展示・イベント

すべての毒を飲む

概要
作家・主催者 松平莉奈
期間 2021年5月15日(土)~5月30日(日)
時間 9:00~18:00
備考 ■絵画
■経歴
兵庫県生まれ。
2014年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻日本画修了。
「他者について想像すること」をテーマに、人物画を主とした絵画を制作。

■主な展覧会
個展「悪報をみる―日本霊異記を絵画化する―」KAHO GALLERY/京都(2018)
個展「うつしのならひ 絵描きとデジタルアーカイブ」ロームシアター京都/京都(2020)など

■賞歴
「京都府文化賞奨励賞」(2020)
「京都市芸術新人賞」(2017)
「VOCA展」佳作賞(2015)
など。

レポート

日本画家 松平莉奈さんに、今回の展示についてご相談をさせて頂いてから約1ヶ月という、準備をするにはあまりにも短期間の中、快く受けて下さり、また展示に向けて5点の新作も制作して下さいました。
過去作から新作まで作品によってタッチが違い、その技量と、松平さんが描くワールドに引き込まれた方も多かったと思います。

中学生時代、美術部に入っていたそうでが、その頃は画家になる事が夢ではなかったそうです。
大学受験にあたりデッサンが必修だからと、そこから画塾に通われました。
ご両親から、画家になって人の役に立てるの?と問われたそうですが、強気で「たてる!」と返事。
でも実はまだ、画家の夢はまだ持っていなく、進学する為の返事だったそうです。
しかし大学で学んでいく中で、もっと深掘りしたい!これ4年じゃ足りない。。。!
と、院に進まれ、この頃から画家への夢をぼんやり思い始め、この方法だったら出来るかな。と探る様になっていったそうです。

ちなみに、更にさかのぼる子供の頃の夢も伺ってみました。
・幼稚園の頃は和菓子屋さん。職人さんのお菓子をこねる作業が面白そうだから。
・小学校の頃は科学者。ビーカーを使って色を混ぜている作業がかっこよく、面白そうで。
・中学性の頃は心理学者。でもこれは自分の性格には合ってないと判断。

振り返ると、
「幼い頃に、こねて何かを作る作業が面白そうだと思った和菓子屋さん。色を混ぜる作業に興味を持った科学者。
今、画家として色を混ぜて何かを制作している事を想うと、形は違うけれど、夢が叶っている事に繋がっているのかな(笑)」と、はにかみながらお話して下さいました。

作品は、人物画が中心となり、文字や物語から想像を膨らませて描いていらっしゃいます。

■作品名「ドリアン・グレイ症候群」2019作
2019年「美人画」をテーマに、銀座シックスに出展された作品です。
作家:オスカー・ワイルドの有名な小説「ドリアン・グレイの肖像」を基に描かれました。
主人公が、ある画家に自画像を描いてもらったところ、自分の美しさを自覚する。
自分が老いて見にくくなることを恐れた彼は「この絵が老いていけばいいのに」と願うと、その通り絵が老いていった。
しかし彼が悪行を行えば、その度に絵画は醜くなっていく。やがてこの絵さえなければと絵を切り裂いた時、そこには醜く老いた自分の死体が転がっていたのだ。
時間を制したはずが、時間・美・快楽の奴隷になったのは主人公であり、転落していったお話です。

作品には実際に死体に着くとされる虫や、物語に出てくる皮手袋などのモチーフが見られます。
背景の赤いグラデーションは、彼が初めて罪を犯した時に夜通し歩いてから目にした朝日を表現されています。


■作品名「Missing Horizon(Eat)」2015作
2015年「京都日本画新展」に出展され、優秀賞2名の内の1人に選ばれた作品。
大学の教授が他界され、当時助手だった松平さんや他の教員方は泣きながら、それでもみんなで昼食を摂ったという。
どんなに悲しくてもお腹は空き、生きる為に食べなければならず、泣きながら味噌汁を食べた情景が作品になっています。
背景の赤は水銀を使用した、垂らし込みという技法。重さのある水銀を上から落とす事で、深くまで色が落ち、奥行きが表れています。

出展された展示規約のMAXサイズで描かれ、当時は白っぽい絵が受賞するというジンクスを破りたくて、あえて色鮮やかにした作品にチャレンジされました。そこに、松平さんの人間味を覗けた様な気がしました。
7年前の作品を今見ると、若さ・エネルギー・勢いが感じられると仰っておられます。
相当大きな絵ですが、乗り板に乗って描かれたのではなく、絵の上に直接座布団を敷いて座って描いたという驚きもありました。



■作品名「王昭君説話より 画室の毛延寿」2019作
中国の漢の時代。実在したと言われている王昭君(オウショウクン)の話をテーマにされた作品。
王昭君の絵や映像作品などは多数ある中、脇役である似顔絵師を描かれています。
画家は、ワイロをもらった宮女には、美人に書くという悪事を働いており「さて、どう書いてやろうか」と思わす表情である。やがてその悪事がバレて、最後は処刑されます。
洋画における死や人生の虚しさを象徴するドクロ、蝋燭、布、金貨など、やがて死に至ることを匂わす物や、ワイロを贈り美人に描いてもらった宮女たちが、背後から似顔絵師を見ている模様も伺えます。



■作品名「解毒の作法」2021作
「毒を以て毒を制す」
嫌な事、辛い事があっても、毒を一旦体内に入れて浄化する。
それは毒を内側に閉じ込めた癒し。

下図の段階ではとても毒々しく感情的で、いわば雑な線で描いてるが、繰り返すたびに削がれていき、洗練された綺麗な線になっていく。
それはまるで毒を飲み込み内包した故の清浄さ。

感情が読み取れない目線や、こぼれる怪しげな笑み。流れるような筆遣いに惹かれる作品です。


画家としてご活躍中の松平さんに、将来どんな風になっていたいか聞いてみました。
「自分の絵をもっと極めたのち、老後的な夢だけど、墨を使ったりした書画教室ができたらな。て思います。
小さい頃に通うお絵描き教室や、受験に必要な西洋的な鉛筆画の技術を学ぶ所はあるけれど、筆を持つことに抵抗がある人って、沢山いると思います。
筆って、何か苦手ですよね。精神統一を持つような感じだし、何か敷居が高いイメージだし。
東洋美術の書き方も。
もっと筆を持つ事に抵抗をなくしていきたいと思うんです。

母が学習塾を開いていて、「おはようございます。」や、生徒の子供に、ちょっとしたご褒美をあげた時の「有難う」だったり。
勉強だけでなく、もっと大事な事を教えているな。と傍で感じてきました。
大人が見ている環境は貴重です。私にできる事は、絵だから。。。

絵を通して、人との繋がりや信頼できる環境だったり、間口を広げていきたい。
その教室も、ビルの上にある階ではなく、スッと入れる路面というか一階で出来たらな。
老後あたりの夢ですけどね」

今の自分があるのは、周りの環境と人に恵まれていたからと、仰っています。
絵を描くのが楽しく、次に描くシリーズは“聖書のヨブ記”をモチーフにした作品に取り掛かるそうです。その第一作が、町家の階段に展示しています。
老後の夢を叶える前に、もっともっと松平さんの作品を私たちにお披露目して下さることだと思います(^^)