展示・イベント

逃げ水をすくう

概要
作家・主催者 井関律葉/彌永ゆり子/清水彩瑛/タニグチカナコ/津村侑希/寺岡海/西原彩香/野中 梓
期間 2024年2月16日(金)~3月3日(日)
時間 9:00~18:00
備考 主催名:「逃げ水をすくう展 実行委員会」
展覧会責任者:山本直樹(嵯峨美術大学 油画研究室 教授)

レポート

嵯峨美術大学油画研究室および造形基礎研究室の助手/元助手の皆さまに展示頂いています。

■野中 梓(土間)
1991年 大阪府生まれ
2015年 京都嵯峨芸術大学 大学院 芸術研究科 造形絵画分野 修了

タイトル「夕方、小窓から陽が差す時のトイレの壁」

近年、自宅の壁面や冷蔵庫、テレビ画面など、毎日目にする物の平らな表面を見ながら油絵を描くことを続けている。
私が見ていても見ていなくても、その対象はただそこに在る。
普段は気にも留めていないが、関わろうと働きかけたとき(油絵具でその色や光や影を描こうと試みたとき)に、ふと見つかる。
そこには「冬の陽の向きじゃないとこの壁に光は当たらないのか」とか「冷蔵庫そのものは白色だけど、廊下の電気と床の反射でこんな色になるのか」とか、ささやかな発見と感動がある。制作時には、描く対象を直接見て描くことを心掛けている。
夕方、小窓から陽が差す時のトイレの壁を描きたい時は、数日おきに夕陽が差す時間帯にトイレに座って絵を描く。
それまでなんともなかったものが、特別なものに変わること。自分の中にある何かをひねり出すのではなく、自分の外にある何かに出会っていくこと。
そんな瞬間を大事にしながらこれからも絵を描いていきたいと考えている。


■清水 彩瑛(土間・二階女子トイレ前、茶室横廊下、茶室床脇(左))
1995年 滋賀県生まれ
2020年 京都市立芸術大学 大学院美術研究科絵画専攻油画 修了

土間の5枚1組の作品
繰り返し見て印象に残っているもの・現象について、憶えていることをドローイングや絵画として記録し、「見た」経験の再現を試みる。
ある瞬間に見たものの周りに至る多様な感覚(光や手触り、温度、湿度のような五感に関わること、実際のスケールと異なるボリュームや間隔)を手掛かりに、描画材との関わりから生まれるイメージの立ち上がりや体感や記憶を元にした多面的な記録について考えている。

様々な関係性の中で名のない存在が立ち上がっていく感覚、自立に作用するものに興味がある。


■寺岡 海(坪庭横・防空壕西)
1987年 広島県生まれ
2012年 京都嵯峨芸術大学 芸術学部造形学科油画分野 卒業

The Terminal KYOTO」は昭和7年(1932年)に建てられた総二階の京町家を復元した建物で、間口が9m、奥行き50mある大型の京町家である。
かつて、この場所では木崎呉服店により呉服商が営まれており、地下には当時使用されていた防空壕が残っている。
本展の出品作「空を中継する」では、中継装置を通じて、「The Terminal KYOTO」の中庭から見える空を中継し、リアルタイムで防空壕の天井に投影する。
防空壕からは空を見ることができない。
だからこそ、そこで空が見たいという思いから本作を制作した。
防空壕に映る空は、どこか遠く、あるいは近い。


■彌永ゆり子(1階床の間、2階和室床の間、天高、防空壕西)
1991年 神奈川県生まれ
2018年 京都市立芸術大学 大学院美術研究家絵画専攻油画 修了

幼少からコンピューターで絵を描き、学生時代は油画を専攻しながらもデジタルの特性を生かした表現に目を向けた。
例えば、質量のある絵画にはない“質感がない”という質感やピクセルという単位を意識し、描画過程を見せることで絵画に時間制を持たせることを試みた。
また、絵の完成を目指しながらもループさせることで完成という定義を曖昧にしている。

現在は電子基板やモニターそのものの物質感にも意識を向け、直近ではモニターや日用品などの大量生産の消耗品(それ自体では美術になりえない様なもの達)とデジタルで描かれた絵を組み合わせて表現している。

和風の置物の形式を模した作品。モニター内の映像はデジタルで描いた絵の描画過程。アクアリウムのようなイメージ。

額縁の中のモニター内の映像はデジタルで描いた絵の描画過程。Youtubeで昔の映像を見ていたときに、ここにいながら昔のどこか遠くの国の人物を見ている自分の意識の所在について考えていた。


■津村 侑希(見せの間、茶室、2階縁側、防空壕東)

異国への憧憬をもとに、未だかつて訪れたことのない土地をバーチャル地球儀システムから得られる衛生写真などの情報を元に作品を制作しています。
現在は、北コーカサス地域にあるチェチェン共和国を題材に「名称のない場所」を描くことを目的としています。

チェチェンは2000年代初頭まで続いた紛争以降、それまでに破壊された都市全体の建築物やモニュメント、インフラ設備の殆ど全てが真新しくなったために景色が均質化した地域です。しかし、未だそこには目に見えないノスタルジーや地霊の存在があると考えます。
作家自身はこの国にルーツはない。潜在的に惹かれる風景を描くことによって、風景は作家自身の体の逃走線として表出し、意識は漂流していく。そうした土地は一種の精神的亡命先になりえるかもしれません。

2020-2021の作品について
本展で展示しているドローイング以外の作品は、全て2020-2021の頃の作品です。「ダークツーリズム」「マスツーリズム」「バーチャルツーリズム」など「観光」「旅行」のワードに伴う、「異国への憧憬」というメインテーマが作家の中で確立した頃の作品です。遠い異境への物理的心理的距離と、一方でどこかノスタルジックに感じる風景を描いています。
描いている場所は東トルキスタンや、アルメニアなど。


■タニグチ カナコ(茶室床の間)
1996年 広島県生まれ
2021年 京都精華大学 大学院 芸術研究科 博士前期過程 修了

和紙を貼り合わせた画面を墨で染めた画面に描いている。
広島出身の作家の祖母が被爆者であり、自分自身も被爆3世という事から、人との繋がりや地の繋がりなど関係性をテーマに制作している。
手のモチーフは、見えない関係性の輪郭を探ることを意味している。

日本画の伝統的な素材を用いる事が多く、貼り合わせた和紙は人間の皮膚の質感をイメージして使用している。
その為、漂白していない和紙や草木染め、自身で染めたものを多く使用している。


■井関 律葉(1階縁側、茶室床脇(右))
1992年 大阪府生まれ
2017年 京都嵯峨芸術大学 芸術学部造形学科油画分野 卒業

日本画画材を用い、詩の一節と一節の間にあるような、感情や視線、時間を描き出したいと思っています。
口ずさんだ詩の言葉が心に馴染んでいくように、見てくださる人の心に残る絵であるようにと制作しています。

会場下見の時に、庭には何の花がさきますか?の質問を受け、白椿の花が咲くとお答えし、白椿の作品が展示されました。
2月末、庭に白椿が咲き、作品とのコラボが実現されました。


■西原 彩香(天高・天高横)
1992年 愛知県生まれ
2019年 京都市立芸術大学 大学院美術研究科絵画専攻油画 修了

絵画と画像のあいだにあるイメージの「軽さ」をテーマに制作。
コロナ渦のあいだ、閉じこもっていた部屋で磨りガラスの窓を通して外の光景を眺めていたことを、スマートフォンの画面を通して世界中の画像や映像を見ていることに準えて、透明な「窓」超しに「透過性」の景色を見ている身体をモチーフにしています。
あてもなくディスプレイを覗き込むとき、画面の向こうにある光の粒の塊のようなものを追い求めているのだとしたら、そのとき見ている光は天使のありかたの1つなのかもしれません。
インスタレーションは、制作途中の作品のまわりに置いてあったものなどを持ち込み、住まいでもあるアトリエでの陰の形や暗いなかでの見えたかなどを反映しています。
今回、アクリル板や鏡を支持体に、直接iPhoneで描いたドローイングを製板したシルクスクリーン作品を初めて発表しました。
また、媒介する光をテーマに、反射シールや反射バンドにドローイングしたグッズを展開しています。