展示・イベント

【優しい媒体展】 -思いやりの相互作用-

概要
作家・主催者 【主催】社会福祉法人 富翔会
【共同開催】社会福祉法人 聖德園
【作家】門田賢一、田中ますみ、橋本大樹、石橋秀美、新宮健一郎、守千鶴、宮崎晃一、児玉紗世、村本茜、南英登、錦雅弥、多田雅哉、秦中巳年男、杉立美和、釜木秀人、田中弘美、小野俊平、稲垣勇亮、房睦子、磯野光世、松本佐和子、藤本健次、高井美和、柴田沙羅、片山亜紀
期間 2019年12月16日(月)~2020年1月13日(火)
時間 9:00~18:00
備考 絵画、造形

レポート

展示に出展して下さったのは、大阪府南河内の知的障がい者施設2施設の生徒さん達です。
年齢層は若い世代~50代と幅広く、症状とそのレベルもまた様々です。
誰もが最初から絵が描けた訳ではなく、スタートは様々だった25名が書く事を知り、それがやがて彼らの日常に変化をもたらす入口へとなっています。

しかし何故、絵を書く流れになったのか。
絵を教えられている先生は、町家で先月まで個展を開催して下さったオリジナル曼荼羅を描く廣海充南子様です。
廣海様がロンドンで「アールブリュット」という展覧会でアウトサイダーアートに出会い、枠にとらわれない作品に衝撃を受けたそうです。
自分もこのアートに関わっていきたいと、帰国された際に障がい者施設の門を尋ねられました。
しかし、紙とペンを生徒の前に置いてもスムーズに絵を書いてくれる事はなく、むしろ口に入れて食べようとする。集中力が続かない。
書く行為が当たり前ではない現状に、生半可じゃ出来ない。絵を教える事は程遠いと感じられます。
噛みつく事や、汚物を投げる事もある彼らを知る事から始めなければ進まない。と、そこから資格の勉強をされ、ヘルパーとして障がい者施設の職員として勤務をされました。
彼らに寄り添い、絵を教える事は一切なく数年たつ中で、こんな事をしていても意味があるのか?と自問する事もあったそうです。
その想いを察したのか、ある生徒さんが廣海さんに心を通わせる瞬間があったそうです。
他の生徒さん達の症状や性格の特長も掴み、コミュニケーションをとる中で、ようやく絵をスタートしてもいいと思えるタイミングが生まれた事が一つ。
もう一つは、生徒さんの症状改善に繋げる手段でもありました。
・幻聴と幻覚を抱えている方だと、絵を書く事で、出来るだけ現実の世界に意識を戻せれば。
・些細な事がきっかけで大きな声で怒り、時に暴力をふるう方だと、何かに集中できれば、些細な事が気にならなくなり、トラブル改善になるのではないか。
そういった事がきっかけで、絵に触れる事を入口とした生徒さんもいらっしゃるそうです。

長々となりましたが出展作家さん達の、ありのままの作品をご覧下さいませ。


■一階縁側:「無題」
元々知恵をお持ちの方ですが、いじめが原因で統合失調症となり、幻覚・幻聴に悩まれる方です。
そして周りのものが全て“線”に見え、音や文字(自身の名前も)、全てを“線”で表現されます。
聞こえてはいるそうですが、言葉は発しないので、キャンパスに描いた“線”は、街なのか。動物なのか。
記憶がもしあったならば、その答えは彼女だけの秘密です。
書き出すまで時間がかかるそうですが、書き出すと2、3時間でも集中してペンを走らせ、自分で納得がいくまでペンを離さない。色味も全て片山さんのセレクトです。


■床の間:「ハッピーくん」3点
生活する中でパターンが狂うと許せなくなり、それがきっかけで人を殴ることもあり、施設の中でトラブルを招く事が多かったそうです。
例えば、A君はいつも自分より先に食べ終わるのに、今日は食べ終わるのが遅いと、無理やりA君の口に食べ物を入れ込む等。

そこで彼個人のスペースを作り、2年ほどかけてカードマッチングという手法を取り入れられました。
カードに書かれた(〇〇をやる)を毎日きちんと、こなしていきましょう。という物です。
幼い頃から独自のロボットの様な絵は描けていた事から「帰りに1枚、ポストカードにそのロボットを書きましょう」をルーティーンに加え、それが300枚ほど溜まった時に大きい絵を書いてみよう。となりました。ポストカードを真似て書く事からスタートされます。
絵に没頭する事で、些細な事が気にならなくなり、やがて個人スペースから、みんなと同じテーブルで書ける様になりました。
作品に描かれた大きな顔の周りは、塗りつぶしてある様に見えますが、それは“点描”です。
周りの誰かがしていた点描の技法が楽しく見えたのか、真似たのかもしれない。
目線の変化が生まれたと廣海先生は仰せでした。
やがてニコニコして描くようになり、絵を書くという集中が見いだせた事で、許せなかったこだわりから解放され、6年ほどかかりトラブルが少なくなっていったそうです。
右の作品は障害者アートの作品展で、4500点ほどの中から40点の中に選ばれた入賞作品。


■床の間:「クレヨン」
自称が激しく、かまってほしい。注目してほしい。という事から奇声をあげる事もあり、時に自分の体を傷つけてしまう事も。
そこで、何かに集中できる手段はないか?として絵を試みます。
円や曲線を何度も重ねて書く事ができる方で、筆圧がとても強いので紙ではなくベニヤ板に描かれています。
作品は全てクレヨンによる物で、制作期間は約1年ほど。
3、4時間すごい集中力でクレヨンを塗り込み、その集中力は時に指から血がにじみ出ていても気づく事がないそうです。
クレヨンを重ねた厚みを指で削ったり、その削りカスを集めたり。そしてまた塗り重ねる。
自分が気持ちいい手の感触で、ヨシ!と納得する瞬間があるそうです。
描かれている時の動画を見させて頂きました。
曲線を描く手の振りはとても大きく、シャーシャーシャーと音が聞こえます。お顔の表情が、まるで職人さんの様でかっこいいんです。
以前は周りが絵を書くよう促していたのが、今は板とクレヨンを渡すと自分発信で動かれるそうです。


■床脇:「無題」
ペットボトルの蓋も自分で閉めないほど、1日何もしようとしない。1日中ソファーで過ごされている方。
そこで「自分で何か最初から最後までやってみる」という課題を作られました。
その課題の流れは、
指定場所から絵の具、パレット、筆を持ってくる→絵の具の蓋を開ける→この角度で絵の具を出す→蓋を閉める→1日1本、線を書く→道具を洗う→片づける。

1日1本、線を引くのが課題の一つなので、どんな線であっても書ければクリアです!
そのピッと引く長さがあまりにも短くて、えーーーーー!!!こんだけーーーー(笑)!?
と驚く事もある廣海先生。
その積み重ねがあり、完成された作品です。制作期間は半年ほど。
自分で選び持ってくる絵の具。配色もデザインも彼が最初から最後まで成し遂げた作品です。
今は先生が言わなくても、自分から片付ける様になってきているそうで、だんだん楽しみになってきている雰囲気が伺えるそうです。


■坪庭横の間:「ぬくいか」
  土間   :「ぬくいか」
コミュニケーションが、なんとかとれる方。
キャンパスには、わずか4文字ほどの限られた、ひらがな/西暦/半円の様な記号が描かれてあります。
その半円は何?と先生が尋ねると、彼は「天国の途中」とだけ答えられるそうです。

それって何だろ?や、柔らかい思考を持っていたとしても理解なんて出来ないんです。
想像なのか、見えているものなのか分かりませんが、理由なんてなくその発想にただ「すごい・・」と感じます。宇宙の様な背景も綺麗です。


■坪庭横の間:「点描画 旧」
  土間   :「点描画 新」
元々、漫画を描くことが上手な方で、今まで白色の紙に書いていたのを、初めて黒色の画面を渡したそうです。
近くで見ると、アザラシやズボンの絵が白のペンで描かれていますが、それを自ら点描で消した作品。

彼女は、そこから次の点描画を自ら見出しています。それが土間にある2点の作品です。
ベニヤ板にダンダンダン!と同じリズムで、ポスカを叩くように打ち、描かれています。
凄い力で板に打っているそうで、叩く度にインクが弾き、しぶきとなって表れています。
何度もそれを繰り返すと、ある箇所ではインクが固まらずに、液体で溜まった状態になります。
すると彼女はベニヤ板を立て、溜まったインクがタラ~と流れ落ちる様子をニコニコして確認し、板の方向も変えて、またタラ~と流すそうです。
それが格子模様となり、自分で応用を利かした技法で描かれた作品です。

町家に展示を見に来て下さいましたが、楽し気に「また書こう♪また書こう♪」と言われていました。


■入口の間(右):「ヒロミさん」
神様、仏様、私を助けて。と、幻聴と幻覚の中で過ごされています。
現実の世界に意識が向けられる様、1日3人 廣海先生の顔を書きましょう。とテーマを決められました。
何気ない日常会話をしながら、目の前に座っている先生のお顔ばかりを描く。
一発書きですが、特徴をよく捉えられています。
先生と向き合い絵を書く時間は、幻聴と幻覚から解放されているはず。現実の世界は楽しい色なんだと、出来るだけその様な意識(時間)が増えればいいですね。。。


■入口の間(左):「僕の愛する景色たち」

人が話している内容は理解されるそうですが、言葉を発しない。
「筆談」がありますが、彼の場合はその手段が絵になります。【絵談】
こういう場所に行った。これを食べた。こういう人を見た。テレビ番組を見た。
そういった情景を描かれています。
瞬間記憶力が優れているのかもしれない。と廣海先生は仰っていました。
謎の点数が書いてありますが、書いたポストカードを施設の職員さんに渡して、採点を望まれるそうですよ(^^)


■入口の間(中央):「無題」
  小上がり       :「ボンドと、わりばし」
初めからハケを上手に使いこなし、色を塗る事が出来たそうです。
なかなか難しい事だと思いますが、凄いことですよね。
ただ、好きな様に塗るにも絵の具だけだと、正直コストがかかってしまう現状。そこで廣海先生は、絵の具にボンドを混ぜる工夫をされました。
ボンドと絵の具がグチャグチャに混ざり、ハケでなく、割り箸を使ってベニヤ板に色を塗られます。
リズムを取るように体をかっこよく動かしながら、塗られるそうですよ。
割り箸を動かすことで、うねる様な凸凹が生まれています。
小上がりの作品には、実際に使った道具が貼り付けてあり、割り箸の先端部分が丸く削り減っている事が分かります。
絵を描くことは厳しいけれど、塗る事は得意な方。彼が作る凸凹の味ある板を使って、他の生徒さんは絵を描く事があります。絵にとてもいい表情が生まれているんです。
展示作品ではそのコラボレーションを見る事が出来ます。彼はまさに下地作り専門の職人だ!

 


■ショップコーナー:「かお」
目の前にいる人の顔が、沢山並べて描かれています。
目の前にいない人は書けない。例え母親であっても、それが写真なら書けないそうです。
ですので、同じ施設にいるお友達や、職員さん達の顔が描かれているのだと思います。


■土間   :2名による合作「闇夜のビーバー」
防空壕(東) :「ビーバーと、英人くんと、メガネ」
動物の絵を描く生徒さんは、決まってウルトラマンか、ビーバーしか書かないそうです。そう。作品はビーバーなのです。
土間の大きな作品は、下半身麻痺により車椅子生活を送る方との合作です。
車椅子生活の彼は、自分も絵を描く事に参加したいと廣海先生に依頼されました。
しかし手を伸ばし動かせる範囲は限られているので、先生は車椅子に色を塗る提案をされます。
ビーバーの下に見える金色は、車椅子のタイヤに色をのせ、ベニヤ板の上を走らせたものです。
近くで見ると、そのタイヤの痕跡が見えますよ。

防空壕では、施設で初めて描かれたビーバーから、最近の作品までを展示。
ビーバー!ビーバー!と口に出されるのですが、何故ビーバーを描くかは謎の様です。
奥中央が、初代ビーバー作品。インクが薄くなっても書き続ける事で、周りがグラデーションになっています。
今はペンが薄くなると、トントンと叩いて出す事を覚えられたそうなので、色が均一です。
制作は2時間ほど没頭して1枚を仕上げる時もあれば、体調により5分ほどで終わり1ヶ月かかる事も。
作品には必ず決まって、カタカナ。ひらがな。漢字を使った3つのバージョンで「南英人君とビーバーと」の一文が書いてあります。

立体眼鏡も彼の作品です。
セロハンテープで、突然メガネを作られたそうです。
途中で耳のかけ具合を確かめ、色んな歌を歌いながら毎日作っているそうです。
何気に切るセロハンテープは、どれも同じ長さで、指先の神経が飛びぬけた感覚を持っているのかもしれない。と廣海先生は仰っていました。
実は、めちゃくちゃ視力がいいのに、メガネをかけた途端、急に視力が落ちた演技をするんですって(^^)


■防空壕(西):「〇△□の世界」(8点の内、1点は2名による合作)
〇△□の幾何学模様をペイントマーカーで配列良く描かれています。
突然、袋にも描かれた事から、今回そのアイデアを生かし、沢山の袋に書いて下さいました。
最近では、幾何学模様がだんだんと大きくなっているそうで、その分描き終わるのが早く、次の作品へ取り掛かろうとされるみたいです。


■階段:「無題」
自分の声で他の音をかき消そうとするほど、人の声や周りの音が苦手な方。
静かな環境で、〇マルを書く事は出来た。
そこで廣海先生は背景の色が違う4枚の板を用意し、目の前に板を重ねて置かれます。
一番上の板に、〇マルをひたすら描いていく。しかし廊下を誰かが歩いただけでペンを離す事もあるそうです。
集中が切れそうな瞬間、先生は1番上の板をサッと引いて、2段目の板を見せます。
色味が強い板なのでハッと意識がリセットされ、再び〇マルを描き出すそうです(すかさずペンも渡す)
描いている時は集中しているので耳を押さえず、描きながら何処が弱いかを見て、〇マルを描き足しているそうです。
その4枚をつなぎ合わせた作品の制作期間は半年ほど。


■二階 茶室廊下:「サイン」
絵を描くのを嫌がっていたそうです。テーマは、彼にサインをもらう事。
(生徒さんの課題というより、先生の課題のよう?!)
顔のサインや、先生が赤色で何か書いて。と促した線のサイン。
それらを縦につなぎ合わせた作品は、よく見ると一番上には「藤」。一番下には「本」の文字がありますね(^^)


■二階 茶室床の間:「無題」
茶室殿脇    :「フェルト」
床の間の作品は、指をこすり合わせすぎて指紋がないほど、極度の潔癖症がある方。
ペンも筆も、手が汚れてしまうから持ちたくない。絵の具が手につくなんて恐怖でしかない。
しかし、ある生徒さんが手のひらに絵の具を付けて、ペタペタ塗っている姿を見ていたそうです。
廣海先生はすかさず「〇〇君、今いけるよ!」と、先生も手に絵の具を付けて、彼に握手をされました。
すると意外と絵の具の感触が気持ちよかったのか、それをきっかけに自ら足形・手形を望まれる様になったそうです。
親御さんや、周りの先生方も、その成長に凄い!と褒める事で、やる気が出て展覧会用にやろう!と制作された作品です。
展覧会用に〇マルを描くと言われ、ただ集中力はもたないので、大きな太い筆に白色をたっぷり沁み込ませ、一気に〇マルを描かれました。しぶきに力強さと勢いが感じられます。
他に〇マルを何個書く?の問いに、3個と答える錦さん。
他に線路が好きだから、線路も書いていいよ。と助言をされ、構図は勿論ご自身で。
先生と錦さんとのタイミングがよっぽど合わないと書けず、この作品は集中力が持つ時間の5分で完成されました。
すごく達成感に満ちた様で、体の調子がよかったとの事です。

高井さんは、四角に切られたフェルトを、こつこつと糸に通してオブジェを完成されました。
床の間 錦さんの絵と、高井さんのフェルト作品の配色が打ち合わせしたかの様に同じ配色です。


■二階 縁側(南):(中央)「無題」
         (上下)「流れる線」
上下は、ボールペンとマーカーを使用。
先生に色のアドバイスを受け、線を描かれました。
中央の作品は、最初に顔の絵を真ん中に描かれました。その顔を塗りつぶさない様に、先生は紙コップを置いて隠されました。
全部の絵の具を一ヶ所に入れて混ぜるそうで、真っ黒にはなりますが、混ざり切っていない所もあり、自由に周りを塗られた色にはその変化が見受けられます。


■二階縁側(北)/「無題」
元々、習字教室に通われた経験から、筆の扱いが上手。色遊びがお好きで、調合を楽しまれる方です。
足が不自由のため大きな絵は描けず、ご自宅の部屋で書かれるので、廣海先生は4枚の板を渡されました。
夜中に描き、その描いている姿は誰にも見せず、親御さんも見た事がないとの事です。
集中しすぎて徹夜する事もあれば、同じ姿勢で描くため捻挫をおこしたり、足の半分が真っ青だった事もあるそうです。
先生にアドバイスを求められるので、親御さんが途中経過の作品を施設に持って行く時や、写真を先生に送り、LINEを通して色味やアクセントなど先生とコミュニケーションを取りながら制作されました。


■二階 天高横の間:「たくさんの男の子、女の子」
一階廊下      :「女の子の夢」
上の作品には女の子の絵。下の作品には男の子の絵が並べて描かれています。
元々からこの絵を描かれていたそうで、他の絵は見たことがないと廣海先生は仰せでした。
自ら、色味や配置のアドバイスを先生に求めて書き進めていかれたそうですが、5人からはご自身で全て仕上げられています。
ほがらかな性格の方で、それが絵に現れている作品です。


■二階 天高横の間:「金狐、4匹の狐、2匹の狐」
それ迄は、女の子の絵を描いていた田中さんが、急にキツネの絵を描いたそうです。
どうやらドラマ“北の国から“を見た影響との事。
よく見るとキツネの口元が、あの俳優さんに似ている様な・・・。

そして、作品を施設の保管場所に置いていると、〇△□を描く生徒さん(防空壕西)がいつの間にかその部屋に入り、キツネの横に〇△□を書くという事態!
「こんなんしはったー!」とハプニングになったそうですが、アクセントになって私は好きですよ。


■二階 和室床の間:「無題」
コミュニケーションがとれ、字も書く事が出来、元々は手がかからない方ですが、3年前から周りの環境が変わった事を境に、幻覚・幻聴の精神障害が加わります。
強い薬を服用することで暴力・物を投げる・噛みつく行動があり、薬の量を調整する必要があります。
廣海先生は彼女の妄想の世界観や、過去の思い出を聞きながらコミュニケーションを取られます。
その会話に出てくるワードを「字でここにかいてごらん」と誘導されます。
彼女の気持ちを盛り上げて、盛り上げて描いてもらったようです。時には電池が切れたような状態になる日もあるそうですが、制作期間は、1日1時間で約1ヶ月。
四方色んな角度で書かれた文字は、彼女が見ている世界を文字で表した作品です。


■二階 和室床脇 メモ:「メモ帳」
妄想の世界で過ごされますが、作業能力や記憶力が非常に高く、一度聞いたもの。見たものが抜けないほど頭がいい方だそうです。
しかし感情のコントロールが難しく、食欲や物欲、欲求のブレーキが利かない面も。
今回の出展作品は、彼女の持ち物ノートになります。
そこには自分の要望や、昔テレビで見たフレーズ、父親のクラッシックやオペラのレコードを聴いて書いたメモが、びっしり埋めつくすように書いています。

思いついた時に書くのが彼女のスタイル。隙間なく書く文字は、空間恐怖症特徴の字との事です。

出来るだけ普通の環境で教育をしていきたい親御さんのお考えと、村本さんご自身にも勿論興味があられたのでしょう。難しい漢字がとても多く使われています。


■二階 和室床脇 :「いろんな色の花」
芯の柔らかい色鉛筆で描いた作品。
塗り方が丁寧で、先生側がストップをかけないと、やりすぎてしまう時もあるそうです。
描かれる絵は同じ花ばかり。可愛らしい花ですが、何処かに不安・いら立ちなど闇の強さが絵にとても表れている一冊だと先生は仰せでした。


■二階 天高:(絵)「金とブルーの花、金色の花、銀色の花、白い花」
     (メモ)「私のことば」
絵)この展覧会に向けて、初めて大きな絵にチャレンジをされました。
中央の大作は、ご本人の選択で色付けをし、両サイドの絵は、先生のアドバイスを貰い、描かれています。
鉛筆で下書きをし、ポスカで色を塗られているので、すごい労力です。
この絵があるから、自分が保たれていると先生は仰せでした。

メモ)バリケードが強く、廣海先生が関わっていくには時間を要するため、今回は彼女の持ち物を展示されました。
人から離れた場所で書いたメモは、カレンダーなのか、その日の予定なのか、持ち物を書かれているのか。。。
よく見ると、反転した字が見られます。その反転文字が、私にはとても読みづらいですが、職員の先生はスラスラと読まれていました。


■坪庭:「無題」/ (壁5点の作品)聖徳園、富翔会の共同作品「無題」
2施設から7人の生徒さんが集まり、共同作業の作品です。
7人全員が一緒になり、わちゃわちゃ作業したのではなく、廣海先生が一人一人の症状と個性を見て「〇〇ちゃんと、○○ちゃん」と呼び寄せ、色味などアドバイスをされながら完成。
筆を上手に使いこなせない方には、先生が用意された道具を用います。
例え ばコップの底に小さな穴を開ければ、その穴から絵の具が線のように流れ出る道具。
身近なもので工夫をこらし、その方にあった道具をチョイスして皆が楽しく参加できる環境づくりをされました。
2施設の生徒さんが顔を合わせてケンカにならないかと疑問に思いましたが、一緒に何か作る感覚はあった様で、むしろフレンドリーだったとの事です。
目新しい作業に、生徒さん達は楽しみを見いだせているそうです。

  


廣海先生は、生徒さんは色んな事をくつがえしてくるけど、逆にこの世界は面白い。
結果を早く求めてはいけない。彼らには何より経過が大事なんだと、仰っています。
環境の変化にとても敏感で、褒められた経験が圧倒的に少ない彼ら。色んな経験をしてもらいたい。
彼らは自分のセンスで素晴らしい表現ができ、自己顕示欲のないアート。
それが世に広がれば、連鎖の様になって何か変わっていくだろうし、そのお手伝いが出来ればと思う。と仰せです。
絵に触れる入口は一人一人様々です。症状改善への手段の方もいらっしゃいます。
生徒さんの秘めた引き出しを、引き出す先生。
絵の具にボンドを混ぜたり、紙が使えないなら安いベニヤ板を使えばいい。筆が使えないなら紙コップに工夫をこらせば大丈夫。
安く、単純な素材画材でも、彼らなら素晴らしい作品を作る事が出来る。
おもいっきりやろう!
そう先生に導かれ、作品を作る生徒さんたち。
生徒さん達の作品は、決して我が強いものではありません。
上手に書こうと計算のない作風は、何かを求めて描いているのではなく、その時の素をストレートに出しているだけ。
彼らは出来上がった物への執着が一切ないのですから。
私たちが想像を超える、彼ら独自の精神世界と感性が表現された素晴らしい展示です。