展示・イベント
日韓藝術通信5 温度 / 온도(オンド) -往復書簡-
- 概要
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作家・主催者 ■日本 【写真】裵 相順|BAE Sangsun/【立体】井上 裕加里|INOUE Yukari/河村 啓生|KAWAMURA Norio/大前 春菜 | OHMAE Haruna/【絵画】来田 広大|KITA Kodai/宮岡 俊夫|MIYAOKA Toshio/中屋敷 智生|NAKAYASHIKI Tomonari /奈良田 晃治|NARADA Koji/杉山 卓朗 | SUGIYAMA Takuro/鮫島 ゆい|SAMEJIMA Yui/宇野 和幸|UNO Kazuyuki/【インスタレーション】寺岡 海|TERAOKA Kai/山本 直樹|YAMAMOTO Naoki/【写真・インスタレーション】シュヴァーブ・トム|SVAB Tomas ■韓国 【立体】최부윤|CHOI Boo-yun/강완규|KANG Wan-kyu/윤덕수|YUN Duk-su/【絵画】최민건|CHOI Min-gun/한순구|HAN Soon-gu/고헌|KOH Hon/임수빈|LIM Su-bin/문지연|MOON Ji-yeon/長島 さと子|NAGASHIMA Satoko/박진명|PARK Jin-myung/박영학|PARK Young-hak/성민우|SUNG Min-woo 期間 2021年1月12日(火)~1月24日(日) 時間 9:00~18:00 備考 ■ジャンル:写真、立体、絵画、インスタレーション
■助成 :公益財団法人日韓文化交流基金・京都府文化活動継続支援補助金
レポート
「日韓藝術通信」が始まるきっかけは、2015年。
韓国 清州のアーティストグループ「Saem」が日本のスタジオをリサーチする目的で、京都市右京区にあるアーティストの共同スタジオ「A.S.Kスタジオ」を訪れた事が始まりでした。
A.S.Kを中心とした京都のアーティストと、韓国のアーティストが今後継続的な交流を続けていこうと約束されて以来、年1回のペースで韓国と日本の会場を交互にして展示を開催されています。
今年の展示会場は、日本。
2020年夏に行うはずだった予定はコロナ禍の影響で延期を決断され、なんとか1月開催に向けて動いて来られました。
本来なら、韓国のアーティストも日本に滞在し、制作に励まれる作家もいたことでしょう。
しかし、渡航する事は断念せざるを得ない昨今。
日韓のアーティスト達はWeb会議の他に、今年からあえて手紙を使った「往復書簡」でコミュニケーションを重ねてこられました。
アーティストとして、そういったやり取りを残す事がその後の文化交流において大切であると考えられ、スタートした往復書簡。
ルールは、
1.手紙には、ドローイングや小作品も添えること。そして相手国の作家に向けて、手紙は質問形式で終えること
2.受け取った作家は質問の回答を書き、新たな質問を書き添えること
3.相手国のまだ手紙のやり取りを行っていない作家に向けて発送すること
4.この流れをリレー形式で送り合うこと
海を渡り日数をかけて届けられた直筆の手紙。
アナログな方法だから味わえる少しドキドキするその感覚は、今では新鮮にさえ感じられます。
これら手紙のやり取り全てが土間に展示されたのですが、
「自分が出した質問の答えがこう書かれあったんだ」「次の作家に向けた繋がり」を、
展示された事で初めて知る日本の作家さんたち。
展示を見に来て下さったお客様もじっくりと読まれて、今の時代だからこそ面白いという声もありました。
今回出展された作家は日本から14名。韓国から12名。韓国側の作品は、空輸で届けられました。
美や伝統に対する温度差。社会や歴史に対する温度差。芸術に対する温度差。
それら温度差から生みだされる多様な価値観。
和の空間で繰り広げられた、日韓の文化交流をご覧下さいませ。
韓国の作家も来日し、イベントなどを通してお客様との交流を予定されていましたが、代わりに会場には無料でお持ち帰り頂ける、各作家の作品がモチーフになったポストカードと、メッセージカード。そしてポストが用意されました。
作家や展示に向け、メッセージカードに何か感想をその場で書いてポストへ投函!
ご自身のアドレスも記入すると、なんと作家からメールで返信が届くのです。
直接会えなくても、作家とお客様との距離感がグッと近くなりますね。
お客様からの直筆メッセージはきっと、今後の作家活動の励みになると思います。
展示を見て下さったお客様の感想を一部紹介
・心の栄養になった。
・コロナ渦で人と人とのコミュニケーションが来薄になる中「手書き」の手紙とドローイングの往復書簡を見て、感じる事があった
・同じアーティストとして悩んでいたが、出来ない事よりも、何が出来るか。日々制作活動されているかを知り、元気が出ました。
二階縁側に展示された、山本直樹さんによるインスタレーションが1回限り行われました。
山本さんの吊るされた作品は、谷崎潤一郎の小説『春琴抄』の文庫本を使ったもの。
ほどいた小説の1ページに、雁皮紙(がんぴし)という和紙を両面に貼り付け、それら繋ぎ合わせた物に、作者の目元を形どるように線香で穴をあけた作品です。
作者を少しでも感じてほしい。亡くなった方を甦らす「死者の復活」と仰っておられます。
インスタレーションでは吊るした作品を外し、線香であけた穴に砂糖をまぶすと、
下に敷いた板に、谷崎潤一郎の目元が現れるというもの。
この砂糖パフォーマンスは、様々な著名人を対象に約20年前から実施されています。
砂糖は口に入れると幸福感をもたらしエネルギーになりますが、摂りすぎると逆に病気になる。
そんな両義性を持ち、溶けて無くなる儚さがあります。
本来は、使用した砂糖を集めて珈琲などと一緒に体内に入れ、味わってもらう迄がパフォーマンスだそうです。
その時一瞬だけ見える、今を切り取るような作品作り。
コロナ禍の為、今年はパフォーマンスで使った砂糖を体内に入れる行為はせず、残る作品として皆さんにご覧頂ける形になりました。
この日韓展示を通し、
言葉が話せなくても、作品があれば話せるよね。と仰られた作家さんがおられます。
国がかける文化予算の違いや、何処に行っても主要都市には美術館・ギャラリーがある韓国。
アーティストが活動しやすい環境を体感し、この交流をきっかけに韓国でも参加(活動)できる期待を抱かれる作家さんも。
また政治面においては、
ニュースからの狭い情報しか知らなく、メディアに流されていない沢山の情報を知らないまま進むと、大変な事になっていくと心配される作家さんもおられました。
流される情報は、誰が得するものなのか。流せる力があるメディアが改革しないと。と仰る中、
民間交流がどんどん無くなっていく傾向だからこそ作家同士が発信して、この展覧会を続けていく事が大事だと、「日韓藝術通信」の在り方についてもお話して下さいました。
何かを変える事は時間が必要ですから、お互いの違う所を知っていく事が大事。
未来のために、アートを通した対話。
次回の展示会場は韓国側です。その文化交流はすでに始まっています。