展示・イベント

廣海充南子【日常曼荼羅】 ー追憶する日常ー

概要
作家・主催者 廣海 充南子 HIORMI MINAKO
期間 2019年11月2日(土)~12月1日(日)
時間 9:00~18:00
備考 ■絵画、インスタレーション

■廣海 充南子

■経歴
1983年 大阪に生まれる
2001年 京都造形芸術大学にて学ぶ
大学を途中退学後、ヨーロッパに渡る
現在、一児を育てながら、日常から生み出される宇宙観を自身オリジナルの曼荼羅を持って表現している
2001年 「賽の河原」 京都
     ペヨトル工房ファイナルイベント 京都
2002年 「菰展」京都
2016年 グループ展「風の響き」京都
2017年 安勝寺 個展「曼荼羅」群馬
     グループ展 「室礼展-offerings Ⅲ」京都
     グループ展 「火のゆらぎ」京都
2018年 グループ展「室礼展-offerings Ⅳ」京都
     金沢21世紀美術館、theater21「フラメンコ巡礼」舞台美術
     おふさ観音ARTフェスティバル 二人展
     「調和の為の祈りprayer for harmony」奈良
     日本インドネシア交流展「teratai salju」 インドネシア
     グループ展 「水の波紋」京都
2019年 グループ展「室礼展-offerings Ⅴ」京都
     共星の里 黒川inn美術館「廣海充南子 日常曼荼羅」【空】 福岡

表紙・インタビュー掲載誌【kyoto journal issue #92】

レポート

曼荼羅を描くにあたって、本来は中心に仏様がいらっしゃり、仏様の周りには菩薩(ぼさつ)が決まった位置にいらっしゃる。
そういった決まり事がいくつかあるそうです。
元々、絵を描く事がお好きな廣海さんが、何故曼荼羅なのか。
10代の頃にダライ・ラマの話を聞く機会があり、そのお話がとても腑に落ちたことがきっかけとなります。
「日常を、自分なりの心理にリンクさせ、自分で深く探っていく事が大事」

普段、曼荼羅を描くスタート時点では、テーマは何も決まっていないそうです。
中心から描き始め、何となく中心に描いたものの繋がりを外の円に向かって広げられるのですが、描いていく途中で「あ。そういう事か」と自分自身に気付きが生まれ、理論のテーマとなっていくそうです。
10代の頃 腑に落ちた原点がブレず、そこにあり続けているのだと感じます。
ただ単に曼荼羅を模写するのは違う。だからオリジナルの曼荼羅を描いていらっしゃるのだと。


■二階縁側(南)
ダライ・ラマの話をきっかけに、17歳初めて曼荼羅を描かれた作品です。
それ迄、何度と曼荼羅を描いていたわけではなく、人生初めて挑戦された曼荼羅。
我武者羅にペンを進め、取りつかれるように4日間、不眠不休で完成させた作品にテーマは存在しなかったそうです。
しかし、何かドアが開いた瞬間。と仰せでした。

 


■一階床の間
制作1年の原画です。
この作品は、町家で春に開催する「室礼展-Offerings-IV」で展示されたものです。
中心には胎児。その周りに子宮や男性器とあり、命の連鎖がテーマとなっています。
自分は決して1人じゃない。
後ろには計り知れないもの凄い色んな出会い 縁の力があり、その繋がりで今の自分が存在している。
廣海さんの全てが詰まった最高傑作です。この原画を元に、展示ではあらゆる形で作品化されています。


■二階和室/茶室
一階床の間の原画を、掛け軸にした作品。
廣海さんは空間・間を生かした展示を毎回心がけていらっしゃることから、今回町家展示に向けて掛け軸を制作されました。
白色の掛け軸は本来、仏様が描かれたものに用いるそうですが、今回は曼荼羅という事もあり、表具屋さんが白色のご提案をされたそうです。

和室の床の間にある花器を真上から見てみて下さい。
まるで夜の水辺に、満月が写っているかの様にうかがえますよ。演出は挿花 賀幡季与さん。


■二階縁側(北側)/階段
シルクスクリーンにした作品です。原画はなんと点画だそうです。
廣海さんは作品を掛け持ちして描く事はなく、描きあがる迄は1つの作品と向き合うそうです。
点画制作3年との事。
(期間中、苦しく気持ち荒ぶることもあったでしょうね・・)
その細かな点がシルクスクリーンに現れてはないのですが、いつか原画も見てみたいものです。
実は周りに木が描かれてあり、四季を葉がつく模様で表されています。


■二階天高横の間
制作1ヶ月。
色に対しての認識が変わった出会いがあり、廣海さん初めてのオールカラー作品になります。
今回の展示タイトルに「追憶」の文字があり、テーマにそった、町家展示に向けて描かれた作品。新作になります。
廣海さんは今見ている世界は、実はもう死んでいる自分が別にいて、そこから見ている景色・フラッシュバックを見ている様に、子供の頃から生きている。と教えて下さいました。


■二階天高
一階床の間の原画を布におこしています。
レセプションパーティーにも出演された、ライブペインティングの仙谷彬人さんの映像を曼荼羅に映したコラボレーションの間。
変化する光と色の映像が、作品と壁に動き映され、曼荼羅も時空も動いているかの様です。
作品の上に座って瞑想するも良し。寝っ転がるも良し。
宇宙のような、細胞の中にいるような空間。
非日常的な体験から、日常へと戻る体験型の間です。
また、色んな角度からも作品をご覧頂けると思います。
廣海さんも制作時には実際、作品の上に乗って描くそうですので、廣海さんの視点。その感覚も体験頂けるかもしれません。
是非、作品の上に乗って時間をお過ごし下さい。色んな思いを曼荼羅が受け止めてくれると思います。


ちなみに制作時、目と作品との距離は間近で、毎日制作時間を設けても、この様な細かい絵なので進む範囲はごくわずか。
一部分を描いている時は、その他の所は見えないように隠されるそうです。
引きでは作品を見ない。全体を見るとバランスを考えて、ここが足りないと、どんどん足し算となり、うまく見せようとするから。
(え・・・。全体を見ずにこの曼荼羅を描いているんですか? え・・・。)
毎日描く時間を設けているから、そのバランスが感覚的に分かるそうですよ。


■土間・小上がり/入口の間
一点一点の作品に「地」「水」「火」「風」「空」とタイトルがついています。
前文でもありますが、展示空間に生きる作品を制作されます。
土間・小上がりの作品は原画で、今年開催された九州の展示に向けて準備されたものです。
九州豪雨がありました。5作品のタイトルはまさに自然。
自然のバランスを整える願い、想いが込められています。

入口の5色は、床の間の原画をシルクスクリーンにしています。
実は見る角度によって色が変化して見えます。
正面からみれば黒っぽいのが、下からみるとピンクへと。
下から、斜めからも見て下さい。
しかし、この細かな線をシルクスクリーンに起こす技術も本当に凄い。

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■防空壕
4枚の絵が並びます。
防空壕に入り、順に見て頂くと一枚づつ太枠の円が増えていっている事がお分かり頂けると思います。
円が増える=ご縁を広げましょう。
廣海さんの想いが込められています。


描きあがった後、達成感はなく毎日描いているから絵日記みたいな感覚だそうです。
描き終わったら次の作品へ。

 

曼荼羅は主張しているものでは決してなく、実はどんな風にもそまる受容がある。
九州展示の時には、お守りとして曼荼羅を自分の傍に置かれる方がいらっしゃったそうですが、見る側が自由に受け止め、それが生活にいい波長の連鎖になればいいな。と仰せでした。
フリーハンドで描き続ける廣海さんのオリジナル曼荼羅。
制作時、辛くなる事もあるそうですが時代に沿う受容を曼荼羅で表現していきたい。
日常を曼荼羅で描くことが自分の使命だと思うと仰せでした。

11月末から12月上旬にかけては、町家の庭も紅く色づく時期です。是非皆さん、町家へお越し頂き、季節の移り変わりと、曼荼羅の見事な作品をご覧にいらして下さいませ。