展示・イベント
京都金属工芸協同組合創立50周年記念展示会
- 概要
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作家・主催者 【彫金】山本昌史、中村光男【鋳金】山中源兵衛、白井克明、白井亮助、大西清右衛門、小泉裕司、長谷川聡、加藤良紀、吉羽與兵衛【鍛金】金谷五良三郎、里村昌彦、野村ひとみ、井上尊之【象嵌】中嶋龍司、小野真嗣、増田あゆみ【錺金】後藤正嗣、後藤正太、佐治徹也、松田聖、合場頼正、松田浩佑、 森本安之助 期間 2021年3月13日(土)~3月28日(日) 時間 9:00~18:00
レポート
数ある日本の伝統工芸の一つ、金属工芸に携わる職人が集まり、その技術をお披露目されました。
出展されたのは、昭和49年に組合が設立され、創立50周年を迎えられた京都金属工芸協同組合24名の皆さまです。
金属の伝統工芸品がどういった物か、皆さんは何を思い浮かべますか。
歴史ある京都は、文化や産業が発展し続けてきたと共に、金属工芸品の高度な技術もまた寺院などの装飾品や建築金具、茶道具や仏具などと、人々の暮らしを彩ってきました。
職人から職人へ伝承された技術は日本人の心として誇るものとなり、世界で愛されています。
町家では、職人が日々培ってきた技術作品が、40点を超えて展示されました。
金属工芸の技術は、いくつかに枝分かれします。それぞれの分野を専門的に、職人は技を突き詰め、磨かれています。
■鋳金(ちゅうきん)
湯口と呼ばれる入り口から溶解した金属を鋳型に流し込み、冷却してから鋳型から取り出し、表面を研磨するなどして仕上げる技術。
■鍛金(たんきん)
金属を金床や烏口などにあて、金槌で打つことで形を変えていく技法。
■象嵌(ぞうがん)
象は「かたどる」、嵌は「はめる」と言う意味で、一つの素材に異質の素材を嵌め込む技法。
■錺金物(かざりかなもの)
社寺建造物装飾における「金具」
■彫金(ちょうきん)
「タガネ」と呼ばれる専門の道具を使い、金属を彫って彫刻する技術
この様にそれぞれの分野でご活躍されていますが、今回のプロジェクトにおいて、各々の技術を使い、作家が思い思いの行灯を作る取り組みが行われました。
また、今年残念ながら中止になった東山花灯路。そこで見られるはずだった合場頼正さん(錺金物)の灯籠も、土間に優しく灯りました。
普段、目にすることが出来ない作品も数多く展示され、間近でご覧頂きました。
■「霞丸釜」作家:室町時代後期から400年以上続く京釜制作を業とする、千家十色・大西清右衛門 十六代当主(鋳金)
■左側「御殿引手」 作家:松田聖(錺金物)お城の襖に用いられる引き手。
右側 「襖引手 一額」作家:松田浩佑(錺金物)私達が普段目にするサイズの引き手。
お城用に使う、引き手の大きさに驚きます。
右側の引き手は、あるお寺から依頼を受けられ、昆虫の装飾が施されています。
■「船型錠 鍵共(銅生地)」作家:森本安之助(錺金物)
伊勢神宮の遷宮も担当する「森本錺金具製作所」4代目 森本安之助さん。
遷宮(せんぐう:神様を従来の御社殿から新しい御社殿へお遷しすることの本殿にかける物)
デザイン・素材・大きさ。そっくりそのまま作らないといけないそうです。
■左側「一越 西遊記」作家:白井克明(鋳金)
右側「舞妓りん 煌」「お鈴を応用した自転車のベル」作家:白井亮助さん(鋳金)
大きさや音色の違いに関わらず、材料の配合や、作り方は同じで約180もの工程を行われるそうです。
音を突き詰めた作品であり、本来はデザインが入らないお品ですが、近年は柄を彫るデザインも取り入れていらっしゃいます。
お仏壇が置けなくても、写真の横におりんを置いたり、ヨガ教室で瞑想的要素として取り入れられ、用途の幅が広がっています。
■「純銀 手綱形煙管」作家:山中源兵衛(鋳金)
持った瞬間ズシンと感じる重さ。
最高峰の形である手綱型は、歌舞伎の舞台で煙管が用いられる際の形でもある。
見た目の美しさだけでなく、3次元の複雑な形で強度が凄く、踏んでも大丈夫。
重さ・大きさ・丈夫さ。昔はそれを持つ事が男性のステータスであり、また刀の攻撃から身を守る護身用にも使われていたそうです。1枚の金属板で作られ、デザイン性があるキセル。
■「泥七宝 鳳凰」作家:小泉裕司(鋳金)
後に七宝焼きが入ってきた事で、江戸時代頃からこの泥七宝を使う作品は少なくなっていったそうです。
七宝焼きに比べると光沢と透明度はないですが、その淡い色味が味わいになっています。
この泥七宝を手掛ける職人は現在、ほとんどおられません。
青年会(45歳以下)に属する職人が以前は50人ほど在籍されてたのが、今は8人ほどだそうです。それには、
・受容が減っている
・神様や仏様に手を合す事が少なくなってきている(宗教信)
・忙しく、なかなか時間が取れない生活が中心になり、華道・茶の湯などの、たしなみとして何かを習う。学ぶ事が少なくなってきている。
これらの要因が上げられます。
この先について、
■生きていくための方法。■より良い物を作っていく。
この二つが必要であると、山中源兵衛さんは仰せです。
「受容が少なく、仏具だけでいうと生産拠点がミヤンマー・ベトナム・一時は中国と海外に移ってきていて、同じ流通・同じ材料を持って作る事が世界中に沢山あります。
その技術者として、どう生き延びていくかが難しいと思っています。
一方で、そうではない人間の感覚的な部分。例えば美術や個性。
技、材料、流通、素材だけではない、何か一つのエッセンスが生き延びていくには巧妙だと思っていて、もっとアートを取り入れてもいいと思っています。
そのエッセンスは、真似できる事でもなければ、その人だけのものだし、無限のものだから。
私がキセルを作っているのも、まさにそれなんです。実際キセルなんて使っている人、誰もいませんしね。
道具としてというよりも、デザインがそもそもかっこいいし、素晴らしいアート作品だと思っています。
ただ単にタバコを吸う道具ではないと思っていて、美術のエッセンスが含まれている物だと思っています。
時間を知るだけなら携帯で十分ですが、やっぱり高価な時計がほしい人、万年筆が欲しい人、車が欲しい人と同じように。だから楽しく作っているんです」
と、語って下さいました。
ただ、昔は仕事と職人さんの人数も多かったのが、今はその両方が少なくなってきている事で、同業者であるがゆえにライバルとして見る人たちも多くなり、昔に比べると結束力が薄れていく事も身に染みて感じておられる意見もありました。
時代の移り変わり。そして生きていくために。
厳しい問題は避けられません。しかし暗い思考だけでなく、お鈴を自転車のベルに応用。音色を極める仏具や、煙管にデザインを取り入れる。象嵌の技術を小箱だけでなく、アクセサリーに取り入れたりと、茶の湯や神道で使われてきた金属工芸を、遠い存在ではなく、身近な生活の中に取り入れる事にも励まれています。
造形の美しさ・手作り工芸品の価値・世界に誇る技術を受け継ぐ組合員の皆さまは、感謝の気持ちを常に持って、お仕事に向き合っておられました。
本物の技術を展示でお披露目されたと共に、受け継がれてきた伝統技術の灯を消してはいけない。後世に技術を繋いでいきたい。京都の金属伝統工芸に携わる誇りと使命感も強く感じる展示でした。