展示・イベント

ハレとケ -刺繍三昧の日々-

概要
作家・主催者 長谷川眞由美/日比暢子
期間 2020年11月10日(火)~11月23日(月)
時間 9:00~18:00
備考 ■刺繍

<経歴>
■長谷川 眞由美
 兵庫県西宮出身
 大阪芸術大学工芸学科金属工芸卒業
 2012年 R&Pギャラリー グループ展
     茶屋町画廊 グループ展
 2016年 スタジオ1928 グループ展
     なうふ現代 グループ展
 2017年 西脇市岡之山美術館第11回サムホール大賞展 優秀賞
     ギャラリー白shop  干支展参加
 2018年 スタジオ1928 グループ展
     space31 グループ展
 2020年 伊丹市立工芸センター 本気のTシャツ展参加
     Note Gallery 個展


■日比 暢子
 岩手県出身
 京都嵯峨芸術大学版画分野卒業
 2011年より㈱和光舎入社に伴い、日本刺繍に出会う。
 現在も修理修復の仕事の傍ら、独自の作品作りに励んでいる。

 

 

レポート

刺繍の世界。もおシンプルに「刺繍って凄い!!」の言葉につきる展示でした。
展示を開いて下さったお二人の作家、長谷川眞由美さんと、日比暢子さん。
長谷川さんは金属工芸を学ばれ、日比さんは銅版画を学ばれていたという刺繍とは無縁の学生生活を送ってこられた方々。
そんなお二人が今では針と糸を持つ事が日常なのですから、きっかけって不思議です。
一針一針が作品に近づいていく面白さ。作風が違う二人の作家が見せる独自の世界観と惹き込まれる刺繍の技術を、多くの方にご覧頂きました。

長谷川さんはご卒業後、ジュエリー作成のお仕事に就きながら、プライベートでは興味ある様々なジャンルのワークショップに参加されていました。
ワークショップで作品を完成させると「出来た」と、燃え尽き症候群のように気持ちがそこで終わってしまったそうです。
ある日、この隙間を刺繍で埋める事が出来るだろうか?
と試みたところ、見事に出来てしまう長谷川さんが凄い訳ですが、縫い方のコツを掴むと、次は大好きな漫画の1ページを刺繍で再現されました。
そういった対象物に着目する所が、長谷川さんの面白さだと思います。
様々なジャンルのワークショップを経験して来られた中で刺繍だけは、どんどんのめり込んでいかれたそうです。

誰に教わったのではなく、刺繍の技術は全て独学でいらっしゃいます。
朝起きて掃除をするよりも針と糸を持ち、周りに止められるまで刺繍に没頭する集中力。
誰もが一度は何処かで見た事のある物、身の周りにある物を刺繍で立体再現する長谷川さんの魅力。
刺繍を始められて約8年とは思えない、オリジナリティあるユーモアとマニアックな刺繍作品が町家の一階に並びました。

●スーパーマーケット
見にいらしたお客様の中には、何故スーパーで買った物をここに無造作に並べているんだ?と勘違いされた方もいらっしゃいました。
豚バラの製造元が“ハセガワミート“となっている所にも注目です。

●お菓子のパッケージ
磁石になっている作品。両サイドと裏面も、再現のこだわりが強くて驚きです。

●お抹茶
美しい器の柄、抹茶をたてた時に見える気泡までも現わされています。


お二人目の作家、日本刺繍の日比暢子さん。
銅版画を学ばれていた日比さんが刺繍の入口に立ったのも、ワークショップがきっかけでした。
現在はお寺などで受け継がれてきた、刺繍文化財などを刺繍修復する工房にお勤めです。
刺繍の技術は、その勤め先で学ばれたそうです。
縫っている時、常に左手は生地の下にあり、右手は生地の上。両手を使いながら針を上げ下げしているそうです。
昔の刺繍作品を修復されるお仕事をなさっているので「“こういう風に糸を運んでいるんだ“と、ひもとく時に先人の技を知り、常に学ばせてもらっている」と仰っておられたのがとても印象的です。
全て絹の布に、絹の糸を使用。シルクの上品な光沢と、日比さんの繊細な技芸に思わず見入ってしまう日本刺繍の作品です。

今回日比さんは、二つのテーマを掲げて展示して下さいました。
一つ目は、日本昔話の有名なお話を作品にした二階の展示。
二つ目は、展示された名画の中に干支が隠れており、ご自身の干支を見つけて下さい。というもの。
まるで宝探しのような感覚に、お客様も入口の時点で「おもしろそう」とワクワクしながら展示をご覧になられていました。

●日本昔話
階段を上がると、まずアザラシとウサギの作品が目に入ります。
左側は有名なティッシュ“鼻セレブ“。右側が刺繍作品です。
アザラシの顔部分はたった2本の糸しか使われておらず、絹糸の光沢と、針を刺す角度の違いでリアルな毛並みを表現されています。
そして日本昔話の作品が並ぶ入口の襖に、まずは手の消毒”手ピカジェル”を。

【物語り】
①舌切り雀→②鶴の恩返し→③かぐや姫→④浦島太郎→⑤ぶんぶく茶釜→⑥花咲かじいさん→⑦金太郎→⑧ウサギとカメ→⑨一寸法師→⑩桃太郎→⑪猿蟹合戦→⑫笠地蔵→⑬龍の子太郎

④浦島太郎は竜宮城から宝箱を持ち帰り、その宝物が周りに刺繍されてます。
そして日比さんにとっての宝物、刺繍道具が手前に展示されました。
みずや針本舗の包み袋も刺繍で作られ、針入れにされています。

⑤ぶんぶく茶釜。茶釜なだけに、岩手県ご出身 日比さんご自身の南部鉄瓶を座布団の上に設置。座布団の端には“赤いキツネと、緑のタヌキ”の刺繍を施し、どんべえをを思わす日比さんの可愛らしいユーモアが秘かに隠れておりました。

⑨~⑫作品が置かれた台は、今も日比さんが使用されている「糸巻き」です。
どんどん糸屋が廃業してる事から、今では糸巻きの入手が難しく、数少なく営んでいる糸屋から手にいれるしか術がないそうです。

日本昔話には鬼だったり、いたずらっ子だったりの脇役が存在します。
二階には天狗とキツネのお面をした子供も。
かくれんぼをしているのか、鬼ごっこをして遊んでいるのか・・?
そんな脇役達の遊び場も、二階には隠れていましたよ。

 

天高の部屋には”龍の子太郎”
“まんが日本昔ばなし”「ぼうや~良い子だねんねしなぁ♪」のオープニングの映像、思い浮かびますか?龍の背中に子太郎が乗り、ウネウネと龍が空を泳いでいる映像です。
刺繍作品、白色の龍も子太郎を背に乗せ、天に向かって進んでいます。


●展示を見に来て下さった皆さま、干支は全部見つける事が出来ましたか?
隠れていた干支たちの答え合わせをしていきますね。

「子」=小上がりの掛け軸から、ネズミがいらっしゃいませと、皆さまをお迎えしておりました。ネズミの周りには紅葉の生地で秋を表現。
*歌川芳藤「志ん板どうけかつらつけ」

「丑」=二階縁側
謎の箱をのぞき込むと、そこに隠れておりました。
*パブロ・ピカソ「ゲルニカ」
写真では写せなかったのですが、爆撃によるキノコ雲も刺繍で表されていました。

「寅」=一階喫茶スペースの床の間
伊藤若冲の虎図にある、虎を中央に。
寅といえば、関西といえば、阪神タイガースという視点から、タイガースモチーブがある日比さん流の掛け軸。
ちゃんと鯛も蛾もいます(タイガース)  金色の風帯も、縦じまも生地ではなく全て刺繍作品です。
*伊藤若冲「寅図」より「変身鯛蛾図」

「卯」=階段踊り場
テキスタイル作家ウィアム・モリスの生地を周りに、その一部の模様を刺繍で再現。
*ウィリアム・モリス「ブレアラビット」

「辰」=小上がり
神社風に見立て、小上がりの扉上、見上げた所にございました。
*妙心寺 狩野探幽「雲龍図」

「巳」=階段踊り場
*クリムト「健康の女神」

「午」=階段踊り場
*魔女の宅急便 ウルスラが描く「星空をペガサスと牛が飛んでいく」

「未」=一階板の間
長谷川眞由美さんのティーポット作品と一緒に、木箱で出来た本の作品が置いあり、
気付いた人だけが、その本を開けると羊が隠れていましたよ。
*牧野千穂「羊と網の森」

「申」=一階喫茶スペース
この柱に展示しようと、柱のサイズを図り制作された作品です。
*歌川豊国「心猿の秋の月」

「酉」=一階縁側
モビール型の鳥が、庭の緑を背景に毎日緩やかに飛んでおりました。
*ルネ・マグリット「大家族」

「戌」=一階喫茶スペース床脇
*フランシス・パラウド「ご主人様の声」ニッパー君

「亥」=二階和室床の間
*鳥獣戯画



日比さんの丁寧に縫い合わせた、艶やかな糸の美しさと繊細な縫いの技、日本刺繍。
長谷川さんの、身の回りの物を刺繍で立体表現するマニアックな視点と技術。
気が遠くなるような手仕事と思ってしまいますが、お二人にとっては針と糸を持つ事が日常に溶け込んでいらっしゃいます。
展示を見にいらした方々が帰り際に「あぁ~楽しかった!」と、感想を声に漏らしていらっしゃいました。
お二人の作家もまた「刺繍する事が楽しくてしょうがない」と同じ言葉を仰っておられた事も印象的です。そういった気持ちが作品を通してお客様にも伝わっているんだなと感じました。
針を持っていないと落ち着かない。と仰っていた刺繍三昧の日常を通し、私たちに素晴らしい縫いの芸術、見てワクワクする気持ち、新しい刺繍の世界が広がったのではないでしょうか。