展示・イベント
Österut/ ひむがしの
- 概要
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作家・主催者 ■Sofia Ivarsson (ソフィア・イヴァルソン):ライト作品作成、コンセプトメーカー、アイディア
■牧村英里子:コンセプトメーカー、構成、対話を通してのパフォーマンス・アート期間 2023年10月14日(土)~10月29日(日) 時間 9:00~18:00 備考 ■Sofia Ivarsson( ライト・アーティスト)
欧州各国のライト・フェスティバルやミュージアムにソフィアオリジナルの光の作品が展示されている。また、劇場の照明デザインも担っている。
https://www.nogaprojects.com
■牧村英里子(ピアニスト・パフォーマンスアーティスト)
http://www.erikomakimura.com/
レポート
スウェーデン人の照明アーティスト、ソフィア・イヴァルソンさんと、ピアニストでありコンセプトメーカーの牧村英里子さん。
この展示は、お2人による光のデュオ・エキシビションです。
本来は8月に展示のお話がありましたが、8月はまだ日が長く、18時になってもお昼間とあまり変わらない明るさです。
せっかく照明の展示をして頂くなら、1日の中で光の変化が見える季節の方がより作品の面白さが伝わるのではと、10月に調整をして頂き、スウェーデンから来日して頂きました。
海外と日本を行ったり来たりと世界を旅する牧村英里子さん。牧村さんがThe Terminal KYOTOを好きでいて下さる事から、ソフィアさんに町家に注ぐ光の魅力などをお伝えされ、何十回にもわたるwebミーティングを重ねて展示を実現して下さいました。
展示タイトル「Österut/ ひむがしの 」
これは万葉集 柿本人麻呂の歌。
東(ひむがし)の
野に炎(かぎろひ)の立つ見えて
かへり見すれば 月傾きぬ
ソフィアさんの故郷、スウェーデンは森と透徹の湖が広がり、かぎりなく美しいが、緯度が高い為に冬の暗さと寒さはひときわ身に染み、陽の光が現れた時の喜びもひとしおだそうです。
(展示初日から数日後、ソフィアさんはコペンハーゲンへ帰国されました。京都は25度前後と過ごしやすい秋晴れですが、コペンハーゲンは最高気温が6度で、その日は横なぶりの雨とのこと)
ソフィアさんと牧村さんが、この和歌における太陽と月が時を同じくして東西に存在する壮大な世界観について語ったところ、自然光を最も深く尊びながら光の作品を創るソフィアさんが感銘を受け、初めて東の地に足を踏み入れるソフィアさん、迎え入れる牧村さんとしてもひしひしと感じるものがあり、スウェーデン語・日本語両表記の「Österut/ ひむがしの 」が展示名となりました。
町家に東から差す朝の陽光、午後の日差し、黄昏時の西陽、そして日が暮れ暗闇が訪う。
時間によって表情を変える数々の光の作品が重なり合って、その刻、その瞬間、その場所に居合わせたひとだけが見える景色がそこにある。
様々な表情を少しでも、お伝え出来ればと思います。
これは英里子さんとのコラボレーション作品です。
この小さな素材の一つ一つは私のデンマークのアトリエにあった物で、普段から眺めたり触ったりして楽しんでいたものを持ってきました。
水を使うアイデアが湧いて、その中に英里子さんの生まれた土地で採れたバスソルトと色水を入れました。
光の面白さを引き出す為に、どれだけ遊び心と実験精神を持てるか、二人で一緒に色々テストしてみた研究のような作品です。
回転するごとにプリズムの色が変化するこの作品は、自然光も見方によって様々な表情を生み出しています。
これもデンマークから持ってきました。最初はシャンデリアみたいに、まとめたようと思ってたんだけど、この空間が広いので色んな所に点在させて、有機的な感じに見えるようにしました。
これは月をイメージしています。
月自体は発光してなくて、光を反射して光るものなので、それと同じように例えば、携帯とかの光をあてた時に、初めて見えるようなイメージで作りました。
素材は、自転車の反射板なんですよ。
ソフィアさんの子供の頃の夢って?
12歳位の頃、劇場で舞台美術のデザインの仕事に就きたいと思ったの。
12歳で?!何かを見て、そのお仕事を知ったんですか?
私は小さな町に住んでいて、その町では友人のお婆さんが10人くらい入れる30平米ほどの小さな劇場の劇場監督をしていたの。
小さな子供達や10代の若者達と一緒に舞台作品を作っていて、それがきっかけで舞台の仕事に興味を持ちました。
大学の時は、何を専攻されたの?
舞台美術の音響、照明、そういう舞台に関わる全般の技術の勉強をしていました。
じゃぁ、光のアーティストの道に進まれたのは、子供の頃に見た小さな劇場が大きなきっかけになったんですね
はい。色んな舞台の技術がありますが、その中でも照明を好きになった理由が、
照明はとても観念的で、色によって様々な感情を引き出したり、空気感を作れたりするので、舞台装飾よりも照明の方により熱中するようになりました。
今回初めての日本来日ですが、今迄は何処で展示をされてたんですか?
ライトフェスティバルで、フィンランドで数回。デンマーク、オーストリアで。
ライトフェスティバルとは?
ヨーロッパの夜が長くなる冬の時期に、国際的なライトフェスティバルというのがあって、屋外で様々なアーティストが照明作品を展示します。
私の場合は日中でも楽しめる様に、太陽の光で反射する素材を使い、夜は照明を付けて違う表情に見えるものを作っていました。
京町家は、お家の中で独特の雰囲気だと思います。
牧村英里子さんと来日までに30回ほどwebミーティングをして頂いた様ですが、町家の雰囲気は想像つきましたか?
最初、英里子さんとは、朝は東から日が差して夕方は西に沈んでいく、この空間の光を利用して、時間によって見え方が変化するものを作りたいと話していました。
実際ここに来て、この建物の細かい造りや興味深い部屋の数々を見て、二階の光の感じが凄く気に入ったので、このフロアをメインに家と作品を調和させようと思いました。
結果的に、このような形になるとは想像していませんでした。
白い壁じゃなく、建具や障子の木枠。横や縦の色んな線がこの空間にはあります。
今迄で海外でされていた空間とは別物だと思うんですが、展示は難しかったですか?
チャレンジでした。
でもそれが面白いところで、この空間も体験の一部として訪れる人に雰囲気を楽しんでもらいたいです。
単体のアート作品ではなく、全体的なインスタレーションですね。
例えば、虹の光が映る障子を見て建物のディテールに目がいくように、そういう時間を過ごしてもらえたら嬉しいです。
今回は短い滞在なので2階だけがメインですが、いつかお家全体を使って大きな展示をしてみたいです。
ソフィアさんが展示をするのに空間はとても重要な要素だと思いますが、今回の展示は何にインスピレーションを受けましたか?
一番インスピレーション受けたのは、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」という本で、日本家屋の光が奥まで差し込まない、陰影や自然光の素晴らしさに一番感銘受けました。
隣の部屋(天高の間)は窓がなく光が全く入らない状態で、これも特別感があって良い感じに展示できました。
光のアーティストとしてこれから、更に広がる夢はありますか?
公共アートをやってみたいです。道路などに展示して、通りすがりの人たちに私の作品を体験してもらいたいです。
既にデンマークにそういう作品を作っていて、小さな通り沿いの個人宅の壁に作品を展示しています。
「誰でもご自由に (free for everyone)」のアートですね。
美術館などの室内ではなく、屋外に設置することで誰でも楽しむ事が出来ます。
そして同じくデンマークの港に来年設置する予定の、光を反射して海の風でなびく“風の彫刻”作品を構想中です。
風の彫刻、見て見たいです!新しいチャレンジですね。楽しみ。
英里子さんとは、何をきっかけに知り合いに?
2016年に学校を卒業した後、友人の一人がFacebookに、舞台パフォーマンスの為の照明アーティストを急遽探していると投稿しているのを見つけました。
それをきっかけに英里子さんと知り合いました。
毎年11月に、コペンハーゲンの同じ教会で英里子がコンセプトメーカーのイベントをしました。
聖書「七つの大罪」をモチーフに毎年1つの罪をテーマで取り上げて、毎回違う演出と趣向でパフォーマンスをしていたんです。
その照明や舞台の演出を7年間一緒にしました。
小さい頃の夢がかなっていますね。
凄く努力したし、自分の好きな事を日々やれてる事がすごく嬉しいです。
秋の町家に注ぐ、光の移ろいと共に調和していくソフィアさんの照明アート。
その空間を是非2度、3度と足を運んで頂き、ご堪能下さいませ。