展示・イベント

京都暦原画展ー日日(にちにち)だより2022冬号ー

概要
作家・主催者 日比暢子(刺繍・版画)
期間 2022年12月23日(金)~12月29日(木)
時間 9:00~18:00 ※最終日は16:00迄
備考 ■プロフィール
秋田県生まれ
京都嵯峨芸術大学(現・嵯峨美術大学)版画分野卒業
アトリエ日日草代表

2011年より㈱和光舎入社に伴い、日本刺繍に出会う。
現在も修理修復の仕事の傍ら、独自の作品に励んでいる。

■グループ展
2020年 ハレとケー刺繍三昧の日々ー(ターミナル京都)

レポート

日本刺繍作家 日比暢子さんは普段、寺院で保管された古い刺繍物を修復する事をお仕事にされています。
学生時代は版画を専攻され、版画ばかりの日常から、何か違う事に刺激を受けたい気持ち。
そして、日本人形を作る母親の役に立つ事がしたいと、人形に着せる着物に刺繍が出来ればと思う気持ち。
日本人だから日本の物をやりたい気持ち。
それらが重なり、日本刺繍のワークショップに参加された事をきっかけに、刺繍の道が開かれて行きました。

秋頃に、学生時代に学んだ版画からステンシルの技術を選んで、2023年卓上のカレンダーを作り、日ごろお世話になっている方々へ感謝の意を込めてプレゼントされました。
今回は、そのカレンダー用に作った版画の原画と、刺繍作品のお披露目となった展示です。
「版画の展示は、いつかやりたかったから。」と日比さん。
一ヶ月ごとに作られたカレンダーには、全て京都にまつわる場所や、行事がデザインになっています。
原画を飾る額には刺繍が施されて華やかさを演出し、見に来られるお客様は日比さんワールドを楽しんでおられました。


■カレンダー

1月の写真
【1月】七福の持ち物 【額】七福神+ガネーシャ


2月】節分祭(吉野神社) 【額】雪の結晶


【3月】ひなまつり 【額】模様刺し「業平格子」※読み:ナリヒラコウシ


【4月】花まつり(お釈迦様の誕生日4月8日に行われる) 【額】春の草花


【5月】八十八夜茶摘みの集い(宇治) 【額】鯉のぼり


【6月】茅の輪くぐり(北野天満宮) 【額】水たまりと蛙


【7月】祇園祭 【額】模様刺し「青海波


【8月】地蔵盆 【額】夏の虫


【9月】重陽祭(車折神社) 【額】月夜のウサギのフラダンス


【10月】京野菜 【額】運動会


【11月】七五三参り 【額】紅葉に猿


【12月】除夜の鐘(知恩院) 【額】模様刺し「麻の葉」


 

作品名【八福神】(恵比寿、大黒天、毘沙門天、弁財天、福禄寿、寿老神、布袋尊、ガネーシャ)
お茶袋が可愛らしいと興味を持たれた日比さんが、茶袋に七福神とガネーシャの刺繍を施した作品。
宝船に乗っている七福神のイラストをよく見られると思いますが、展示ではそれをイメージし、先端に帆を立て、八福神が船に乗っている模様です。


作品名【ウルトラヒックリ蛙】
鳥獣戯画の蛙を怪獣に見たて、ヤーー!と押し倒している蛙と、押し倒されてひっくり返っている蛙が奥にいる。


作品名【タイガーマスク】
木綿糸で制作した寅年に因んだ作品


ステンシル版画は紙に絵を書いた後、色をのせる所を切り抜き、そこにインクをのせていく技法です。
版画でも刺繍でも、日比さんが描く人物や動物たちは愛らしく、動きが見える様な生き生きした雰囲気を感じ、下絵がとてもお上手な事が分かります。そのルーツを伺いました。
日比さん:
子供の頃から絵を描くのは好きでした。キャラクターを描く事は無かったんですけど、道端の草花を描いたりしていました。
小学校の自由研究は、自分の町に生えている草を徹底的に調査して、草花の地図を作ってたし、辞書を持って田舎の山に行き、植物を描いて図鑑を作ったり。自分で名前作っちゃって草花事典も作ってましたね。
顕微鏡を買ってもらったら、花粉事典みたいな物を作ったし、その時から見て観察するのが日課というか。

ベースがそこにあるんですね。
カレンダーの額縁には、いたずらしそうな猿だったり、運動会の競技で一生懸命な子供達。そういったシルエットを見て、その先の想像が膨らむんですよね。
日比さん:
自分の想像を生かすのが大事だけど、基本的に「あれ?こんな所から手が生えてるのはおかしいぞ」というのは好きじゃないから、基本の骨格は大事にしています。
骨の付き方、筋肉のつき方、そういう所は狂わない様にしてますね。
ウサギだったら、耳の長さを強調してみたいから、長くして遊ぶ事はあるけれど、基本の形は出来るだけ崩さないように意識してます。
10月の運動会だと、最初は子供達が大勢いる感じにしようと思ったんですけど、
ここ!っていう感じの所をやろうと思って、人数を減らして空間を出したら、かえってそれが良い感じになりました。

人の動き、写真とか参考にされてるんですか?
日比さん:
自分の目で見てないと、動きがやっぱりよく分かんなくて。
だから人間観察とか、よく物を見るようになりました。
鯉のぼりでも、お寺行ったら結構、5月に大きな鯉のぼりを飾っている所が多くて。
何で今まで気付かなかったんだろう。
風がなびいたら、こういう動きをするんだ!と写真に撮ったり、春の可愛い草花を見つけたら写真に撮ってますね。自然に勝るものってないんですよ。
だから、バッタやカエルがいたら、写真撮って溜め込んでます。自然観察とか、人の動きを見るようになって、それが生かされてるのかな。

日比較さんの作品は、よく見るとクスッ(笑)となるユーモアが含まれるじゃないですか。
あえて作品にはユーモアを取り入れる様に意識されてるんですか?技術は勿論ですけど、そこも日比さんファンには、たまらない好きポイントだと思います。
日比さん:
どうなんですかね(笑)。
でもそれ、ちゃんと見てくれてるから遊び心に気づいてくれてるんです。
物を見る時、大げさにしないと気付いてくれない事って多いと思うんですけど、私はそこまでじゃなくて、ずっと見てたところで「あれ?」みたいな。
昨日は気づかなかったけど、今日は気づいた様な。ちょっとしたところを大事にしたいと思ってるんです。
「何かこれ、ん?」みたいな所に気づいてキュン♡となってくれたら凄い嬉しい!

別に初めから笑わせようとか、ダジャレ入れようと思ってる訳じゃないんですけどね(笑)
最初は多分ちゃんと真面目にやろうって思ってるんですよ。
だけどやっていくうちに真面目な顔に見えてこなくなる(笑)ていうか遊びたくなる、いじりたくなるんですよねー。
最初にこうしようって思った事と、完成したのが全然違うとかありますもん。
やっぱり時間が結構かかるから、その中で今だったら変えられる!とか、やっていく内に気持ちが変わって「あ!あれも入〜れちゃえ!」と、ちょっと遊んじゃう事があるんですよね~(笑)

普段されている工房のお仕事だと、お寺さんとかの修復をされてるからユーモア入れられないですものね。
日比さん:
仕事は昔の職人さんになった気持ちで、自我を出さないようにしてます。
昔の職人さんから怒られない様に、このくらいだったら許してもらえるかな。て。
違和感なく溶け込める様にやっていて、プライベートとは全然違いますね。同じ日本刺繍だけど、作品に針を刺してる気持ちの姿勢が全っく違うジャンルです。
プライベートの刺繍は、自分の気持ちを表現する一つ。心地よく気持ちいい感じかな。やらないと落ち着かないっていうかね。


展示では一つの部屋を刺繍工房として、実際に刺繍の実践をされていました。
色んな刺繍がありますが、日本刺繍は何が違うんですか?
日比さん:
日本刺繍は両手を使うんです。針もすごく短いんですよ(確かに短い)
針を上下に上げ下げして、垂直に針を入れなきゃいけなくて。だから針が短いんです。長かったら、ぶれちゃうから。
フランス刺繍や、他の国の刺繍は丸い枠を使って、片手で枠を持ち、片手で針をすくい上げる様にやっていくんですが、私はそれが出来ないんですよ。
1回やってみた事あるんですけど、針がまず長くて扱いにも手こずって。みんな凄い事してるな。て思います。

両手を使って、垂直に刺して上げ下げ運動なんですね。残りの糸、結構短くなってますけど、その長さで糸止め出来るんですか?
日比さん:
日本刺繍は短くなったら、すぐ近くの所で1回、2回刺して、これでもう切っちゃうんです。
結ぶとか無いんですよ。

実際、針を刺す所を見させてもらうと、プスップスッと結構、音が鳴るんですね。
日比さん:
そうなんですよ。絹糸の擦れる音とか、落ちる時の音。リズミカルに刺すから心地良いみたいで、工房に聞ききに来る人がたまにいるんです。プツプツの音がいいから。

日比さんにとって刺繍をされるのは、お茶を飲む様な日常じゃないですか。落ち込む日もあると思うんですけど、落ち込んでも刺繍に向き合う時の気持ちって?
日比さん:
落ち着くーーー!!
結構、自分の刺繍は精神安定剤じゃないですけど、落ち着かせる効果もある。
仕事の刺繍は、昔の刺繍職人がのり移るじゃないけど、自分が変われる気持ちだからスイッチが変えれる。
よっぽど疲れて刺繍やっても、やり直さなきゃいけない様な感じだったら、そんな時はやらないけど、滅多にないかな。
音楽好きな人がライブに行って嫌なことを忘れちゃう瞬間、弾け出してスッキリして次に進めたりするのと似てるし、
旅行好きな人だったら、その時ばかりは楽しむぞみたいな。それと一緒な感じですね。

日比さんにとったら、それが刺繍なんですね。それをお仕事として生かされてるのも素敵。
日比さん:
元気づけるものを持ってるっていいですよね。

展示を見にいらした方は笑みがこぼれ、幸せそうな表情をされる方が本当に多いです。日比マジックというか。
芸大に刺繍科って無いけれど、それをアートとして確立されてるの凄いですね。
日比さん:
アートなんていらないものだけど、あったら気持ちいいですよね。
でもまだ確立されてないからこそ、生きるのかなぁ。
別に日本刺繍じゃなくても、刺繍っていう分野に興味のある人が増えてくれたら盛り上がるし面白いのにな。
絵とは違う新ジャンル。そういうのもあってもいいのかな~。


   

作品によっては購入できる物がありますが、例えば、“自宅の愛犬を、日比さん流にイメージして刺繍を入れて欲しい”
この様な、その方の欲しい物をお手伝いしたいお気持ちが強い日比さん。
この世で自分だけの物に思い入れが生まれて、大切に使って喜んでくれたなら、すごく嬉しいと仰っていました。
プレゼントにも喜ばれそうです。気になる方は日比さんにコンタクト取られて下さい。


展示期間中、一時的につくった町家工房日比では、千利休を刺繍されていました。
その刺繍、顔だけはアインシュタインだったんです。(お仕事の方で千利休の作品を修復された際とても神経を使ったそうで、今回は遊び心を取り入れていらっしゃいますね)
町家でいつかまた展示をしたいからと、床の間に飾る用に制作しておられました。
その時はまた、見にいらした方からは笑みがこぼれて、気持ちが暖かくなる様な展示になるのでしょうね。
作品の完成と、お披露目が待ち遠しいです。