展示・イベント
現代性の環境—前半—
- 概要
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作家・主催者 florian gadenne + miki okubo(現代アート)/吉本梓(工芸・バイオアート)/大橋美月(バイオアート)/テクノロジーの〈解釈学〉メンバー有志 石井飛鳥・片倉洸一・高玄燁(メディアアート再制作) 期間 2026年3月7日(土)~3月23日(月) 時間 9:30~18:00 備考 企画:大久保美紀
主催:情報科学芸術大学院大学[IAMAS]
協力 :art-sensibilisation

吉本梓《軌道上のイネ》(2025)
公式サイト:https://www.iamas.ac.jp/gendai/
レポート
科学と芸術を結びつけながら、メディア表現の研究を行っている大学院「IAMAS」
本展では[IAMAS]の学生たちによる作品を発表されました。
高度に発達したメディア環境は、私たちの生活を便利にする一方で、価値観や感覚を似たものにしてしまう側面もあります。
人工知能の発展やテクノロジーの進化によって、人の感じ方や考え方の関係も大きく変わりつつあります。
エコロジーの問題では自然環境だけでなく、人間や社会、テクノロジーとの関係まで広がり、こうした時代の変化の中で、芸術は社会や環境とどのように関わることができるのか。
IAMASの学生さんたちがグループ展で発表された試みとなっています。
◉florian gadenne + miki okubo
IAMAS教員の⼤久保美紀と美術家のフロリアン・ガデンによるユニット
florian gadenne タイトル《Le Chêne Monde》
⼀本の樹⽊が抱え得る複雑な⽣態系が繊細なテクニックで描かれている。
オーク[仏 : chêne] はカシ・カシワ・ナラなどを含むコナラ属の総称で、樹⽊の中でも最も多くの種を育む。
⽊の枝には⾍や⿃や地⾐類、地⾯には異なる動植物が、根の部分には菌類が鬱蒼とし、四季の変化を表す。
共⽣、対⽴、寄⽣、捕⾷・被⾷という⽣物種間の複雑な関係性とエネルギーのサイクルを可化することによって、⽣のネットワークを明らかにする。 2019年に始まった《Le Chêne Monde》をめぐる研究は、著書『LʼArbre-Monde』(Belin、2024)として結実した。

miki okubo タイトル《Gland Monde》
磁⼟製のドングリ群と多様な形態を持つドングリのデッサンから成る。
ドングリは、広くはブナ科の樹⽊の果実、狭くはコナラ科の樹⽊の果実と定義される。
都市や森で採取した⽊の実を型取り、施釉焼成し、磁⼟製の⽊の実を得た。
ギリシャ語で模倣を意味する「ミメーシス」[ μίμησις]は、⼈間が⾝体動作を通じて対象を「うつす」⾏為であり、近代より前の時代の芸術⾏為の本質である。
⼿を動かして対象を写しとることは事物の理解や対象への共感にかかわる。⼩さな⽊の実の⼀つひとつは樹⽊の⽣命の「技術」の現れである。
本展では、模写を通じて⼀つのドングリと絆を結ぶ(apprivoiser)参加型作品として展⽰する。

◉吉本梓
IAMAS25期⽣。沖縄にて⾃⽣植物の利⽤や⺠具制作の調査を継続してきた。現在は、縄を綯うという⾝体的・反復的⾏為に着⽬し、植物との関係性から「⾃然とは何か」を問い直す芸術実践を⾏っている。
タイトル《軌道上のイネ》
⼈類が農耕を始めたから、⼈は⾃然を⽀配し始めたのか、それとも植物に導かれ共に変化したのか。本作は⼀粒の稲からその関係を⾒つめ直す。
⽇本では「⼀粒に七つの神が宿る」とされ、稲は精神⽂化とも深く結びついてきた。
作品では19世紀末から試みられてきた電気栽培技術を⽤い、微弱な電流や磁場が稲に作⽤する様⼦を可視化する。科学と信仰、⾃然と技術の境界が揺らぐなか、私たちが失いつつある“⾃然との対話”をもう⼀度感じ取るための試みである。

タイトル《⽉桃のしめ飾り》
沖縄在住時より、沖縄の⾃⽣植物である⽉桃でしめ飾りを作ってきた。正⽉に年神を迎え⼊れる神聖な場所(結界)を表す。
しめ飾りは毎年⼀種制作され、本展では五年間かけて制作された五つの作品を展⽰する。

◉⼤橋美⽉
2001年⽣まれ。IAMAS24期⽣。ミルクの膜をマテリアルとして⽤い、⾝体と環境の関係性や⽣命観について探究する。
タイトル《Milk Skin》
私たちが⾷品として摂取しているミルクは牧場で⽣産され、⼯場で脂肪分や栄養素などが加⼯され、殺菌や均質化といった⼯程を経て市場へ流通している。
ミルクは哺乳類の⼦の内界から外界への移⾏を橋渡しする。
ミルクの起源は、卵の殻にカルシウムを供給する⽪膚の分泌物にまで遡り、哺乳動物のみならず多種間における⽣の連続性にかかわっている。
ミルクの膜はタンパク質の熱変性により、脂肪球を包み込むことで⽣成される。
⼯業的なミルクから⽴ち上がる⽣々しいテクスチャーのミルクの膜は、閉ざされた都市の⾝体を⽣態系(エコシステム)の問いへと開く。膜は存在論的境界を再考し、原初的で懐古的に世界を再び知覚する。
本展では、乳脂肪分と殺菌温度の観点から、異なる五つのミルク膜についての研究を展⽰する。

IAMASプロジェクト「テクノロジーの〈解釈学〉」メンバー有志
◉⽯井⾶⿃
2001年、札幌市⽣まれ。慶應義塾⼤学SFCを卒業後、IAMAS25期⽣。
現代のメディア環境における「⼀⼈」の再定義を⾏うために、AIやソーシャルメディアを⽤いた制作と、実験⼼理学の⼿法を⽤いた認知の分析をす
る。
◉⽚倉洸⼀
神奈川県藤沢市⽣まれ。IAMAS25期⽣。
プログラマーとしてインタラクティブコンテンツ開発に従事しながら、モジュラーシンセやMaxを⽤いた幽明怪奇な⾳響表現を⾏う。現在は時間哲学を中⼼としたリズム概念の研究をしている。
◉⾼⽞燁
中国上海⽣まれ。上海⼯程技術⼤学を卒業後、 IAMAS25期⽣ 社会の中で未完了経験を新たな「廃墟構造」として捉えている。
複数媒介を組み合わせによって廃墟的な経験を再現し、テクノロジーが感覚を形づくる仕組みを探究している。
三原聡⼀郎 タイトル《空気の研究 / Study of Air》(2026年に再制作)
三原聡⼀郎は、IAMAS卒業⽣で、メディアアートの基盤となる⺠主化されたテクノロジーの視点・⽅法論から、開かれた系のあり⽅を探り、装置としての芸術を探究する。
2024年の展覧会「三原聡⼀郎レシピ:空気の芸術」では、レシピの概念を参照し、作品のメカニズム詳細を記載したレシピを公開した。芸術実践における循環や還元性についての作家の問いを引き受け、IAMASプロジェクト「テクノロジーの〈解釈学〉」メンバー有志が《空気の研究 / Study of Air》を再制作する。
ひらひらと移ろう浮遊体の動きは、⽬に⾒えない気流の変化によるものだ。
気配や存在感と関連付けられる超低周波の空気振動(聞こえない⾳)を数値化する為に⼩型マイクを応⽤したシンプルなセンサシステムを設計し、屋外に設置されたセンサはこの地の⾵のデータを常に計測する。
その情報に基づき床上のファンはリアルタイムで出⼒を制御されている。⾵を捉え、再構成する⼀連のシステムは⽇本における空気と呼ばれる概念について実践的考察を⽬的としている。

ミルクの膜をつかった大橋さんとお話。
大橋さんはIAMASでどういった事を勉強されてるんですか?
バイオアートをプロジェクトで勉強していて、今回の牛乳の膜の作品にたどり着きました。
どうしてバイオアートのジャンルを?
ぼんやりアート関連に興味があって大学受験で芸大に行ったんです。
大学ではキュレーションやアートプロジェクトの勉強をしていて、映像の勉強も最初してたんですけど、見ることの触覚性という事に関心があって。
人の意識とか生命に関心があって、生命観だったりの哲学に、バイオアートやエコロジーの問題に結びついてきたかな。て感じです。
大学卒業後、IAMASに行こうと思ったのは何故ですか?
キュレーションや構想企画を勉強していく中で、自分でも作りたい気持ちが出てきました。
映像哲学とかに関心があって、IAMASは情報やメディアに強いので入りました。
実際に入ったらメディアとは何か?から勉強が始まるので、バイオマテリアルも一種のメディアだと思うんですけど、メディアの考え方も深掘りできたと思います。
今まで向き合ってきたテーマや活動について
元々、物と表象の関係性や意識といったテーマに関心があり、映像作品を制作していました。次第に、物質性や身体と環境の関係性へとテーマが深まり、現在はミルクというマテリアルと向き合いながら作品を作っています。
ホットミルクの表面にできたミルクの膜を作品。発想が面白いですよね。なぜそれを題材に?
ミルクの膜はもう一年以上作っています。
岐阜にある牧場へ二泊三日で行った時に、牛がミルクを出しているのを目の当たりにして、普段飲んでる牛乳の感じ方が変わったんです。
何が基準で出荷されてるか、その基準は何処からきてるのかな。
ミルクの生産・加工・流通は分業化されていて、市場に届くまでの工程が見えにくくなっています。私達はラベリングされたミルクを無意識に食品として消費してしまっている側面があります。
生産者や消費者といった立場や責任を切り分け過ぎるのではなく、それらを横断し、接続する存在として、ミルクに焦点を当てたかったからです。
そういった事を考えた時に、一方的に批判してしまうような作品を作るのは違うと思って、自分も作品を通してそこに参加しながら問い、考えられるきっかけにならないかな。そういったところからミルクの膜に繋がっています。
ミルクの膜を、どうやって作品にしてるんですか?
膜との付き合いは1年以上になるので、最初はマテリアルとして扱いが難しくて。
数分で出来た膜を持つとすぐ破れますし、脂肪の量とか均一化されてるか・されてないか。
どういう温度で殺菌しているかによって、マテリアルの立ち上がり方が違うんです。
物によって違うんですけど基本的には60℃くらいで40、50分くらい火にかけてますね。
低脂肪乳が取り扱いやいかな。
油分が多いものだと剥がれやすいように石鹸を塗った所に乾かしてから、膜の形をつけたり。
油分が多いと破れやすいので乾かす時間も長くなります。
低脂肪だと油分が多くないので、出来上がった時から取扱いしやすいです。
無脂肪だと乾いた時に割れやすいので、ワセリンで保湿したり。
物によってケアの仕方が違うので、生きてる感じというか、不思議な感覚を感じながら作ってます。
透明度も違いますよね
脂肪の量で違いが出ますね。
ミルクの膜は乳脂肪分や殺菌温度、さらには湿度など制作環境を含む膜とのやりとりのなかで立ち上がるため、膜はその都度さまざまな表情を見せてくれます。

茶室の気流を捉えた作品は三原さんが考案された作品を、その手順にそって今回は学生さんが発表されてます。
ミルクの膜を使った作品は、誰かから教わった手順はなく、大橋さんがゼロベースで工程を探りながら考えられてるんですか?
そうですね。周りにもいませんし、教わってもいませんね。聞いたこともないです。
牛乳の膜で手形を作ったり、色んな形を実験したんですけど、脂肪が多いものだとぷく~と膨らみますし、低脂肪だとシワシワの状態になりますし、脂肪分が少ないと、乾いた時にそったりとか。作りながら見てる膜の表情。膜とのやりとりかな。
じゃぁ独学で唯一無二。様々なジャンルがある中で、オリジナルを見つけることって難しいことだと思います。
生命観の問いだったり、私はそういった意味では企画とか、一歩引いた視点でアートに向き合ってきたのかもしれません。
着眼点みたいなところは独特かもしれませんね。
成功率が低そうですけど、面白さの一つは?
何百個は作ってますね。成功率は本当に低いです(笑)
ある程度分かってても、環境の問題で張り付いたり、破れやすかったり。
時間を決めておけば上手くものでもないので、その都度のトライがあります。
その分、絶対に毎回違う表情が見られるので面白さや愛着があります。

展示テーマとの関連性について
商品としてのミルクは均質なものとして流通していますが、実際には環境に大きく依存しています。
例えば、実際に牧場に行ってみて聞いた話によると、牛にみかんを与えるとオレンジ色がかったミルクが出て出荷停止になったそうです。このようなミルクという物質から膜を生成することで、私たちの身体と環境の関係性を再考し、エコロジーにおける問いを提示することを試みています。こうした点において、本展覧会のテーマとも呼応する部分があるのではないかな?と個人的に思っています。
今はミルクをテーマにされてますが、これから他の素材にも関心がありますか?
人の身体と関わりがあるマテリアルとは向き合っていきたいですね。
それをアートで表現していきたい。作り続けたいと思っています。


CRAFTED MODERNISM|手仕事と構造美の共鳴