい。てお願いしました。
自分自身が音楽もやっていて音楽が好きなんで音楽と親和性のある展示がしたい想いもあったので。

音楽は演者として?
趣味でバンドをして、その繋がりから今もライブカメラマンをやって、夏フェスのオフィシャルで入らせてもらってたりします。
まだまだ下っ端ですけど、ご縁があって。
今回のような展示写真を、色んな所に行って行いたいので、その為の制作費や生活費を作り出すためにそういう活動もしています。

アーティストじゃなくて、会場風景を撮って欲しいというのが、最初の依頼でした。それが良かったら明日も呼ぶわ。
で帰り際に明日も。って。この2日間がよかったらサマソニに呼べるかもしれない。結果的に良かったみたいでそこからワンマンのイベントやフェスに呼んで下さいました。
ライブカメラマンの足ふみが出来たのは去年からですね。
まだまだ業界ではペーペーなので、ここからしっかりやっていかないとです。

趣味ではなく、写真家として生きるスイッチとなったキッカケって?
それが生きがいになった瞬間があって、自分の写真を自分でいい写真だな。て内に秘めている間は恐らく趣味なんだけど、外に出すという瞬間。
自分の物に価値をつけた瞬間に写真家として名乗っていいのかな。
自分の考えとかを写真を通して感じてほしいと思った瞬間に、自分はなんかそこに切り替わったんじゃないかな。

高校から受験する時に、音楽の方に進もうと思ってたんですけど、大学のオープンキャンパスの時に教授から「君、音楽すきですか。逃げ道無くなるよ」と言われたんです。
僕は心の拠り所が音楽だったんですね。でも「それと向き合って苦しまなあかんけど、その覚悟がある?」と聞かれて、僕はこれからも変わらず音楽は心の拠り所であってほしいと思って、音楽の方には進学しなかったんです。
でも写真はどんだけ経緯がしんどくても、それでも向き合えるものなので、自分の生きがい・生業になって、この5年間続いていますね。

写真展で来られた方と話すのは好きなんですけど、会話しながら写真を撮るのが苦手で。
じゃぁ一人で街を歩いてスナップを始めたんです。
撮ります!と言って撮った被写体は、少ながらず撮られている意識があるけれど、
そうじゃなくて、一瞬の人間の仕草がすごく美しいので、それを僕は写したい。
人間だけにフォーカスを当ててるのではなくて、背景の流れとか、前後がよめる写真の中に人がいて、あくまでも人が主体じゃないです。ていう撮り方をしている。
そいうのがどんどん自分の中で固まってきたので、これを撮り続けよう。と思っています。

キョートタナカさんのお名前にして何年たつんですか?
ちょうど2年くらいです。
20年後くらいに京都でカメラマン。といった時に会話の中で一番目くらいに出てくるようになりたいのでキョートナタカ。てでかいこと言っちゃったんですけど(笑)

なぜ京都に拘るんですか?
僕は都会が無理で、ほどよい都会感と、ちょっと出れば田舎に出れて、県民性も意外と毒々しいところが人間ぽくて好きで。
得に四条烏丸下がったこの辺が大好きなんです。町家があったり、急に細い道の石畳があったり。
今の建物もあってコアティックな京都が好き。
生まれ育ってずっといる場所なんで、恩返しと言えば、まだまだおこがましいですけど、自分の写真でなにか京都に残せたらと思います。

色んな国に行った写真と京都を混ぜるのは、自分の持ち味にしてもいいのかな。て今回思いました。
この不思議なコントラストの展示を海外でもしていきたい。
四条烏丸の町家とビルが並んでいるとか、観光客と地元の人が行き交っているとか。
それって、混沌としている世の中に溢れている状態にちょっと似ているのかな。

京都がメイン活動でも、これから海外や、京都以外でも活動をされる予定ですか?
ベースは京都ですけど、色んな所へ。今年は仕事で海外にもう一度行くのが目標です。
次はアジアで撮ったものを展示したいと思っています!